「義理の父娘」
思いついたので適当に書いた恋愛物。
全部で二十話ぐらいです。
R-18的な描写はしませんが、仄めかす描写は出てくると思います。
後、義理とはいえ父と娘の恋愛ですから「うげぇ」という気持ちを持った方はスルーして下さい。
「雄一さん」
妙にぼんやりとした空間で声に気がついて目を向ければ、そこに居るのは走り寄ってくる女の姿。
しかし、その姿は異常であった。
肌色の面積が異常に多い。
二つの白以外の部分は全て肌色。
「雄一さん」
俺の名前を呼びながら、そのふんわりとした柔らかい体で抱きしめて来る。
揺れる長い黒髪からは、甘い柑橘類の匂い。
甘酸っぱい、未成熟ながらも熟れ始めてきた女の匂い。
「……さん」
手が勝手に動き、名を呼び続ける彼女を抱き返す。
暖かい。
人肌の温かさを直に感じる。
あぁ、そうだ俺も彼女と同じで肌色。
服を着ていないのだ。
そうだと、認識した途端に手が動き彼女の胸部に着いている邪魔な白を取ろうと動く。
「……さん」
彼女は抵抗しない。
それどころか微笑んでさえいる。
俺はその「見慣れた笑顔」に彼女の頭をポンポンと撫でて……。
「…………ッ!」
顔が引きつった。
背筋には冷たい氷が押し当てられたような寒気が走る。
瞬時に離れようと身体を動かそうとしたが、思うように動かない。
それどころか、俺の手は意を反して彼女を引き寄せている。
顔が近づく。
「見慣れた顔」を淫靡に赤く染め、目を瞑り、俺の口に近づけて来る彼女。
「お父さんッ!」
「――はッ!?」
目を開けた先に居たのは俺の事を心配そうに見つける女。
その女の姿は先程まで抱きしめていた「彼女」の姿と変わらない。
自分を照らす蛍光灯の灯りに気がついた時にようやく、自分の今の状況を把握した。
夢、そう、夢だったのだあれは。
「大丈夫ですか、かなり魘されていたみたいですけど?」
心配そうに俺を覗き込んでくる彼女。
その顔が先程まで見ていた「夢」の彼女と被る。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと悪夢を見ていた。
顔でも洗って、目を覚まして来るよ」
そう言った後にベッド代わりにしているソファから立ち上がり、洗面所に向かう。
まったく、どうしたものか。
最近、どうにも俺は人の道を外れたがっているらしい。
義理とはいえ十年の付き合いの「娘」を対象に淫夢を見るなんて。
禁忌のナルコティック 第0段階 「義理の父娘」
冷たい冷水を顔に掛けて、気持ちを鎮めながら考える。
全てのきっかけは今からそう、十年程ぐらい前。
孤児院時代からの親友が死んだ。
寡黙であった俺を引っ張り、遊びに無理矢理引きずり出されたのが付き合いの始まり。
笑って、泣いて、時には殴り合いもした親友。
そんなあいつがあっさりと死んでしまった。
交通事故、居眠り運転のトラックがセンターラインを超えて正面衝突を起こしたのだ。
その日はあいつら夫妻の娘の誕生日。
娘と一緒にプレゼントやら、ご馳走を買っていた帰りの話だった。
家に帰り、警察から連絡を受けた時には呆然とし受話器を落とした記憶が今も覚えている。
そして、警察から絶望的な連絡を受けた事も。
あいつとあいつの嫁さんは駆け落ちをしていたのだ。
あいつと付き合い始め結婚も考えた出した所で親が結婚相手を用意したらしい。
嫁さんは良い所のお嬢さん、会社にとって有益となる相手との縁談話だったのだ。
今の時代で、政略結婚なんて笑えてきてしまうが少なくとも親は本気だった。
結果、友人夫妻は駆け落ち。
幾ら話をしても聞く気がない親を見放し、縁を切って結婚したのだ。
警察から受けた連絡によれば、一番友人と親しい人物が俺だと判断して連絡をして来たらしい。
俺と同じで院で育った孤児である友人や実家と絶縁状態の嫁さんは、面倒を見てくれる親類縁者がいない。
俺は躊躇せずに、引き取り手として名乗りを上げた。
収入は心細かったが、借金をしてでもあいつらを弔ってやりたかったのだ。
幸いにもあいつが勤めていた会社や共通の友人、孤児院の先生からも援助を受ける事が出来て、それ程に重い負担をかからなかった。
そして一番の問題が表れる。
あいつらが残した忘れ形見、母親に守られたお陰で無事だった娘の事。
これは本当に問題となった。
親類縁者がいない以上、養護施設かどこかの家の養子として引き取られる予定だったのだが本人の希望が俺の元に引き取られる事だったのだ。
俺は何度も友人から家に呼ばれ、忙しいあいつら夫妻のガス抜きの時間を作る為に娘と遊んでいた事がある。
妻はおろか、恋人もいない俺としても休みの日は家で引きこもるだけだったので、要請があり暇さえあれば行っていた。
親類縁者がいない、あいつの家庭によっての叔父の役割だったのだろう。
親の次に知っていて、家族同然で親しい人。
本人も希望としているという条件なのだが、それでも多数の反対があった。
まず第一に俺は結婚していない。
親として引き取るには結婚していなければ厳しいのだ。
次に収入、空き時間、家の大きさ。
そして俺の出自の問題もあった。
養護施設育ちの孤児、指導員に育てられたとはいえ子育てを経験していない俺に預けるのはどうかという意見が出たのだ。
当たり前の話だろう。
俺自身、無理な話だと思っていた。
しかし、幼い身の上で両親を失ったという大きなショックを受け、環境の変化を恐れる娘の様子を間近で見させられていた俺はどうしても、彼女の願いを聞いてやりたくなってしまった。
娘、咲耶の名前をあいつらと一緒に捻り出し、成長を見守ってきた俺としては彼女が自分の服に縋り付いて願った、その願いを叶えてやりたかったのだ。
◆
「叶えた結果がこれとはな」
用意されていたタオルで顔を拭き、完全に目を覚ました思考を覚醒させた俺は呟く。
努力の末に彼女は俺の「娘」として生きていく事になったのだ。
それ以来、二人三脚で育てる側も育てられる側も一生懸命にやってきた。
そんな咲耶も来年には大学受験を控える年齢。
もうすぐで終わる、二人三脚のペースを俺が乱そうとしている。
「……っ、よしッ!」
冷えた頬をパチンと叩き、気合を入れる。
俺がこんなでは、墓前で任せろと啖呵を切った顔向けが出来ない。
タオルを片付けリビングに戻れば、エプロンを着けている咲耶が既に座って待っていた。
「すまん、待たせたか?」
「ちっとも。お父さんを起こす為の時間より短いですから」
そう言って笑う娘に髪を思わず掻いてしまう。
「この寝起きの悪さも直ればいいんだけどな」
「別にそこまで気にしていませんよ。
素直に起きてくれるだけあって、お父さんは良い方です。
起こすと、理不尽に怒る人もいますから」
「でも、社会人としてはなぁ。
四十にもなろうとしているのに、毎朝娘に起こされなければ起きないのはさすがに恥ずかしい」
「じゃあ、明日の朝は期待して見守っていますね。
……それと、もう食べませんか?
暖かい方が美味しいと思いますし」
「すまん、すまん、そうだな」
そう言いながら彼女の前に座る。
目の前には湯気を立て美味しそうな匂いが鼻腔を擽ってくるご飯と味噌汁。
加えて、中央に置かれた皿にはふんわりとした卵焼き、こんがりと焼き目がついた美味しそうな塩鮭もあったりと古き良き日本の朝食が置かれている。
咲耶が俺の目を窺う。
それに頷くと、俺は手を合わせた。
見た咲耶も手を合わせる。
「「いただきます」」
食前の挨拶が終わると同時に俺達は食べ始めた。
口に入れただけで分かる、ふっくらとしたご飯の美味しさ。
味噌汁や塩鮭もご飯をさらに進ませるような見事な出来具合。
本当に今時の女子高生とは思えないな。
それも、全ては俺に引き取られた故の弊害だが。
最初は俺がご飯を作っていたのだが、何時の間にか彼女に仕事を取られてしまった。
今では家の全ての仕事を任せている。
まぁ、洗濯は年頃という事もあり任せるのはやぶさかではないが、買い物や掃除、炊事までやってしまうようになったのは予想外だった。
仕事で忙しいのもあり、自立の下準備なると思って任せてしまった結果がこれ。
今では近所の主婦と渡り合える程に家事に精通させてしまったのだ。
お陰で、年頃の娘らしく友達と遊びに行っている姿を殆ど見ない。
ワシントン条約で守られる必要があるぐらいの絶滅危惧種の良い子であるが故に注意する事も出来ない有様だった。
「……お父さん。今日は遅いですか?」
一通り食べ終えた娘から、質問される。
「んー。特に予定は無いから何時も道理だと思うが、咲耶は何か予定でも?」
「無いですよ。
晩御飯の準備初めの時間が知りたかっただけです。
じゃあ、晩御飯は何時も通りに準備しておきますね」
淡々と答える娘。
しかし、高校生なんだからもっと遊んでも良いと思うのだが。
「あのな、咲耶」
「何です?」
小首を傾げて食器を片付けながら問いてくる。
「そんなに家の方は気にせずにもっと友達と遊んで来てもいいんだぞ?
こうやって家事をお前に任せてはいるが、俺も出来るしな」
「…………ふふっ」
俺の質問になぜか笑う娘。
「なぜ笑う?」
「いや、だって、お父さんの言葉が面白くて。
その言葉って娘に向けて「父親」が言う言葉じゃないでしょう?
えっと、遊ばずに家で勉強しろー!とか、六時までには帰って来いー!とか言うんじゃないんですか?」
それは「出来ない子」が言われる言葉であって、咲耶は「出来すぎている子」。
むしろ、遊ばない事で起こる弊害の方が俺にとっては怖い。
「別にお前は勉強をしていない訳でも無いし、夜遅くとも危ない場所くらいは避けられるだろう。
それでも危なければ、俺を呼べばいいだけの話だしな。
日頃から色々と世話になっているんだ、ボディガードぐらい喜んでするさ」
俺がそう言うと、人差し指の右手を顎にやる咲耶。
何かを考える時にする彼女の癖だ。
「……気持ちは嬉しいですけど、いいです。
何度も言っていますが、大勢で騒ぐよりかはこうやって家でのんびりする方が好きですから」
家でのんびりといっても、お前の場合は何かにつけて家事やら勉強やらをしていて休んでいないように見えるから遊ぶ事を勧めているのだけど。
と、思ったが今は朝で時間も無いしこの話題はまた今度にしておこう。
「お前がそう言うのなら、仕方ないか。
それと、ご馳走様。今日も美味しかったよ」
「お粗末様でした。ちょっと待っていて下さいね。
今、お昼のお弁当の準備もしますから」
そう言って俺が置いた食器を流し台に持っていく咲耶。
黒のセーラーに袖を通し、白のエプロンを身に纏っている。
以前に家に招待した同期の連中が俺に対して幼妻持ちと冗談でからかっていたが、あながち間違いとは言い切れないかもしれない。
手作り弁当を毎朝作って貰っている辺り、本当に否定出来ないな。
咲耶が通う学校では給食が無いから購買か持ち込みになる。
最初はお金を渡して購買で買って貰おうと思ったが、勿体ないと言われ彼女が作る様になってしまった。
そうしたら一人分も二人分変わらないと押し切られ、今では俺の分の弁当も作って貰っている。
家の食事事情を任せている以上、我が家の経済事情を把握しているが故の行動なのだが……正直、かなり問題がある気がしてならない。
「……?」
俺の視線に気がついたのか、咲耶が視線を合わせて来る。
それに手を振って、何でもないという意を含めて返すとスーツを持って脱衣所に向かう。
さて、今日も一日頑張るとしよう。
◆
昼休み。社内の空いている一室にて、ある男と一緒に昼食を俺は食べていた。
「相変わらずの西條の弁当は咲耶ちゃんの愛がこもっているなぁ」
俺の弁当箱を見ながらそういう男、山下毅。
同期であり、家にも来た事がある男。
それでいて俺より早く出世している辺り、立ち回りは数倍も上手だ。
「お前には言われたくない」
言って見るのは奴の弁当箱。
そこには大きなピンクのハートマークがご飯の上に作られていた。
山下夫妻は結婚して十年以上は経っている筈なのだが、未だに新婚気分を続けているのである。
本人曰く、「死ぬまで共に生きようと約束した連れなんだから、何時までも変わらない」という事らしい。
部内での評判どころか、社内一とまで言われる鴛鴦夫婦。
こいつの出世の一因には、奥さんが完璧に家の事をこなしている事もあるだろう。
そして山下はその働きに答えるように功績を上げ続けている。
その奥さんに俺は本当に頭が上がらない。
男として生きてきた以上、女の事情が分からない事もあってこいつ経由で何度助けて貰った事か。
「悔しかったら、お前もそろそろ相手を見つけたらどうだ?
咲耶ちゃんもかなり大きくなったんだろう。
もうそろそろお前自身の事を考えてもいいんじゃないか?」
「別に悔しくは無いが、確かにそうだな。
咲耶が安心して巣立つ為にはそういう相手が必要だとは思っている」
今の懐き具合だと、俺が痴呆老人にでもなったら介護の為に自分を投げ出しそうで怖い。
一応、そうなったら施設に入る予定だが心配はさせてしまうだろう。
その為にも妻は必要なのだ。
「そういう意味で結婚しろと言った訳では無いんだが。
しかし、意外だな。
西條が結婚についてそこまで真面目に考えているとは。
てっきり、咲耶ちゃんを嫁にする!とか親馬鹿を言い出すのかと思っていた」
「洒落にならない冗談はよせ。
部内のおばさん連中の間で噂されている俺のあだ名を知っているだろう?」
本当に洒落にならないあだ名を俺は持っている。
「源氏の君だったか?まぁ、言いえて妙だからな。
その弁当といい、家での様子といい、本を書けば売れると思うぞ?
あんな良い子に男親一人で育てたんだ、俺もその育て方の極意を知りたいよ」
咲耶は紫の上で、俺は源氏の君。
本当に洒落にならない。
「ただの反面教師だと思うが」
俺がそう言うと、山下は大きくため息をした後に全て食べ終わった弁当箱を仕舞うと俺に言う。
「……まぁ、いい。
それで相手はどうやって見つけるつもりなんだ?」
「まだ考えてもいない。
とりあえず、咲耶が大学に入ってからの話だ」
これから咲耶は大変な時期に入るのだ、大学に行けば今よりかは咲耶だって外に目を向けるだろうし、自分に目を向けるのはそれからで良い。
「そうか。
とりあえず、婚活パーティだけは止めとけよ。
あれは金と時間の無駄だ」
「分かっている。
部長の話を聞けば、誰でもわかるよ」
今年で五十になる部長が出た婚活パーティは酷い物だったらしい。
本人の言葉に従うならば、「檻が無いサファリパーク」。
見事に参加費用の五万円をぼったくられた挙句に肉食獣に滅茶苦茶にされたのだと。
探せば良い婚活パーティもあるのかもしれないが、そこまでして結婚をしたいという気持ちは無い。
今の時期を過ぎれば、仕事も落ち着いてくるだろうし、それから老人会のような場所でパートナーを探せばいいと思っている。
別に枯れてはいないが、この年代になって若い時みたいに終始飢えている訳でもない。
一緒にいて苦しくない趣味が合った人を探せばいいだけの話なのだから。
「それならいいさ。
じゃあ、そろそろ戻るとするか」
そう言われた俺も咲耶に貰った弁当箱を片付け終わっている。
しかし、不便というか。
手作り弁当持ちは自室のデスクで食べてはいけないなんて不文律は作ったのは誰なんだろう?
◆
「ただいま」
「おかえりなさい、お父さん」
家に帰って扉を開けると、そこには朝と同じよう制服の上にエプロンを纏った咲耶が出迎えてくれた。
時々、冗談で三つ指をついて出迎えてくれる事があるから心臓に悪いのだが、今日はそういう悪ふざけはしていないらしい。
「良い匂いだ、今日は肉じゃがか?」
「そうです。
お肉屋の政さんが特別サービスで、とても良いお肉を下さったので美味しいと思いますよ?」
下町に家があるが故に未だに徒歩圏内に肉屋なんて物が残っている。
肉屋だけじゃなく、八百屋もあり、小学生の頃から主婦の真似事をしてきた咲耶は珍しくて覚えられており、結構色々と優遇をして貰っているのだ。
まぁ、親の贔屓目もかなり入っているが美人なのは役得という物なんだろう。
お陰で俺が商店街のおばさん達から、色々とあらぬ噂をされる原因にもなっているが。
「そうか、ならそれが冷めない内に食べるとしようか」
「はい。じゃあ、準備をするのでお父さんは着替えて来て下さいね」
そう言うと、彼女は嬉しそうに笑って振り返り歩いていく。
さて、とっとと着替えて咲耶も楽しみにする肉じゃがの味を堪能するとしよう。
◆
ほかほかのじゃがいもとたっぷり旨い汁が染みこんだ肉、にんじん、玉葱、葱が絶妙なハーモニーを生み出す肉じゃがを食べ終わり、風呂にも入って、リビングの寝台兼ソファに寝転がってぼーっとテレビのバラエティーを見る。
趣味の読書の為の本は溜まっているが、明日も早い。
俺は一度読み始めると終わりまで読まなければ我慢が出来ない人間なので、読む訳にはいかないのだ。
芸人のつまらない内輪話を耳から素通りさせている内に眠気がようやく訪れた。
テレビを消し、リビングの明かりを消すと、目を瞑って眠りの世界に……。
「あの、お父さん」
聞こえてきた声に目を開ければ、そこにいたのは白い湯気を放ちながらしっとりと輝く黒髪を結い上げた風呂上りのパジャマ姿の咲耶。
その時点で用件は分かったが、念の為に聞いておく。
「どうした、何かあったのか?」
「そうではなくて…………」
顔を俯けて、風呂上りの火照りとは違う朱色で頬を染める。
彼女が俺に問いているのは実に簡単。
一緒に寝てもいいのかという質問だ。
俺が彼女を引き取る要因にもなった事だが、咲耶はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症している。
彼女は救出されるまで、俺でも思わず最初に見た時は吐いてしまった冷たい壊れた両親の死体と密閉空間の中で閉じ込められていた。
今はもうかなり治りかけてはいるが、それでも唐突にトイレに駆け込んで吐いて、泣き叫ぶ事がある。
特に危ないのは夢なのだ。
夢では今でも正確に当時の状況を再現してしまうらしい。
小学生時代はそれこそ毎日のようにそんな夢を咲耶は見続けていた。
病院で半狂乱状態で眠る事が出来なかった彼女をあいつの家で一緒に昼寝をしていた時のように抱きしめて添い寝をしていたら、専門化が言うに曰く暖かい生きた人間を感じ取れるという安心を得られて、悪夢を見なくなっていったのだ。
とは言っても、中学生にもなれば幾ら父親とはいえ、男である俺とは添い寝は恥ずかしい。
故に、今では悪夢を見そうな時にこうやって懇願をしてくる。
「構わないさ、おいで」
そう言って、布団を持ち上げた。
咲耶は近づき、ゆっくりと中に入って来る。
そしてひしっと俺の背に両手を回し、自分の身体を引っ付けると言った。
「ありがとうございます。…………おやすみなさい、お父さん」
「あぁ、お休み、咲耶。良い夢を」
頭を撫でてそう言うと、咲耶は目を瞑る。
そうしてしばらくすると、俺の胸に顔を置いてある咲耶からは穏やかな寝息が零れだしていた。
その寝顔を見守る傍ら、必死に俺は殆ど暗記してしまった般若心経を唱える。
なんというか、実に不味いのだ。
母親以上に育ったメロンかと疑うような膨らみを押し付けられ、風呂上りの爽やかな匂いに隠れて形を見せる女の匂い、そしてなによりもその暖かさ。
人としては最悪な事は分かっているが、気がつけば俺の「ケモノ」が反応しかけていた。
朝の時の夢といい、激しい自己嫌悪に襲われる。
娘にした子、しかも二十以上も年が離れた相手に向かって俺は一体何を考えているんだ!
煩悩退散と心の中で呟きながら、最後には気絶するように意識を闇の中に落としていった。
ちなみに作者はハッピーエンドも好きですが、バッドエンドも好きです。
一応、二つのエンドを予定しています。
どっちかは最後までエタらずに書ききれたら決めます。