キジンとデス・イーターの章5
シュウる
「でも、不思議なもんだな」
「なにが?」
あかきが不思議そうにキッピーを見た。しんごも目を丸くしてキックを見る。が、逆にキッピーが目を丸くさせ2人を見返す。なんなんだそのリアクションは?
「だ・・だって、不思議だろ?こんな時代にこんな3人が訳の分からん模様を作って空見上げて宇宙船を待つ。不思議じゃねー?」
「そ・・・それは不思議だけど・・・今?」
あかきはとっくにそんなこと思っていた。しんごも、初めにタイムスリップを体験した時から、それは感じていた。今さら感ありありだ。キッピーの様子から、それはみんなの緊張をほぐすために言ったとは思えない。至って真面目な感じだ。少し、天然なところがあるようだ。しんごはやれやれと言った感じで、あかきは苦笑い。キッピーはまじめな顔して「なんだよ」と少し不機嫌そうにしている。
そうこうしているうちに、あのしんごが囚われた宇宙船の姿が見えてきて、あかきが初めに指差して叫んだ。
「あ、あれじゃない?」
宇宙船は、空に溶け込むように、音もなく現れた。まるで、空の一部分が宇宙船の形になったかのように。もしくは、雲に色を付けたように、静かにあかきたちの目の前にこつ然と現れた。
「本当に、こんなんで来やがったな」
キッピーがデスのあまりの素直さに、思わず吹き出してしまった。つられてあかきも笑ってしまった。締まらない。けど、まあいいか。でも、しんごだけが笑わず、顔を真っ赤にして怒っていた。それもそのはず、しんごはあの宇宙船に捕まり、(実際はそうでもなかったが)死にかけた経験を持っているのだ。それでも、2人の笑いを止められなかった。
「マジで、もうデスどもがそこまで来てるんだから。まじめにしてくれよ」
笑いながら、しんごの肩をたたくキッピー。ここまで来ると、こいつら本当にすごいなと、怒りを通り越して、しんごはこの能天気バカ2人を改めて尊敬し始めていた。が、キックの次の一言に我が耳を疑った。
「おい、しんご。これ考えた時からずっと思ってた・・・というか、お前にやってもらいたいことがあるんだよなー」
「何?なによ?」
キックが妙ににやにやしている。嫌な予感がした。そして、簡単に、思った通りに嫌な予感は的中する。
「しんご。お前の名前を書いたんだ。だから、あの宇宙船に『俺がしんごだぞ』って拳でも突き上げてアピールしてみろよ。ぜってーウケるぞ」
キックはマジらしい。なんでもいいが、分っていることは、それはウケない。それはウケないだろ。キック!でも、隣のあかきを見て愕然とした。あかきの目は、明らかにキックに賛同しているものだった。おいおい、ウソだろ?絶対にウケないから!!と言おうとする前にあかきに先を越され、言葉がはばまれた。
「それいいね。それいいわ。絶対ウケるよ、しんご」
あかきの表情を見ても、ウソをついているとは思えない。なんなんだこの2人は。寒いの分かってんじゃん。キックも自分を見ている。あかきだって見ている。やるのか?額から汗がにじみ出る。やらなきゃならないようなこの空気。ビシビシ伝わってくるんですけど!ビシビシ伝わってくるんですけど!汗が頬を伝う。分かったよ。やるよ。やりますとも。言葉にはならなくも、その覚悟は2人には伝わった。
「でも、よく考えたらそんなに気張るような事でもないよな」
そうキックが言ったのが、やけにむかついた。それでもやってみたけど、誰にウケるんだ?だって、別に誰もいないしな。やったそばから、あかきとキックはもうあの宇宙船に乗り込んでるし、結局誰も見てないよな?しんごは叫んだ。誰も見てないのに誰にウケるんだーーーー!!!と。その思いは誰にも届かなかったし、そもそも言葉にもならなかった。ふと、横を向くとこのトウモロコシ畑の持ち主がこの様子を呆気に取られて見ているのに気が付いた。そこでしんごは思わず叫んでいた。
「笑ってくれーー!!!」
そんなしんごはさておき、あかきとキッピーが宇宙船の内部に乗り込んだ。作り、構造は初めに乗り込んだ宇宙船と似ている。まずは、何もない部屋に通される。だが、今回はあの時と様子が違っている。それは2人の気持ちのせいだ。あかきは、しんごの話を聞いてから、ここにいるデスたちは、自分の時代で戦ったやつらとは違うと思っていた。殺すほどでもない。と思っている。鬼神の力を使い始めてから、感情までもが鬼神化していくようでどうにも物騒な方向になってしまう。あかきは、一人で苦笑いを浮かべていた。
ただ、キッピーはあかきとはまるで違っていた。もう、デスどもの血肉が必要なほど、禁断症状が出始めていた。あのとき、大型のデスを喰らったのでしばらくは大丈夫かと思っていたが、デスに近づくとやはりだめだ。そのときの感情にも影響されるようだし。気持ちが昂ると、禁断症状も出やすくなることを知った。
ときどき、キッピーは無表情になってしまう。これは、顔が引きつってしまうのを抑えている結果だ。体も小刻みに震えているのをなんとかあかきには隠し、それでも、見えないところでは人格が保てなくなってきていた。一緒にいるから何とか隠せた。キッピーはデスどもを殺したくてうずうずしている。食うことが、食えることが楽しみでしょうがない。
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