デスの章13
結末
ヒーローが激痛から息も絶え絶えになってきていた。死を決した顔になってきている。ほかの2人も、もう意を決した。今は、ヒーローを無駄死にさせないことだけに3人の意識が一致してきていた。この宇宙船のデスはこの3人だけじゃない。まだ何人か残っている。ならば、ワレワレに出来ることは?3人が澄んだ顔になっていた。
やるべきことは分かっていた。
「わかった。もう行こう」
生き残る確率はない。その前に、3人が3人とも、今この瞬間に生き残ったことを感謝した。デスたちに神だのなんだのという概念はない。家族や友情なんて概念もない。それに似た感情はあっても、愛情なんて持ち合わせていない。だが、確かにこの3人のデスにはそれらの感情が芽生えていた。変わってきていた。なぜかは分からない。もしかしたら、少しずつだが人間たちと関わってきたのが何かを変えたのかも?地球の生き物と関わってきたことが、少しずつでもデスたちを変えたのかもしれない。それほどに、地球やましてや人間にそんな影響力があるかどうかは分からないが、デスたちは変わったのだ。もともと変わっていたのかも。
人間には、力がある。未来を奪われたキッピーや、友や現実を奪われたあかきを見ていればそう思えてくる。まだ、このデスたちはこの2人に関わっていない。それでも、2人の力は紛れもなく人間の力だ。その力が、確実にデスたちに影響を及ぼしている。
扉を開けた。ぶっ飛ばした。何を血迷ったのか、あの苛立っていたデスが初めに部屋から出ていった。
「な!?」
ヒーローもわが目を疑った。何をするんだ?と言う前にそのデスがヒーローと同じように、そいつは自分の足を撃ちぬいた。チュカカブラが一斉に飛びかかると、足を撃ちぬき、逃げられなくなったデスはすぐに死んだ。
ヒーローはすでに走っていた。感じ取っていたのだ。死んでいったこのデスの意思を。無駄にできない。するわけにはいかない。する、訳がない。できない。出来るわけがない。出来る、訳がなかった。
「おとりは俺がなるって言ったのに」
もう聞こえていないのは分かっていた。行き場をなくした言葉を聞いたのはチュカカブラたちだ。もう、目の前の死体には興味がなかった。引き寄せられるように、ヒーローに飛びつく。
「はは、ばーか」
ヒーローの血が、部屋の中に続いていた。すでに、ヒーローは部屋の中に入っていたのだ。その体に、チュカカブラの獰猛な舌が突き刺さる。
「扉を閉めろー!!!!」
命を、その言葉に込めて、最後の命を叫んだ。その叫び声に込めた。最後に残ったデスが、体ごとぶつかるようにしてその部屋の扉を閉めた。激しい音を立てて閉まった扉は、ヒーローの代わりに断末魔の悲鳴をあげたようだった。
デスに涙は出ない。だけれども、泣きたい気持ちでいっぱいだった。その気持ちも、一瞬にして消えた。なぜなら、何故か残っている1匹のチュカカブラと目が合ってしまったからだ。
何故?
どうして?
言葉にはならなかった。言葉を殺してでも、チュカカブラから隠れようとしていたのだ。もう目が合っていて、それがどれだけ無駄かも分かっていたが。チュカカブラが動いた。動いたと同時に吹き飛び、粉みじんになって死んだ。死んで何もなくなった先に、あの総長と呼ばれていたデスの姿があった。
「これで、終わったな。何もかもが」
安堵の色を見せるも、喜びの感情はなかった。仲間が死に過ぎた。死に過ぎていた。この事態を収拾するための犠牲が大きすぎたのだ。
ヒーローとともに部屋の中に隔離されたチュカカブラは2匹。やつらは再び、前と同じように繁殖し始めた。繁殖しては共食いを繰り返し、共食いをしては繁殖を繰り返した。誰も、当然ながらその部屋には寄り付かない。だけど、その部屋の前で、デスたちは皆、ここにヒーローが眠っていることに祈りを捧げた。この部屋は、本当はすぐにでも破壊したかったのだが、ヒーローのために残された。
あのとき、生き残り扉を閉めたデスは、その近くで死んだもう1人のヒーローと、その前に実験室で死んでいったヒーローたちに祈りを捧げる。総長と呼ばれるデスも、祈りを捧げた。そして口を開き、こう言った。
「さて、また退屈だ」と。
また、永遠と続く退屈な時間が流れ始めた。しんご、あかき、キッピーと戦うまでの、長い、長い退屈な時間が。
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