石竜子紳士と守宮の魔女は井戸に集う
影山十吉は定年を後一年というところで息子と共に会社を辞め た
息子の些細なミスが響き、リストラ条件が整ったのだ
薬剤メーカーで働いていた重吉は研究研究で世の中を知らない
家のローンも後十年そして一昨年孫のため増改築のローンが20 年
総て十吉の名義で退職金も一括返済資金として組み込まれてい た
妻は嘆き離婚届けを突きつけた
息子夫婦は最後の給料を手に入れ海外に出て行った
十吉は一人二階のベランダでチューリップの花壇に水を注ぎ
家の買い手がくるのを待っていた
チューリップの花が咲くまでに家を売らなければ
月25万のローンが残る
警備員のアルバイトは毎日はない
月8万円が精一杯だ
自分は働けても仕事自体がない
途中退社に退職金はなく
年金受給まで後5年
去年の改正で年金受給年齢が60から65に引き上げられた
早期受給者対応はない
然し70からは1、2倍貰えるそうだがそんなに待ってられない
5年働けば年金が月12万
やっていけないこともない
十吉は花が咲かぬよう今日もチューリップに水をやり制服を着 る
森下八千代は一人彼を待つ
高校をでた彼女は実家の旅館の五代目女将として日々汗をかい ていた
八千代の旅館はドラマのスタッフに人気があり毎年コンスタン トに売上が続いている
然しテレビに八千代の旅館が映ることはそんなに無い
八千代は恋い多き年の頃なのにも関わらず
幼稚園からの幼なじみ斎藤敦史一筋で清き交際を続けている
敦史は東京の大学で弁護士になるべく勉強している
八千代の何よりも密かな楽しみは敦史と喋る深夜11時から12時 までのお喋りだ
初め互い切るに切れない受話器がテレビの話になり事後連絡に なりメールになっていった
3年後の二人は朝メールがたまに来てれば返信するだけになって いった
八千代は忙しかった
仕事が出来るようになり責任の大切さと五代目の目標が輝いて いた
7年後敦史は見事事務所に通いながら弁護士資格を手に入れた
八千代は何時ものように働き浴場を洗っていた
10年後敦史はテレビのコメンテータとして活躍していた
八千代は旅館を一部ロケ用に改築しその反響で旅館の売り上げ が上がり幸せだった
八千代に見合いの話がきた
結婚し子供を作らねば五代目にはなれないのだ
八千代は敦史に電話した
敦史は何も答えず電話を切った
八千代は何度も伝言を残しメールした
2週間後見合いの3日前ワイドショーで敦史とモデルのお泊まり デートを知った
その夜11時八千代の携帯に敦史からゴメンとメールが届いた
東京のど真ん中のビルの屋上すすけた鳥居と水の張った樽があ る
ここがまだ海だった頃時の術者が荒れ狂う海竜を沈めるため
一晩にして富士の大岩を置きその上に3っつの鳥居を建て海竜 を封印した
その後埋め立てられ今度は農耕の神を奉る立派なお寺が出来た
そして戦火に焼かれ何度も人手に渡りバブル時代不動産事業で 手に入れた貸し金屋が商売繁盛にと、ここに金箔の鳥居と七福 神の乗った宝船が樽に浮かんでいたが、今は銀行にとられ雑居 ビルとなり浮浪者やヤクザのたまり場となっていた
それも今月までの話
来月から第3都市開発が開始され、震災以降脆弱な雑居ビルが優 先的に都によって買い取られ新経済及び少子化対策国民生活基 金複合セクターというビルが建つ
樽の水は濁り羽虫が雲を作っている
神は水の中から大空を覗いていた
八千代はメールを見ると旅館を飛び出し東京に向かった
ただ真っ直ぐに走る
単調に進む時間の中八千代は敦史を思う
然し思い浮かぶ敦史の顔はいつも見ているテレビのそれとは違 い
幼い無垢な笑顔だけだった
八千代は細い細い糸をたどり罵声を車内に響かせアクセルを踏 み続けた
十吉は朝礼が終わると向のビルに看板と一緒に立った
取り壊しビルの頭上注意と工事車両の誘導これが今日の仕事 だった
昨日までの警備員は大金を手にして止めたという
そしてその大金は今日も十吉の立つビルから取り壊しビルに向 かってレンズを光らせていた
淳史はラブホテルの窓からビデオを回していた
モデル桜木千秋の依頼で解体業者の不法投棄のネタを掴むため だった
桜木千秋の父は不法投棄処分地提供者として捕まっている
然し千秋が言うには勝手に所有する山に不法投棄され見に覚え のない口座にお金が振り込まれていたという
敦史は工事現場での仕分け作業風景の現場を押さえることだっ た
桜木千秋は途中経過を聞くためにホテルで待ってたところを写 真を撮られたのだった
敦史は仕事上秘密をばらしてはならない
下を見ると何時もの警備員じゃないことに気がつく
そして周りにカメラマンがいないことを確認しようとすると八 千代がいた
敦史はホテルをでると八千代と向かい合った
十吉は一方的な八千代の様子に唖然と見入っていた
その時大きな地震が襲った
神は樽から飛び出ると大空に飛んだ
地上から光が放たれ神は竜となって天に昇った
解体現場は水柱が立ち上がり辺りを海水が埋め尽くした
救急車の中十吉は助けたカップルに両手を握られていた
八千代と敦史はガードマンの機転により落下するコンクリート から逃れられたのだ
病院で手を握りあう家族達
八千代は公園のテントで浮浪者や浸水した人達にカレーを作っ た
敦史はテレビで解体現場を中心に浸水事件を語った
十吉の下には別れた妻と子供が帰ってきた
神は封印から解き放たれ日本を駆け回っている
それから5年
八千代は五代目となって旅館を切り盛りしている
十吉のチューリップは毎年色とりどりの花を咲かせている
神は自ら井戸に身を潜め大空を眺めている




