04 確認
たぶんR12くらいだと思います。
ベッドにうつ伏せに寝転がって足をぶらぶらさせながら本を読んでいると、ヤツがノックもせずに入ってきた。
ちらっと見ると、シャワーを浴びたらしくTシャツとカーゴパンツ姿で髪はまだ少し濡れているようだった。
そのまま真っ直ぐにベッドの横にある机の前まできて、机の上を眺め回しはじめる。
でもすぐに、その視線がぴたりと止まった。
「・・・これか。」
他にも何枚かあったのに、さっさと断定して一枚のプリントを持ち上げると何の迷いもなく鼻を近づけて嗅ぎ始める。
まるで本物の犬のように。
ちょっとだけコイツの将来が心配になりつつ見上げていると、プリントを鼻から離してヤツが真顔で振り向いた。
「覚えた。」
何を?
まさか・・・
それを聞く前に印刷物特有の匂いしかしないはずのそれを机の上にすっと戻し、見上げていたわたしの肩に圧し掛かりながら首すじの匂いを嗅ぎだした。
直に嗅ぐのに邪魔だったのか、指で髪を大まかに掻き分けてうなじを晒し、鼻を擦りつけるようにして匂いを嗅いでくる。
徐々に肩、背中と移動していき、そのまま爪先まで嗅ぐと今度は仰向けにされて喉から胸、お腹と嗅いでいく。
全身を嗅ぎ終わって満足したのか、重なるようにして体の上にのってくると左肩に頭をのせてぎゅっと抱きついてきた。
「良かった。あいつの匂いがしなくて・・・」
何がしたいのか大体わかってたけど、やっぱりため息が出た。
爽川君とは玄関でほんの数分立ち話をしただけなのに、それで臭いが移るならどれだけ爽川君が臭うのよ。
それっきり、じっとしているヤツの頭をぽんぽんと叩く。
気は済んだ?なら早くどいて。
アンタ結構重いよ?
すると、わずかに頭をずらしてヤツが下から見つめてきた。
はにかむような、あの頃の眼差しで。
「いい?」
可愛く見上げるわりには人の体に足を絡め、その左手はTシャツの下に潜って脇腹をさすっている。
くりっとした黒い瞳を見つめていて、ふと初めからこの目に弱かったことを思い出した。
この全身で慕ってくるような、子犬のような真っ黒な瞳に。
道路に面した窓を見れば、レースのカーテンはきちんと閉まってる。
お向かいさんとは道を挟んで距離があるから大丈夫だとして、お隣さん側の窓は遮光カーテンも閉まってるし・・・
こんなことを確認した自分にため息が出た。
すぐそばにある真っ黒な瞳に視線を合わせると、仕方ないというように頷いた。
そのとたん、ふっさふっさと揺れた尻尾は幻だと思いたかった。