あかきキジンの章10
にゅーキャラ
グサ。・・・グサ?まただ。今度は何の音だ?音の後に生ぬるい液体が俺にかかった。誰も刃物なんか持っていない。俺以外は。・・・???この刀はどこから来た?その頃、俺の知らないところで一人の老人が死んだ。誰にも看取られず、誰にも気が付かれず、しかし、その老人は人生を全うし、満足の死を迎えることができた。誰にも看取られず、しかし、老人はほくそ笑むように安らぎの中で死んだ。若者に自分の未来も託して死ねたのだ。誰にも気が付かれず、眠った。最後の像は鬼神の像だ。鬼神は老人の願いを聞いたのだ。
自然と力が湧いてくる。キッピーがこちらに向かってきているのが見えた。刀は、さっき突き立てた氷柱の部分に突き刺さっていた。狙ったわけではないが、効果的だったと言える。人型宇宙人は俺の首を離せないでいる。鮮血が吹き出し、苦しみの感情にゆがめていても、俺の体を離すわけにはいかなかった。離せば力などいらず、俺の体重だけで体がそのまま半分ずつになってしまうことを理解したようだ。俺は流れる動きで、刀を抜きながらその首を掴むうっとうしい左腕を跳ね飛ばした。今度こそ、人型宇宙人の顔がゆがむ。その中に、少しの安らぎが見えたのは気のせいだ。俺は、手が急に離れたのでバランスを崩し、地面に膝をついたが、座るはずもなく、体ごと刀を振り上げた。人型宇宙人の左腕も切り飛ばしてからわずか1秒足らずの間。血にまみれながら、もう手からは刀は消えていた。
今さら駆けつけてきたキッピーが、驚きながら俺の顔をまじまじと覗き込み、「よく、殺せたな」と言った。俺は疲れきった顔で答える。「殺したかったからな」と。疲れ切っていたのは顔だけではないようで、俺は後ろに倒れ、そのままねむった。らしい。記憶がない。ねむちまったんだからな。
夢の中で、俺は急に光に包まれて消えた男のことを思い出していた。男の名前は知らない。男は、普通の少年だった。少年と言ってももう17歳になっていた。男はいつも何かにイラついていた。家族には無愛想。高校でも友達もいなく、喧嘩ばかりしていた。味方は誰もいないと思い込んでいた。
空っぽな青春。それでも男が生きていたのは、それでも何かがあると思っていたからだ。人生と言う戦いの果てに、何があるかなんて知らない。俺はまだ、そこにはたどり着いていないからだ。そんな17歳。そんな高校時代。男は今日も喧嘩に負けていた。喧嘩自体は、そんなに強くなかった。強くもないのに噛みついてくる。男はみんなから嘲笑われていた。それでも、男はそれでも戦っていた。
喧嘩に負けて、ぼこぼこにされても男は歩いて家路に帰ろうとしていた。もっとも、この男には家という家もなく、彼女の家に泊まり歩いていた。そのうちの一人の家がここ渋谷にあった。男には安らぎも必要だったのだ。男を避けて、周りの人々が歩いていく。誰も関わりたくなかったし、男もそんなこと気にしていなかったからどうでもよかった。しかし、男の肩に、ぶつかった奴がいた。男はカッとなり、ぶつかった奴のほうに振り返った。相手も同時に振り向いていたが、相手の顔を確認する前に、男から渋谷の景色が消えていた。
「おい!なんなんだよ!!ここどこなんだよ!!!」
周りを見渡すも、どこだかわからない。どこかの手術室のような感じがする部屋の真ん中の、台の上に寝かされていた。光が付くと、周りには見たことのない生き物がいた。あかきやキッピーには忘れられないその風貌は、デスだ。男はデスに誘拐されたのだ。なぜこの男が選ばれたのか?それは、あの人数の中で、一人孤立して歩いていたからだ。ただそれだけの理由。人間なら誰でもよかった。
「お前ら、なんなんだよ!?」
デスたちは何も答えない。人間の言葉が分からないからだ。そんなことを知らない男はますます頭に来ていた。デスたちには男の感情なんてどうでもよかった。男を誘拐したのは男に実験体になってもらうためだった。なので、本当に誰でもよかったし、どうでもよかった。
これから男は遺伝子操作をされてあの人型宇宙人にさせられるのだが、そのときに麻酔のようなものは一切なく、男は死ぬほどの激痛を味あわされた。デスにとっては、この男が死のうが死ままいがどうでもよかった。死んだらまた変えればいい。人間を変えればいいだけのこと。それでも、男は耐えた。これから人間じゃなくなり、生きていることを後悔することになることも分かっていた。予感でわかっていた。けど、生き抜いた。終わった頃には、もう人間ではなくなっていた。心だけではなく、容姿も何もかも変わってしまっていた。肉体が持っ力は、地球上の生物の能力をはるかに超えていた。デスにとっても、実験は成功していた。その肉体の持つ能力だけで、十分に思えたが、念のため、デスたちはもう一つ、この男に能力を授けることにした。
人間の遺伝子を操れる能力。相手が人間である以上、意のままに操れる能力だ。これは同じ遺伝子をもつ人間の男を遺伝子操作したから出来るのであり、ほかの生き物じゃできない。同種だから出来るのだ。だから、人間を選んだのだ。そして、この男が選ばれたのは本当にたまたまの偶然だった。
このデスたちは、初めから人間を攻撃・・・いや違うな。地球そのものに宣戦布告をしてきたのだ。たまたま、本当にたまたま日本の上空に停滞していた。運が悪かったのだ。それが誰に言えることか?間違えなくデスどもだ。そのことに、デスはまだ気が付いていない。何もかもが順調に思えていた。デスどもはうぬぼれていた。地球の技術力、戦力、統率力・・・どれを見てもデスどもに負ける要素があるとは思えなかったのだろう。ただ、運が悪かった。そこに、まさか、キジンとデス・イーターがいるなんて思ってもみなかっただろう。
誰か、本当に読んでくれたらありがとう。次もよろしく!




