あかきキジンの章13
ちょい・・・長いか?いいか!
俺はその雲に指を指した。キッピーも合わせるように手を天高く上げた。その手が光り輝いたとき、俺たちはすでに、宇宙船の中にいた。しかし、今度は止まっている時間は1秒もない。間もなく、奴らの攻撃が始まる。始まれば、意味がない。無意味にするわけにはいかない。「どうするんだ?」キッピーが俺のほうを向いた。俺はすでに奇神化している。キッピーはなるほどとニヤつく。奇神の力をすべてこの手に託し、燃える拳を壁に叩き付けた。ゴンッッッッ!!!!という爆音とともに、宇宙船の壁が吹き飛んだ。
サイレンのような警報音が鳴り響くと、もう奇神化は解けてしまった。が、もうどうでもいい。役目は果たしてくれた。正直言うと、この時代までキジンたちが付いてくるかは賭けだった。しかしそこは神様。いつだろうと関係ない。俺は久々に感謝した。すぐに感動は胸の奥に押しやり、もう意識はあの司令塔の宇宙人に向けている。キッピーも同じだ。気がかりなのは、キッピーの表情に不安が混じっていることだ。
何を不安がっているんだ?俺にはすべてが順調に思えた。能天気すぎだと教えてくれればよかったのに。俺たちは雑魚宇宙人たちに目もくれず、進む。進む。進む。進む。自転車だからすいすい進んでいく。ビリビリと、感覚が研ぎ澄まされ、無意識のうちに鬼神化してしまう。それを何とか抑え込み、最後の扉の前に2人、立っている。前に俺が破壊した扉だ。キッピーに目をやると、今回もどうぞと、くそ紳士ののように扉の前に手を差し出してきた。むかつくが笑えた。早くしろと催促されたので、今回も思いっきり、思いっきり扉をぶっ壊してやった。そこで見たものに俺は驚愕した。キッピーの不安はこれだったのか。わかっていたんだ。なのになんで、俺はこの当たり前なことに気が付かなかったんだ?
司令塔の宇宙人の隣に、あの人型宇宙人が立っていた。が、すでにその場から消え、今回もまた、二人仲良く吹き飛ばされていた。人型宇宙人は完全な力を持っていた。またもシールドが(少しは)役に立ったが、今度はもう過去に逃げることはできない。すかさず祈神化し、俺は自分とキッピーの傷を治すも、祈神の力もこれで終わってしまった。だけど、まあいい。俺は気絶したふりをして人型宇宙人が近づくのを待った。奴は、自分の力を誇示するかのようにゆっくりと、じれったく歩いてくる。にやけた顔が近づく。気絶したふりしてるからよく見えないが。過去同様、こいつは俺の首を掴んできた。俺とキッピーが同時に笑った。こうまで予想通りとは。今回も俺は瞬間、鬼神化し、前回同様にその腕を切り飛ばす。放物線を描きながら落ちる腕が地面にたどり着く前に、俺は叫んだ。
「キッピー!!!!!お前は今のうちに司令塔を殺ってくれ!!!!」
キッピーは俺の声が届く前に行動していた。言うまでもなかったことだったのだ。もう、キッピーから見を外した。人型宇宙人が切り飛ばされているのにその腕など気にした様子もないまま動き出していたからだ。正確には、すでに残った左手で殴り飛ばされていた。その左はかろうじて防ぎはしたが、壁に叩きつけられた衝撃を殺すことはできなかった。俺の体が数秒、金縛りにあったように痺れて止まってしまった。その瞬は時間で測れないほど儚い時間だったが、次は蹴り飛ばされ、転がっていた。鬼神化は体も強固なものにしてくれるが、やはり・・・地獄だ。骨折こそしていないものの、もうボロボロだった。それでも、なぜか俺は次の攻撃を飛び跳ねてまでも躱していた。それどころか、飛び跳ねたときに刀を伸ばしていたらしく、人型宇宙人の胸に禍々しい妖獣の爪痕のような刀傷が残る。血をまき散らしながらも、ひるんだ様子すら見せず、人型宇宙人は追撃してくる。でも、右腕と胸の斬り傷による大量出血により、人型宇宙人の動きはいくらか鈍くなってきている。反撃開始だ。と言いたいところだが、こっちにも問題が発生していた。キッピーと目があった。鬼神の力が尽き掛けているのだ。悟られるわけにはいかないと思いつつも、隻腕を振り回すだけのような人型宇宙人の攻撃を馬鹿みたいにまともに食らい、壁にめり込んだ体からは刀が消えてしまっていたので、もうばれた。
意識が飛んだ。飛んだ俺を呼ぶ声があった。誰だと考えることもする前に、目を見開き、俺は確かめた。「生きてるのか?」
「ああ、生きてるよ、よくやったな。すごかったぜ、あかき」
キッピーの声が聞こえるも、姿が見えない。見えるのは人型宇宙人の体だけ。その中央部・・・人でいう心臓のところからなにやら伸びてくるものがあった。どこかで見たことがあるような・・・それは人間の手の形をしたものだった。まるで機械のような手・・・つまりキッピーの右腕だ。勢いが良すぎたらしく、あまり血が出ていない。しかし、見た目の残酷さは薄くとも、人型宇宙人は体が折れるほど反り、その腕に持ち上げられるように力を亡くし、絶命していた。
「すでに、2対1になってたんだぜ。死んでから気が付いちゃ、そりゃ死ぬわ」
キッピーが重そうに、それでいて軽々しくその人型宇宙人を無造作に投げ捨て、高笑いをした。汚さもあるし、醜さも感じられた。けど、俺もいつの間にか一緒になって大笑いをしていた。数秒笑った後、キッピーがしれっと言ったことで、俺の笑いも凍りつく。
「あと数分で未来を変えられなかったからよかったな」
「???どういうことだ???」
「あれ、言ってなかったか?」
キッピーが考えるように、思い出すように上を見る。そんなことはどうでもいいんだよ。
「つまり、あと少しで俺たちが過去に戻った時間になるということは、俺たちは強制的に過去に送り戻されてしまうところだったんだ。過去の俺たちに出会ってしまうからな。そうなれば、もういくら未来を変えようとこの時間に戻っても、変えられなかったという真実だけが残ってしまい、何もできないまま過去に戻る。あとは、俺たちが初めに過去に行った直後の未来に戻るほかなくなってしまっていたんだよ」
俺は、考えを整理しながら、聞いた。尋ねた。
「つまり、これはラッキーってことか?」
キッピーは今までにない笑顔で答えた。「100%な」その笑顔は一応、こいつも人間だったんだな、と思い出せるほど、いや、再確認できるには十分だった。もはや怒りもない。怒りなどそもそもない。
「・・・キッピー。ありがとう」
照れはなかった。本当に感謝していた。でも、キッピーは照れ臭そうに答えた。本当に、こいつはこんな殺し合いを続けているのか?と思えるほどに人間臭い奴だな。
「やめてくれよ、はずい。そんなことはどうでもいいから、取り敢えず、お前を先に現代に帰すから。ここで一旦お別れだ」
そういうと俺に有無も言わせずに、俺の体が光に包まれ始めていた。「お・・・おい!?」
キッピーは少しだけ申し訳なさそうにしながら、最後に俺に言った。
「俺には、もう少しやることがあるんだ。それは俺にしかできないことなんだ。だから、な」
苦笑いにも似た笑顔が光とともに消えて、気が付くと俺はどこかに座っていた。イヤホンから漏れる音と、あまりにもまぶしい青空で、ここが渋谷のモヤイ像の前だと気が付くのにいくらか時間がかかった。俺は慌ててイヤホンを取り、周りを確認した後、時計を確認した。あと1分もしたら12時になる。本当に戻ってきたらしい。俺は安堵しながらも、次第に湧いてくる悔しさに、拳を思いっきり握りしめるほどの怒りを覚えた。俺は、外されたのだ。あの戦いから、キッピーに。気が付くと、涙が溢れてきたが、すぐにそれも止まった。いや、止めていた。あと数秒で12時になる。俺たちは確かに、未来を変えた。しかし、12時になるまで、安堵することはできなかった。あと数秒。あと数秒が止まっちまったように長い。人ごみの中に、友達たちの姿を確認できた。あと、ほんの数秒後に、俺に声をかけてくるのだろう。あいつらが俺に気が付いた。
「よう、あかき。相変わらずもういるな」
手を振りながら近づいてくる友たちの間を、あの男が割って入ってこう言い放つ。
「悪いな。こいつはこれから忙しいんだよ。遊ぶのはまた今度にしな」
突然の無礼者に戸惑う友たち。その男の格好はいかにも胡散臭い、一見コスプレをしていて(後から聞いた話だが、本当にコスプレしているらしい)、悲しみにも喜びにも似た表情を浮かべている男。そんな男に友達たちは何も言えずにいる。俺はそんな変人に向かって手を振った。友たちは一斉に「ええええええええ」と声を揃えて叫んでいた。無理もない。ただ、俺までも変人にみられそうな感じがして少し気が引けるな。などと思っているとキッピーが「早くしろよ」と催促してきた。俺はこれから待っているのは過酷な戦いだということも、死んでしまうことになるかもしれないこともわかっていた。しかも戦いの先に守り、勝ち取らなくてはならないのは未来だということも分かっていた。だから、俺には不安も何もなかった。全身に力が沸き起こる。だれでもない、俺の力だ。誰のでもなく、これは俺の力だ。
「何にやけてんだよ」とキッピーが言うので俺は言ってやった。
「今から勝ちに行くんだ。笑うしかないだろ」
キッピーは目を丸めながらも大笑いし、「確かに」と再び大笑いをした。
俺も大笑いをしていた。言い切ったのが恥ずかしくも頼もしくもあった。
まだ、俺たちは渋谷にいる。渋谷のど真ん中だ。そう、旅はここからだ。
こんなにも読んでくれてる人がいたら、ほんとありがとう。次もよろしく!
まだ続きます。




