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あかきキジンの章9

キジン・・・出る!?

男が目の前に立つ。「ゴー、ゴー」と呼吸音のような音が聞こえる。俺は全身に力を込めて男を睨み付ける。怒り過ぎて涙まで出てきても、男の感情は読み取れない。

 壁にめり込んだ体が今度は壁を越えて部屋の中に転がり、新たな痛みが体全身を襲う。もう指一本動かせない。死ぬ。わけには「いかないんだよ」口から出たのはもう、さっきのように血ではなくなっていた。なぜだ?力強く言葉が俺の体から吐き出された。なんなんだ?言葉だけじゃない。力が噴き出すのは言葉だけじゃない。俺の存在そのものから沸き起こるこの力はなんだ?

男が俺を見下し、俺は男を見上げた。見下しながら見上げた。男に少しだけ驚きの感情が垣間見えた。俺はそれを見てほくそ笑んだ。

 かつて、英雄と呼ばれた男も、今や見る影もなく、年相応の齢105歳の老人の姿になってしまっている。そのことに老人には後悔はない。後悔は、ない。祈神の像に長い間借りていた力を返した。もうこの命が長くない。そのことに、微塵も後悔はない。残るはあと2つ。

 祈神の力は、癒しの力。あかきの肉体は、実はこの人型宇宙人の攻撃により内臓も骨もめちゃくちゃになっていて、死んでいなかったのが奇跡と思えるほどのものだった。この村に着いた時から、すでにこの祈神の恩恵を受けていたのかもしれない。それでも傷は完治じゃない。知れたことか、動ければいい。「て!!!」宇宙人の攻撃は容赦がない。殴られた腕はへし折られ、また治った。痛みも残るし、完治じゃない。生き地獄か?意識もはっきりしている。しかし、このままではなぶり殺しだ。治っても治っても、動けない。このままだと、死ぬ。マジで「このままじゃ・・・死ぬ」

 朝だというのに、この祠は薄暗かった。かえってそれが神聖に思えるほどに。老人は、残り2つの像のうち、奇神の像に触れた。またひとつ、老人から力がなくなり、老人は老人になっていく。それでええ。「それでええよ」

 カチカチカチカチ。ボッ!ボボボ。何の音だ?人型宇宙人の顔が今度こそゆがんだ。けど、俺にはその原因がわからなかった。ただ、妙に背中が熱い。熱い!熱い!!「あついいいいいいいいい」後ろを振り向くと、そこには火の海が広がっていた。転がり込んだ建物が、気が付けば燃えているのだ。なんだこりゃ?奇神の力は、自然の力、のようなもの。奇術だ。時には自然を操り、今のように火を操る。延焼する炎の中から、俺はゆっくり出ていくことにした。人型宇宙人が不思議なものを見るような感情で、俺を見る。マジマジと。それは俺の気持ちだっての。

俺はさするように、人型宇宙人の顔をあおった。焦げる臭いが一瞬にして鼻を衝く。くっせ。宇宙人が後ろに飛び退いたとき、左手に作っておいた氷柱をその胸に放った。グサッと刺さった氷柱は、血の広がりをも凍らせながら、胸の中心で止まった。「あれ?浅いか!?」言った後でやはり殴り飛ばされた。今度は腕は折れたままで変な方向に曲がっている。治らず、襲うのは激痛。吐き出したのは血ではなく、やはりうねり声だ。転がりながら再度祈神化し、腕を治すも完ぺきではない。というか、まだ折れている感じだ。激痛は引けど、痛みは残っている。回数でも決まっているのか?今まで感じていた祈神の力が弱まっていくようだ。奇神化もしてみたが、この力もかなり弱まっている。

 「なんだよ、結局はぬか喜びかよ。・・・この力があれば、勝てると思っていたのに」

 それは楽観的すぎるのかな。なんて思いながら、いかにも現実逃避のようなことが頭によぎると、人型宇宙人はもう俺の目の前に来ていた。こればかりは逃避できないらしい。死ぬも生きるも、この現実からは逃げられない。俺は首根っこ掴まれながらも不敵に笑って見せた。感情を隠さず、照れも恥もプライドもなにもなく、不敵な笑みは大笑いに変わった。面白かった。もう死ぬというその時に面白かった。そう、生きているということが面白かった。生きていること自体が面白かった。これは、遺言だ。俺の高笑いに、キッピーがやっと今俺に起きている緊急事態、絶体絶命の状況に気が付いたようだ。

「ははは、気づくのおせえよ、キッピー」


読んでくれたらありがとう。次もよろしく!

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