デスの章8
本当のおまけ
・・・かつて、この宇宙船内には英雄がいた。救世主と言っても過言ではないが、確かに英雄がいた。その後のデスたちの多大な影響を与え、この宇宙船のデスたちが敗北したからとはいえ、あかきやキッピーに協力すると素直に言ったのは、ひとえにその英雄の影響があったからと言える。
英雄の名はない。けど、あのキジンの力をあかきに託した英雄と被ってしまうので、ここではヒーローと呼ぼう。そのヒーローはあのアッシュのようなやつで、その時が来るまでほかの奴と同じように、ただのデスの一人としてしか扱われていなかった。
ひとつだけ、ほかのデスたちと違うところがある。それは、チュカカブラの実験に携わり、初めのチュカカブラを生み出したのはこのヒーローだ。
デスたちは、ひょんなことから昆虫に着目する。それは、キャトルミューティレーションをしている際、その牛にノミが付いていたからだ。このノミ、上空はるか彼方に連れてこられても、その性能、その動きが全く変わらなかったのだ。デスたちにはこれほど好奇心を刺激された生き物はいない。こんなに小さい生き物なのに、なんて生命力。ある種の尊敬に似た感情が芽生えてしまったのだ。
「こんなに小さい生き物なのに、ワレワレにはない力強い生命力を感じる。この生き物こそ、遺伝子操作して実験をする素材としては打って付けではあるまいか?」
と、初めに言ったのもヒーローだ。そのことに誰も反対しなかった。甘く見ていた。暇つぶしとタカを括っていたし、自分たちの科学力を過信しすぎていた。心のどこかで、地球のような原始的な星の生き物に、ワレワレのような高等な生命が万が一でも命を脅かされるなどとは、思えるはずがなかった。考えもつかなかった。なんかあってもどうにかなる。その『何か』が起こった時のプランなど考えるはずもなかった。と、大仰に言ってみたものの、決定の最終的な決め手はやはり、尊敬と好奇心に他ならないが。
だからあんなことになってしまったのだ。デスたちは同じ過ちを繰り返した。すでに過ちを繰り返してしまったことにデスたちはまだ気が付いていない。
「では、この生き物・・・ノミという生き物に対して、どのような実験をするか」
ヒーローの問いかけに、ほかの研究員たちが一斉に首をかしげる。
「おいおい、それでも科学者か?何かないのか?一気に牛の血を全部吸いこむ力をつけさせるとか、一気にもっと空高く飛べるとか、そのまま飛んでいけるように羽根を付けるとかなんでもいいから」
「それじゃあ、あまりにも在り来たりかと思うのですが」
そう言われれば、ヒーローもほかに言う言葉もない。確かに在り来たりだが、そのまま空を飛べるようにするっていうのは別にそこまでおかしなことじゃないだろう。むしろ斬新ではないか?
その日はノミに対する研究は終え、牛のキャトルミューティレーションの続きをした。今回は牛から取り出した部位の一部を、人間を捕まえて食わせてみた。人間は実にうまそうにその肉を頬張る。
「その肉はお前たち人間にとってはうまいのか?」
その人間は突然せき込み、いかにも苦しそうだ。一体どうしたというのか?まさかの食あたりか?もごもご言っている。この人間が何かを言おうと必死になって肉を飲み込もうとしている。しかし、あまりに口の中に入れ込んでいたようで、なかなか飲み込めないでいる。
デスたちもこんな時どうしていいかなんでわからない。それに、デスなんかに今、背中を擦られたら、ますますこの人間は肉をのどに詰まらせて死んでいたのかもしれない。なんとか詰まらさせず、肉を飲み込むことができた。
そして、発した言葉がこれだった。
「水ぐらいおいておけよ。・・・はー、死ぬかと思ったわ。あんたら、人間の言葉、話すことができたのか?びっくりしたわー」
なんだそりゃ?そんなことでこの人間はむせたというのか?大丈夫そうなら先ほどの質問に答えてもらおうか。
「そんなことは聞いてない。ワレワレはその肉がうまいのかと聞いてるんだ」
あ、ああ。と、人間は言われたので持ってきてやった水を少し飲んでから答えた。その感情には恐怖が少しだけ含まれていた。でも、どこか楽しそうなのが不思議だ。
「う・・・うまいよ。うまいに決まってるじゃん。これ牛肉でしょ?あんたらは食べてないのか?というより、食べれないのか?もったいない。実にもったいないねー」
その時の人間の顔が妙にむかついたのはなぜだろう?
「ワレワレはベジタリアンだ。覚えておけ」
と言ったものの、この人間を地上に戻すときには記憶を消しておく。覚えていられるはずがない。
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