02 嫉妬
たぶんR15くらいだと思います。
懇切丁寧に襲われた。
必死の抵抗も華麗にスルー。
あげく。
「人の部屋に黙って入っといてあんな格好してたのが悪い。」
などと非はわたしにあると言い出した。
実に嬉しそうな顔で。
あんな顔してるんだから選り取り見取りなはずなのに、どうしてわたし?
まさかシチュエーションに萌えてるだけとか。
あとは手近で済ませたと考えるのが妥当かと思ったが、やたらと優しかったのが気になる。
わたしが初めてだったから?
わずかな痛みと違和感の残るお腹をさすって、だるい体でベッドに入る。
食欲がなくて晩ご飯もあんまり食べられなかった。
はあ、とため息を吐いてから薄いタオルケットをお腹にかける。
目覚ましをセットして電気を消すと、ぼんやりと天井を見上げた。
眠れないと思ったけどTシャツと短パン姿でごろごろしてたらいつの間にかうとうとしてて・・・
ふと、何だか息苦しくて目を覚ますと暗闇のなか目の前にヤツのドアップがあった。
「・・・んむっ!?」
荒い吐息と口の中で蠢く舌の感触。
後頭部を押さえる大きな手の平。
だんだんはっきりしてきた意識でそれらを感じ取ると慌ててヤツの胸を押し返した。
いつからそうされていたのかわからない。
それでもヤツの興奮具合と溢れる唾液に、これは短くないなと瞬時に結論を出す。
何とか押し返そうとする両腕を片手で簡単に押さえ込まれ、それなら急所を蹴ってやろうと足に力を入れる。
バレたのか見越していたのかヤツが片足で太腿を押さえてきた。
体勢がわずかに変わって、合わさる唇に隙間ができる。
追いかけるような仕草をした唇から固定された顔を背けた。
「ちょっと!」
大声で怯ませようとしたのに、荒い息のまま鼻が触れるくらいの距離でじっと見下ろしてくる。
その唇が、ふっと吐息のような笑みをもらしたようだった。
「いいの?父さんたちに見つかっても。」
な ん だ と ?
わたしは、今、脅されて、いる・・・?
目を見開き硬直したわたしを見つめたままヤツが楽しそうに指を這わせ始めた。
眠い目をこすり学校へ向かう。
部活で先に家を出るアイツと登校時間が重なったことはこの三ヶ月一度もない。
ただ、これからはアイツの下校時間には気をつけるべきだろう。
そんなことを考えていて、よっぽど酷い顔をしていたのかもしれない。
教室に入るとクラスメイトの爽川君が話しかけてきた。
爽やかなイケメンという意味で爽川と呼ばれる草川君が。
「大丈夫か?気分悪いなら保健室に連れて行こうか?」
ちょっと覗き込むようにしながらそう言う爽川君はみんなが言うだけのことはあった。
「うううん、大丈夫。ありがとう。」
なるべく明るく言うと、爽川君は少しだけ首を傾げる。
「本当か?もし悪くなったら言えよ、俺保健委員だからさ。」
頷いてみせると、じゃあ、と去って行く後ろ姿が確かに爽やかだった。
爽川は伊達ではなかったのだ。
家に帰っていつものように部屋で制服を脱ぐ。
スカートのホックを外して白い半袖シャツの裾を引き出した。
シャツのボタンを順番に外し、最後のボタンに指をかけたところだった。
足音もなかったのに突然大きな音をたてて部屋の扉が開いたのだ。
普通びっくりする。
驚いて顔を上げると、怒ったような表情をした現在部活中のはずのアイツが仁王立ちしていた。
どうしてヤツがここにいるのかわからなくても、ヤツのファンクラブの情報網があてにならないことはわかった。
シャツの最後のボタンに指をかけたまま前を隠すようにして早く出て行けと視線で促す。
わたしは着替え中、見てわかんない?
そんな堂々と覗きをしてないで、ほら、早く!
無言で睨みつけると勝手にずかずか入ってきて力任せに脱ぎかけのシャツを剥ぎ取られた。
なんでー!?
そのままシャツをゴミのように投げ捨てて、呆然としているわたしを今度はヤツが睨みつけた。
「あの男、姉ちゃんの、何?」
「・・・あの、おとこ・・・?」
怒りに燃える瞳に獰猛な光が宿ってるような気がする。
「朝、教室で姉ちゃんに近づいてた男だよ。」
それはもしかして爽川君のこと?
特に男友達もいないし、今日話した男子は爽川君だけだったし・・・
「・・・彼は、わたしが気分悪いんじゃないかって、心配してくれただけの、ただの、クラスメイト・・・」
え、でもちょっと待って、アンタそれをどこで見てたの?
アンタのクラスは一階でわたしのクラスは二階、そのうえ別校舎だよ?
しかも教室の出入り口は窓とは反対側だし・・・まさか廊下?
いや、コイツが廊下にいたら周りはもっと煩かったはず・・・
え?どういうこと?
一歩後ずさったら素早く左腕を掴まれた。
「何で、逃げるの?」
ぐいっと左腕を引っ張られて、足がよろけて転びそうになる。
転ぶ前に抱き寄せられて閉じ込めるように背中にヤツの腕が回った。
同時にぎりぎりと左腕にかかる痛みが増していく。
「・・・痛い。」
小さく抗議すると、やっと気づいたのか手の力が抜ける。
「ごめん・・・」
そう言ってそっと解放された左腕はヤツの手の形にくっきりと赤くなっていた。
見た目通り学校では優秀な成績を修め運動神経も悪くないのに、怒ったらこんな加減もできないの?
半袖じゃ隠せないところに残る痣にため息が出た。
明日どうしようとそこを見つめていると、今度は添えるくらいの力で労わるように左腕に触れてくる。
その手がそこをゆっくりと撫で、痣を見つめてどこかうっとりとしている姿は少しだけ可愛く見えた。