あかきキジンの章
ども!
今日も、いつもと全く同じと思える、いつものありふれた日常のはずだった。空は、いつものように雲もなく、ただただ青かった。あの宇宙までもが見えてくるような、そんな蒼い空だった。今日も俺は、いつものように友達3人と渋谷に服を買いに出かけていた。それはまるで先週の続きのような他愛もない1日のはずだった。
俺の名前はあかき雄大。今月めでたく高校を卒業し、4月から大学に行く予定。今日遊ぶ友達は俺とは違う大学に行くが、多分、暇があればこうしてまた遊びに行くのだろう。
渋谷駅に12時に待ち合わせ。待ち合わせ場所はモヤイ像の前。12時の待ち合わせもいつも通り。そう、このいつも通りの時間を俺らが12時に決めたことが、俺のこれからの運命を決定づけていた。本当はだいぶ前から、もしかしたら決まっていたのかもしれない。
「よ、雄大」
友達に名前を呼ばれるも、俺はイヤホンをしていて気が付かなかった。ため息交じりに聞こえた2度目の「雄大」の呼びかけでやっと気がつき、顔を上げた。そこで目に映ったのはいつもの友じゃなかった。いつの間にか、闇に世界が包まれていた。何が起こった?と思う間もなく、鼓膜を切り裂くような爆発音。けど、本当に何が起こっているのかわからなかった。俺は、瞬きもせず、しっかりと前を見ていた。確かに見ていたはずだった。それなのに、爆発音とともに、気が付くという間もなく、目の前に男(男かどうかも分からないが、シルエットから男に思えた)が立っている。
その、死に逆らう生が全身から迸る一人の男。光に包まれていた男。どこから現れたのか、いつの間にか男が俺の前に立ち、闇に包まれた大空を睨み付けていた。まるで、何が起こったのかを隠してくれているように、俺の視界を占拠していた。その背中からは怒りとかすかな震えが読み取れた。その震え方が、こんな状況にもかかわらず、まるで笑っているような震え方をするように感じたことが奇妙であり、不思議だった。
この男の眼には何が映っているのだろう?混乱と妙な冷静さの2つが俺の中にあった。今、目の前で何が起こっているのかもわからない。ただ、男の隙間から、かすかに街の・・・人の・・・友の死が読み取れる。何が起これば友が死ぬというのだ?友は本当に死んだのか?そもそもなぜ、人々は、街は死んだんだ?なぜ、どうして俺は生きてる?ここはどこだ?本当に渋谷か?ゆめか?矢継ぎ早に答えのない疑問が俺の脳裏に浮かんでは、言葉にもならないまま、消えていく。いや、ひたすら大きくなり、混じり合い、俺はますます混乱していく。その混乱の中で1つ、現実に言葉が聞こえた。
「すまなかった」
目の前の男が何かを言ったことに気が付いたのは、しばらくしてだ。もしかしたらまばたきすらしてないほどの微かな時間だったのかもしれないが、俺には無限にも感じ、いつのまにか現実となっていた。男は俺の言葉を待たずに続ける。多分、待ってはいなかっただろうが。現実感のない俺は、その声を聴いて、やっぱり男だったんだと思った。
「本当は、ここにいる者全員を助けたかったんだが、範囲が広すぎた。たまたま・・・だ。お前だけを助けられたのはたまたまだ」
そうですか・・・。と言いたかったが俺から出てきたのはそんな言葉ではなく涙だった。何も答えられるわけもなく、ただ、とめどなく涙が出るだけで、それを止めることもできない。俺が唯一出せた答えがこれだ。それと理解。やっぱりみんな死んだんだ。そう思うともう何もない。せっかく助かった命も、この涙とともに生が流れ出てしまう。そんな俺の気持ちを、男は分りきっているように、そして、諭すように言葉を加えた。
「唐突な話だが、今起きているのは現実であり、だが現在ではない。俺は未来から来たキッピーと言う。奴らを未来から追ってきた。何のことかわからないがそういうことだ。つまり、お前にはどうすることもできないから、早くここから逃げろ」
この男は何を言ってる?未来?やつら?早く逃げろ?・・・どこに?・・・どうやって逃げる?相変わらず涙は止まらず、言葉も出ないが、口が勝手に笑い出していた。どこにどうやって逃げろって言うんだ?
「に・・・逃げ場なんてないだろ」
やっと出た言葉に、キッピーという男は振り返りもせず答える。
「これをやる」
キッピーは後ろに目があるかのようなコントロールで俺に何かを投げた。自然と手に収まったそれは、うっすらと光を放っている。これはなんだ?
「それはさっき、俺とお前を守ってくれたシールドだ。奴らの攻撃を多少なら防いでくれるだろう。それでも直撃したら、多分死ぬけどな」
「おい。やつら・・・やつらってなんなんだ!!!????」
ほかにもいろいろな疑問はある。だが一番の疑問はそれだ。奴らとはなんなんだ、何者なんだ?こんなことを・・・こんなことをしたのは奴らと呼ばれる奴らのせいのか?この状況はなんだ?なぜみんな死んだ?こ・・・殺された?
「お・・・おしえてくれ。キッピー」
「今はそんな暇はない」
キッピーはバッサリと答える。そして、キッピーの視線はさらに上に向かい、俺もつられて上を見た。そこにはやはり、空を覆い尽くすほどの闇が広がっていた。その間に、何かが垣間見えた。
「ひ・・・飛行機?」
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