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「咲耶の黄昏」

今回は咲耶さん視点のお話です。

視界に映るのは、笑っている顔に霧がかかっている一組の男女。

あぁ、やっぱり見てしまった。

動かない身体を確かめると、ぼんやりとそう思考する。


唯一動かせる瞳だけを動かし、周りの景色を確かめれば間違いない。

『事故の記憶』だ。

証拠に私の小さな手にはまだ、汚れていない真新しいぬいぐるみが握られている。


完全に脳に焼き刻まれた記憶は当時の道路を完全に再現し、エンジンの振動すらも感じさせていた。

達観したような表情で前を眺め続けていた私の視界には、ゆらゆらと揺れるトラックが見え始める。

そのトラックの運転席には忘れる事が無い男の寝顔。


もう、それからは何度も見た予定調和だった。

中央分離帯を乗り越えて来るトラック、それを避けようとする急旋回する私が乗る車、しかし避けきれずに車は横から押し潰されていく。

ママが私を抱え、目の前に跳んで来るのは霞が消えはっきりと分かる半分がグシャリと潰れたパパの首、そして自分の頭から垂れてくる赤い生暖かい生命の水。

それは私の見開いた目に入り、視界を真っ赤に染めていった。

真っ赤な世界の中で自分を守っていた筈のママの身体の熱が失われ、冷たくなっていく。


そしてその世界から色が失われ、視界に映るのはパパとママの死体。

潰れた眼球、見える脳髄、赤黒いピンク色の肉、白い骨、消えていく温かさ。

それを見ても私の心には何も響かない。

既に私はこの人達が死んだ事を、「消えた事」を理解しているから。


真に恐怖しているのはこれから見るだろう光景。


再び得た温かみを感じて後ろを見れば「あの時」と同じように涙を流した「雄一叔父さん」が私を後ろから抱きしめていた。

心臓が高鳴る。

抱きしめられている事への隠し切れない嬉しさとこれから起こる事への恐怖と絶望に。


世界は逆再生をするように巻き戻っていく。

私は再び車へと、パパとママの姿は消え、代わりに車を運転するのは「お父さん」。


霞がかった物ではない、しっかりとした顔で私に向けて笑顔を浮かべている。

私の身体も幼い時のものではなく、今の物。


恐怖に歯がガチガチと音をたてているのが分かる。

必死に覚めろ、覚めろ、願い続けた。

この人だけは取らないで、と必死に「自分」に願う。


しかし、残酷にも再びトラックは対抗車線を走ってくる。

声無き悲鳴が口から上がるが声だけでは何も変わらない。

そして同じように再び乗り越えてくる車。

揺れる車内、シートベルトを外して私を再び抱きしめて「ママ」のように守ろうとする「お父さん」。

身体は動かない、ただスローモーションで動く映像を眺めているだけ。

「パパ」と同じように跳ぶ首、冷えていく身体。

そして、「両親」と同じように薄れていくその首と胴体を私は眺めている事しか出来なかった。


それを掴もうと必死に闇の中に手を伸ばす。

全てを諦めて願ったこの人だけは。

だが、誰もその手を掴んではくれない。

何も無い虚空の中で私は一人ぼっちだった。





――ドクッ。


「…………ッ!?」


目が覚める。

その瞬間に感じた暖かい「人」の感触。


「…………」


確かめようと、抱き寄せる。

すると直ぐに身体で感じるドクッ、ドクッと脈打つ生命の鼓動。

落ち着いて少しだけ身体を離して見ればちゃんと首が繋がり、グー、グーと結構煩いいびきをかいて熟睡する「お父さん」の姿がそこにはあった。

口からはうっすらと涎も落ちている。


「……っ……ふふっ」


思わず笑いが出てしまった。

なんといえばいいのか……そう一瞬だが馬鹿らしくなってしまったのだ。

自己分析だが、私は極端な悲観主義者。

そして胸の内には叶う事が絶対に無い夢に対する諦念と絶望を抱えている。

それがクラスメイト達に言わせれば大人な雰囲気らしいけど。


そんな私だけど、このお父さんの寝顔には思わず気が抜けてしまったのだ。

私の危惧を何のその、一般に言えば阿呆面を浮かべて気持ち良さそうに私を抱きしめて寝ているお父さんを見ると、悩んでいる自分が馬鹿らしく思えてきてしまった。

これが一人だったら、私は未だにウジウジと膝でも抱えて自室かトイレに篭り、昏さを出し続けていただろう。

それで戻っても、お父さんや級友達を引かせるような黄昏た雰囲気を出していたに違いない。


「……ありがとうございます、お父さん」


私はそう言った後に、体温を確かめるように一度だけ抱きしめるとベッドから抜け出していった。

本当はしたいけど出来ない事に対して、一抹の未練を残しながら



禁忌のナルコティック  第0段階  「咲耶の黄昏」



「…………」


家の家事を一通り終え、お父さんと朝食を食べ、出勤を見送ってから、私も自分の学校へと向かっていた。


乗っている電車の中で手元に隠して見る、新聞に入っていたチラシ。

基本的に買い溜めはせずに必要分を帰りに商店街やスーパーで買うので今のうちに見ておかなくてはいけない。

これを学校で広げるのは出来ないのだ。

公立中学時代は無神経にもそれでお父さんの事を非難する教師が現われた。

子供に家事を強制させていると言いがかりをつけてきたのだ。

幾ら、私が自主的にやっていると言ってもまるで信用せず、どうやって知ったのか知れないが事故にも変な同情をして、忙しいお父さんを平日に学校に呼び出すなんて事をやらかしてくれた。

お父さんもお父さんで言いがかりなのに、教師の自己満足のような説教を黙って聴くという事態。

それ以来、誰にも自分の家庭の事情は他人には知らせず、見せないようにしている。


学校がある駅に着き、チラシを仕舞い歩いていこうとすると後ろから声をかけられた。


「お早う、咲耶さん!」


振り向けば、犬の耳とブンブンと振られる尻尾が幻視できてしまいそうな小柄な女子。

高校からの知人である二宮桜の姿があった。

肩まである地毛の茶色の髪はクルンとパーマがかかり、ふわふわと揺れている。

目は大きく、少し垂れていて本人のみが知らない事だけどあだ名がチワワである事が納得いってしまう容姿。


「お早う、二宮さん」


後ろから小走りで隣に来た彼女にそう返答をする。


「早速で悪いんだけど咲耶さん、お願いがあるんだけど……いい?」


私の前に出た二宮さんは両手を合わせて、上目遣いになって問う。

なんというか、昔にテレビでやっていたCMを思い出してしまった。

消費者金融のCMで父親が子犬チワワに見つめられて迷うという、あのCM。

彼女の姿がそれに見えて仕方が無い。


「いいですけど、一体何を?」

「勉強を教えて欲しいの、今日の三限の数学に出された宿題がどうしても分からなくて」


頭の中で数学の課題について思い出す、授業中に終わらせてしまったが故に家ではやっていない。

今日の三限というか数学Ⅱだから……あぁ、たぶんあの微積のひっかけ問題。

二宮さんは良く言えば素直、悪く言えば単純。

ちょっとひっかけがあると、そこでコケてしまいがちなのだ。


「それなら、学校に着いてからでいいですか?

HRが始まるまでなら、大丈夫ですから」

「本当!ありがとう咲耶さんっ!!」


私の手を握ってブンブンと上下に振り回して喜ぶ桜。

オーバーアクションな喜びだが気持ちは分かる。

あの数学教師は何というか、嫌われるタイプの先生なのだ。

出来る子には当てずにわざと出来ない子に当てて、わざと失敗させる。

それでどこか駄目だったのか、実例を出して懇切丁寧に説明をする先生。

お陰で、クラスメイトの前で恥を掻きたくない為に勉強をさせる効果はあるが、桜は必死に勉強をしているのに恥をかく事が多い。

持ち前のおっちょこちょいと単純さが生み出す凡ミスを繰り返してしまう子なのだ。

その先生に対する苦手意識もあって、理解していても上がってしまいミスする事が多い。


一応、弁解をしておくならばその先生は生徒に質問用メールアドレスも渡して、放課後にいつ質問しに来てもよいとまでフォローはしている。

二宮さんも最初は先生に質問をしにいったりとしていたが相性が抜群に合わなかった、彼女とその数学教師は。

結果、何時の間にか先生の所には通わず私に聞くようになってしまっていたのだ。


そのまま登校途中は彼女がするドラマや俳優の話に適当に相槌を打ち、学校に着いて席に座ると気がつく。

机の中に入っていた一枚の青い封筒。

思わず顔を歪めてしまいそうになる。

案の定、裏を返せば『西條咲耶様へ』と男の字らしき物で書かれていた。


「ねぇ、咲耶さん。もしかして、それって?」


勉強道具を持って、私の元に近づいてきた彼女が問う。

ため息を吐きたくなる気持ちを隠し、笑顔を作って言った。


「たぶん、そうでしょうね」


騒がれないように指を口に押し当てておく。

そして手紙も再び机の中に。


私の仕草で彼女はすぐに理解したのか、声を潜める。

だが、全ては手遅れ。

手紙を出した時点で周りから感じる視線が凄い。

見れば何人かは誰かの耳に口を近づけ喋っている。


それに気づいていない彼女は私に向かって問いた。


「で、どうするの?」


クラスの雑談は全て消えていた。

誰もが、あらぬ方向を向いていたりするが耳だけはこちらに向けている。


「読んで会ってみない事にはどうにも。

それより、早くどの問題か教えて下さい。

早くしないと、間に合いませんよ?」

「あ、うん。そうだよね、ごめん。

え、えっとこの問題なんだけど……」


彼女が取り出した教科書とノートを見ながら考える。

今回はどうやって断ろうかと。


そして放課後、手紙を読み指定された場所で告白を受けた。


「ありがとうございます、でもごめんなさい」


それが顔を真っ赤にして告白してきた名も知らぬ男に対する私の返事だった。





「咲耶さん、その様子だとまた振っちゃったの?」


しつこく「じゃあ友達から」と言ってきた男子生徒を宥めすかし、荷物を取りに教室に戻ってみればそこには二宮さんが男と一緒に話をしていた。


「そうですよ。

正直、一度も話をした事が無い人にいきなり付き合って下さいと言われても」


手紙で呼び出しを告白してきたのは上級生。

それも一度も話をした事がない相手だった


「なら、よくある友達として付き合いましょうというのもしなかったのかい?

知らない人なら、それで知ってから決めればいいじゃないか。

悪い噂は無いし、普通に良い人だと聞いていたけど」


そう私に言ってくるのは二宮さんと恋人関係にある一年生の時の同級生、川上忠。

片手で数えられる程度しかいない私が名前を覚えている、唯一の男の知人だ。

というか、相手まで知られているとは。


「友達としてですか……近い事を言われましたが、それもお断りさせて貰いました。

一度告白をしている以上、友達ではなくそういう関係になりたいという事ですよね?

それを受け入れるのは、告白を受け入れるのと変わりが無いと思いませんか?」


私が荷物を片付けながら、そう返答を返す。


「まぁ、確かに。

それの友達というよりかは準恋人、恋人見習いという感じが正しいのかもしれない」

「それで川上君、友達というのは恋人と同じ様に辞める事が出来ると思いますか?

私にそういう気がない以上、互いに不幸になるだけでしょう?」


友達になると、体面を考えて面倒くさいアピールを拒絶が出来ずに受け続けなくてはならない。

加えて、休日に遊びという名のデートもどきをしようなんて魂胆が既に見えている。

友達からというのは、恋人準備期間のような物。


「あははっ。

最初に考えた人は凄いものだね、友達からって台詞」


手に持っているシャーペンを回しながら、彼は笑う


「でも咲耶さん。それだと男の人と付き合う気は無いの?」


私に向かってそう問う、二宮さん。

実際に高校生になってから、これで九度目の告白。

全てをきっぱりと断っている以上、色々と邪推してしまうだろう

その目の奥には不安と心配の感情が見えていた。


彼女の気持ちは凡そ予測がついている。

川上君を私に取られないのかという無意識の不安があるのだ。

むしろ、彼は私の事を無意識で避けているのに。

川上君は私が押し隠している本性を何となく察しているのだろう。

しかしその事に気付かない彼女の視点から見ると、学校にいる男の人で一番私と親しいのは彼。

古い言葉だけど、川上君にゾッコン状態の彼女が心配するのは仕方が無い。

事実、私と彼女で川上君を取り合っているなんて噂もあるのだから。


「無いと言えば嘘になりますね、だけど今はそういうのは早いと思っています」

「相変わらず昭和の薫りが漂うねぇ、西條さんは。

それなら初めに付き合う人と結婚するつもりなのかい?」

「それに別にそういう意味ではなく、自分で責任を取れるようになってからの方がいいという事ですよ」


私が言った言葉に二宮さんはきょとんと首を傾げる。

しかし、川上君はすぐに意味が分かったのか、笑うとすぐに返答を返してくれた。


「そういう事か。

いやはや、西條さんのその心構えには恐れいるよ。

確かに、心構えが無い人の末路を知っている僕たちからすれば実に正しい」

「大人の人達が言っている事は間違いではないと思いますから。

では、そろそろ私はこれで」

「うん、引き止めて悪いね。また明日」

「あっ、咲耶さん、またね。それと今日の宿題、本当にありがとう!」

「はい、さようなら」


私たちの会話の意味を考えていた二宮さんも慌てて別れの挨拶をして来る。

手を振り、扉を閉じた後で聞こえた甲高い悲鳴を考えると教えられて彼女はようやく意味が分かったらしい。





地元で買い物を済ませた後に、家に戻って残った家事を済ませていく。

朝に干した洗濯物を取り込み、お風呂掃除をし、夕飯の準備。

今日のメインである秋刀魚をこんがりと。

お魚が好きなお父さんだし、喜んでくれるだろう。

これ以外はご飯、金平牛蒡、味噌汁、黒豆。


全てを机の上に並び終え、エプロンを外して時計を見れば丁度八時。

お父さんが帰って来るまでは、暇な時間になりバッグを開けて勉強をしようと思えば、携帯が光っている事に気がついた。

どうやら、メールが着ていたらしい。

開けて見れば、差出人は二宮さん。

昼間に恋人を作るように強制した発言についての謝罪が書かれていた。


「…………」


気にしていないとの意を文面に乗せると送って電源を切る。

正直、携帯電話自体が私にとっては嫌いと言える代物。

メールを打つのも遅く、電話をするのも嫌いという人間だ、私は。

お父さんの影響もあってか、手紙でやり取りする方が気が楽。

川上君が言っていた昭和臭が漂うのはこういう面については正しいのかもしれない。


しかし、私を恋人に。

思わず、嗤ってしまいそうになる。

こんな気が狂っている女を恋人にしようという愚かな幻想を持っていたあの人に。


断り続ける理由について責任論で彼相手には誤魔化したが本当は違う。

――好きな人に殺害を求める気が狂った女なのだ、私は。

根っからの悲観主義者、次の瞬間には死ぬかもしれないという事を私は常に思っている。

だからこそ、共に死にたい。

私を一緒にあの闇の底に連れて逝って貰えるように、置いていかれないように。

好きな人に殺されたい、こんな夢を持っている女が正常な筈が無いだろう。

ましてや「お父さん」相手にそう思っているなんて。


自然に首に自分の手が伸びる。

お父さんのゴツゴツとした手とは違う白い手。

だけど、幻視する。お父さんの手であると。

あの微笑みを浮かべながら、その手は私の首を絞めていく


「………っ……ぅ」


血が止まっていくのが分かる。

辛い、苦しい、痛い。

……だけど嬉しい。

お腹の奥、子宮が疼く。

さらに首を絞めて何時ものように、手をスカートの中に入れて――っ!


「ん、んんっ……はぁ……はぁ……っ」


自分の首を絞めようとする手を強引に離し、立ち上がる。

玄関チャイムの音が聞こえてきたのだ。


「ただいま……ってどうしたんだ、咲耶!?

顔が真っ赤だぞ、風邪でも引いたのか」


心配そうに見つめてくるお父さん。


「だ、大丈夫ですっ!

それより、ご飯が出来ているのでご飯にしましょう!

今日はお父さんが好きなお魚ですから!」


ゴツゴツとした手に思わず生唾を飲み込んだ私を見られないように、渋るお父さんを押して無理矢理リビングに連れて行った。





その後、お父さんとぎこちないながらも夕食を食べ終えた。

お風呂にも入り、部屋に戻って明日の準備を終えて、気分を落ち着かせて居間に戻ればお父さんがお酒を飲みながら、読書をしていた。

どうやら、今日は読む事が出来る日らしい。

昔は毎日の様に何かしらの本を寝る前に読んでいたお父さんだけど、体力がもう無いといって今では仕事が楽な日や無い日に読む様にしている。


「……咲耶も飲むか?」


机の上に置いてあった瓶を見せながら、私に問う。


「では、少しだけ」


台所にいって、自分のグラスに氷を入れて持って来る。

それに瓶を傾けてお酒、日本酒をとくとくと注ぐお父さん。

グラスの半分ぐらいが満たされると、瓶を傾けるのを止めた。


「この一杯だけな」

「ありがとうございます」


少しだけ口に含むように味わえば、甘い蜜柑のような口当たりがするお酒だった。

十分に舌の上で味わった後に、飲み込む。


「とても美味しいです」

「それは良かった」


お父さんは笑った後に再び本に目を落とし始めた。

その光景をぼんやりと眺めながらちょびちょびと注がれたお酒を飲む。

未成年である以上、本当はいけない事だが高校生になった祝いとして、少しだけ飲ませて貰ってからは、時々こうやって相手をさせて貰っている。

それに私はお酒を飲んで寝ると熟睡するので、昨日の件から考えて勧めてくれたのだろう。


「……そういえば。お父さん、少しいいですか?」

「ん、何だ?」


再び、目を上げて私を見る。


「今度の週末に付き合って欲しいのですけど、大丈夫ですか?」

「あぁ、買い物か。勿論、大丈夫だ」


端的に言えば、荷物運び要員としてお父さんが必要。

お米なんかを買うと私一人では家まで持ち帰れないのだ。

二人暮らしなのでそれ程の量は必要ないとはいえ、やはり重い物は重い。

それに折角なので、こういった機会には他にも色々と普段では買えない物を買う事になっている。


「では、今週の日曜日にお願いします」

「了解」


私の返答に頷くお父さん。

それからすぐにしてグラスの中身が私たちの胃の中に消え去った。


「……っ……」


見なくても分かる、私の顔は赤く火照っているだろう。

思考能力が落ち、意識がぼんやりとしている。


「もう部屋に戻って寝なさい、咲耶」


本を閉じたお父さんが私に向かって言った。


「……は…い。分かりました」


グラスを片付け、部屋に戻りながら思う。

既に絶たれた夢だけど、お父さん。

心の中で夢を見るのは許して下さい。

お酒の力で解放されそうな、どす黒い感情を必死に押し殺しながら、そう私は願っていた。


ヤンデレファザコン娘、咲耶さんのお話でした。

テーマは「狂気を自覚したヤンデレ」です。

ヤンデレ的な事を内心求めているのに、正常な意識がある故にそんな自分を嫌悪しちゃう子となっています。

だから自己評価は最悪、故に敬語口調がデフォですね。


さて、次の話で第0段階は終了です。

この段階の元ネタは薬物依存の症状を段階分けした物です。

第0段階はまだ興味があるだけ、第1からは実際に手を出す「罪」を犯した状態となります。

では、その罪を犯すきっかけとなる第0段階最終話も楽しんで頂けると幸いです。


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