あかきキジンの章8
戦ってます
村宇宙人どもは無口で無表情。その眼には悲しげな何かが映っていた。この人は、昨日お世話になった誰かだろうか?その隣もその横も。不意に怒りが込みあがった。村宇宙人の拳が目に飛び込んできた。よけられるか?俺は力なく腕を、自分の顔の前で流した。そっと手を伸ばすように。その腕は村宇宙人の拳もそのまま一緒に運び、連れて行く。俺はその拳とともに体を動かし、村宇宙人の空いたボディーに拳を叩き込んだ。当たるぎりぎりまで力を抜いて、直前に渾身の力を込めて勢いをそのままに。やったことはないが、まるで合気の要領で。やったことはないが。手ごたえは十分にあったし、その通りに村宇宙人も吹き飛んだ。自分でもやりすぎたと思ってしまうほどに。それでも手加減は絶対にできない。手加減ていうのは強きものでなくてはできないからな。今の俺には力がない。相手の力で返すのがやっと。だから、次々と村宇宙人たちが空高く舞っていくことも仕方のないことだ。
あかきたちが戦っている間、この村で唯一宇宙人の手から逃れることができた男がある場所で暗躍していた。それはもちろん、あの齢105歳のこの村の英雄だ。英雄は村の奥地にある祠の前に立っていた。一般の建物と同じぐらいの大きさの祠であるが、まるで何百、何万年もそこにあったような祠は、何人も近寄らせないようなそんな面持ちがある。そんな祠も、英雄の前では優しかった。鍵などない祠の扉を、重たく、それでいてどこか軽々しく引く。英雄がこの扉を開けたのは人生でたったの2回だが、もう2度と開けることはないと知っていた。
その1度目はいつか?それは村が野党に襲われたとき。祠の戸を開けた途端、英雄の瞳に常に漲っていた鋭気が、みるみる失われていく。あかきたちには7~80に見えた風貌も、みるみるうちに年相応に老け込んでいった。祠はただの一部屋。その真ん中に3つの手のひら大の小さな像が置いてある。それ以外は何もない。老人が、ゆっくりと弱弱しくその像の前に忍び寄る。ゆっくりと、震えながら。それでも、像にかざした手には、強く、ましてや震えなど一つも起こっていなかった。
俺とキッピーは今、2手に分かれていた。キッピーはどう思っているか知らないが、俺にはどうにも2分化されてしまったような気がしてならない。なぜなら、全然本命である人型宇宙人の姿が見えないからだ。確実に近くにいる。村宇宙人を操っているのは間違えなく奴だ。奴の考えはきっとこうだ。キッピーは出来れば、不意打ちやなるべく疲れさせ、手負いの時に倒したいはず。そんな時に俺がいて僅かでも邪魔されるのだけは許せないだろう。てことは、今、この俺たちを引きはがした目的はただ一つ。
ものすごい衝撃を二度も続けて叩き付けられ、自身の考えが正しかったと思い知らされた。もう少し早く気が付けたようにも思え、少しだけ後悔した。躱せた自信は皆無だけどな。呼吸は血となり、吐き出される。背中をどこかの家の壁に叩き付けられ、あの男がどこから来るかわかりやすくなってめでたしってところか。呼吸は出来ないが、まだ動けるならラッキーと考えよう。シールドも少しは役に立っているのか?さっさと呼吸をするために血をまき散らした。意外と血は止まらないものだなと妙な関心をしているときに、鮮血の先に、あの男の姿を捕らえた。男はゆっくり歩いてくる。感情はわからないが、きっと怒ってるんだろうな。それ以上に、俺は殺したいが、男にはそれがわかるかな?動けない歯がゆさからか、もしくは殺したい対象が近づいてくるからか・・・全身から震えが止まらない。
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