表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/61

あかきキジンの章12

帰還のはず

 「あの日、俺には確かにここにいるキジンたちの力を借りられた。だからまだ生きている。息をすることができるんだ。1日しか会っていない老人に、俺はもう感謝することしかできない。・・・与一。俺はお前に謝らないと言っておく。ただ、ありがとうとだけ言っておく」

 与一は複雑な顔をしていた。キッピーは退屈そうにそっぽを向き、表情を隠している。俺は流れ出る涙を隠すのもやめた。隠してもこんな狭い場所だ。意味がないし、どうせ止まらない。止められない。与一が口を開けた。

「あなたがたの事情はキッピー殿に聞きました。未来・・・というところから来たことも。その未来が今、危険なことになっていることも。わしらには何もできないかもしれませんが、この伝説はその、未来という時代まで語り継ぎ、かならずこの村を救っていただいた恩を返させていただきます」

俺はうなずいた。キッピーがしびれを切らしたように言う。

「もう行くぞ。お前には大した時間がたっていないかもしれないが、俺は3日も待ったんだ。早くデスどもを殺したい」

いかにも暇していたアピールをキッピーがしているが、後で聞いた話では、この3日間キッピーは女は抱くは、村からは英雄として祭られ、さんざんいい思いをしたらしい。そんなことはつゆ知らず、俺は申し訳ないと思い、キッピーに従った。

「行こう。未来へ帰ろう」

与一が頭を下げる。俺は与一に手を振り、キッピーにうなずく。キッピーは早くしたいと言っておきながらまだ行こうとしない。俺は困惑したが、与一はもっと困った感じになっている。気持ちはわかる。だが、そのあと言った言葉に俺は戦慄いた。キッピーはさらっとこう言った。

「未来に戻るのはいいが、ただ戻るんじゃーなくて、あの破壊が行われる前に戻ってあれを阻止する。ってのはどうだ?」

「そ・・・そんなことができるのか?」

そんな考えはなかっただけに、あきらめていただけに、俺は混乱していた。キッピーの肩にすがり、また泣いていた。キッピーはため息をつき、呆れた顔をする。呆れてはいるがうれしそうだ。「ただ、問題があるんだが」と続けようとしたキッピーを俺は制す。問題なんてどうでもいい。どうでもいいんだ。問題はない。俺には、キジンの力があるのだから。

「変えてやる」

「あ?」

決意した俺に、キッピーが少し戸惑った。俺は気にせず、決意した言葉を形にして具現化した。しなくてはならなかった。

「必ず未来を変えてやる!!!変えてやるんだよ!!!」

あとは言葉にして言葉にならなかった。ただのうめき声となり、消えた。散らばっていた感情、思い、決意を、一つにして、握りしめていた。それをキッピーにも握らせた。かなり嫌がっていたが。

「そうと決まれば早速行くぞ」

今度こそ、本当に与一と別れ、俺たちは光の中に包まれる。この時代に来た時と同じだ。何百年の旅が一瞬で着く。気が付けば、もう懐かしいにおいのする場所にたどり着いた。が、「な・・・なんで?」俺の体は相変わらず重たい。困惑の表情でキッピーを見ると、少し、悲しげに俯いた。

「これが、さっき言いかけた問題だ。・・・あかきにとっては現代でも、少しでも過去なら力は戻らない。これでも、未来を変えられると思うか?無理と思うなら・・・」

キッピーの言葉を再び俺は遮った。思う思わないではない。やるやらないではない。そんな問題じゃない。やらねば、何も変えられない。やらねば、ならない。キッピーはため息とも似た笑いをついた。キッピーは言う。あの瞬間から今はたったの10分前。だが、やつらの宇宙船にはまだ乗り込めないらしい。「どうしてだ!?」と叫べば、キッピーはある程度近づかなければ乗り込む装置も働かないと答えた。しかも、まだ肉眼では宇宙船の存在すら確認できない。大体の場所はわかる。けどそれだけじゃだめだ。俺たちは渋谷の街を走り回る。途中で置いてあった自転車を拝借した。これで移動がいくらか速くなった。攻撃が始まる時間が刻一刻と迫る。ただし、いくら宇宙船とはいえ、肉眼で見えるほどの距離にならないと攻撃してこないらしい。と言うか、実際にその距離で攻撃してきたし、その距離で攻撃してきたという真実は変わらない。そこまでの歴史はその通りに動く。今それに抗っているのは俺たちだけだ。その事実も変わらない。空の様子が変わったことに気が付いたのはその瞬間だった。雲が揺れた。確かに揺れたのを見た。

「キッピー、あそこだ!!!」


・・・・・・・読んでくれたらありがとう。次もよろしく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ