あかきキジンの章12
帰還のはず
「あの日、俺には確かにここにいるキジンたちの力を借りられた。だからまだ生きている。息をすることができるんだ。1日しか会っていない老人に、俺はもう感謝することしかできない。・・・与一。俺はお前に謝らないと言っておく。ただ、ありがとうとだけ言っておく」
与一は複雑な顔をしていた。キッピーは退屈そうにそっぽを向き、表情を隠している。俺は流れ出る涙を隠すのもやめた。隠してもこんな狭い場所だ。意味がないし、どうせ止まらない。止められない。与一が口を開けた。
「あなたがたの事情はキッピー殿に聞きました。未来・・・というところから来たことも。その未来が今、危険なことになっていることも。わしらには何もできないかもしれませんが、この伝説はその、未来という時代まで語り継ぎ、かならずこの村を救っていただいた恩を返させていただきます」
俺はうなずいた。キッピーがしびれを切らしたように言う。
「もう行くぞ。お前には大した時間がたっていないかもしれないが、俺は3日も待ったんだ。早くデスどもを殺したい」
いかにも暇していたアピールをキッピーがしているが、後で聞いた話では、この3日間キッピーは女は抱くは、村からは英雄として祭られ、さんざんいい思いをしたらしい。そんなことはつゆ知らず、俺は申し訳ないと思い、キッピーに従った。
「行こう。未来へ帰ろう」
与一が頭を下げる。俺は与一に手を振り、キッピーにうなずく。キッピーは早くしたいと言っておきながらまだ行こうとしない。俺は困惑したが、与一はもっと困った感じになっている。気持ちはわかる。だが、そのあと言った言葉に俺は戦慄いた。キッピーはさらっとこう言った。
「未来に戻るのはいいが、ただ戻るんじゃーなくて、あの破壊が行われる前に戻ってあれを阻止する。ってのはどうだ?」
「そ・・・そんなことができるのか?」
そんな考えはなかっただけに、あきらめていただけに、俺は混乱していた。キッピーの肩にすがり、また泣いていた。キッピーはため息をつき、呆れた顔をする。呆れてはいるがうれしそうだ。「ただ、問題があるんだが」と続けようとしたキッピーを俺は制す。問題なんてどうでもいい。どうでもいいんだ。問題はない。俺には、キジンの力があるのだから。
「変えてやる」
「あ?」
決意した俺に、キッピーが少し戸惑った。俺は気にせず、決意した言葉を形にして具現化した。しなくてはならなかった。
「必ず未来を変えてやる!!!変えてやるんだよ!!!」
あとは言葉にして言葉にならなかった。ただのうめき声となり、消えた。散らばっていた感情、思い、決意を、一つにして、握りしめていた。それをキッピーにも握らせた。かなり嫌がっていたが。
「そうと決まれば早速行くぞ」
今度こそ、本当に与一と別れ、俺たちは光の中に包まれる。この時代に来た時と同じだ。何百年の旅が一瞬で着く。気が付けば、もう懐かしいにおいのする場所にたどり着いた。が、「な・・・なんで?」俺の体は相変わらず重たい。困惑の表情でキッピーを見ると、少し、悲しげに俯いた。
「これが、さっき言いかけた問題だ。・・・あかきにとっては現代でも、少しでも過去なら力は戻らない。これでも、未来を変えられると思うか?無理と思うなら・・・」
キッピーの言葉を再び俺は遮った。思う思わないではない。やるやらないではない。そんな問題じゃない。やらねば、何も変えられない。やらねば、ならない。キッピーはため息とも似た笑いをついた。キッピーは言う。あの瞬間から今はたったの10分前。だが、やつらの宇宙船にはまだ乗り込めないらしい。「どうしてだ!?」と叫べば、キッピーはある程度近づかなければ乗り込む装置も働かないと答えた。しかも、まだ肉眼では宇宙船の存在すら確認できない。大体の場所はわかる。けどそれだけじゃだめだ。俺たちは渋谷の街を走り回る。途中で置いてあった自転車を拝借した。これで移動がいくらか速くなった。攻撃が始まる時間が刻一刻と迫る。ただし、いくら宇宙船とはいえ、肉眼で見えるほどの距離にならないと攻撃してこないらしい。と言うか、実際にその距離で攻撃してきたし、その距離で攻撃してきたという真実は変わらない。そこまでの歴史はその通りに動く。今それに抗っているのは俺たちだけだ。その事実も変わらない。空の様子が変わったことに気が付いたのはその瞬間だった。雲が揺れた。確かに揺れたのを見た。
「キッピー、あそこだ!!!」
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