第19話 朱里のかわいい嘘
「いらっしゃいませ、何名ですか?」
「2人です」
若い男性店員さんの質問に朱里が大きな声で答える。俺達はそのまま店員さんに案内されて席へとついた。
「現在、学生カップルさん限定でこちらの商品から頼んでもらうと半額になる、というキャンペーンを行っております」
店員さんがメニューを俺達に見せながらそういう。
こういうキャンペーンって本当に存在するのか。まぁ俺と朱里はカップルなんかではないから全然対象外だが。
「あの、俺達カップルじゃ…」
「私このランダムケーキセットでお願いします!」
俺が店員さんにカップルではないと言おうとしたが朱里に横から遮られてしまった。
店員さんは、朱里にもう一度聞き返し、オーダーをメニューに書いた。
「そちらの彼氏さんは何にしますか?」
朱里のオーダーを取り終わった店員さんが俺にもオーダーをしようと声を掛ける。
正義感あふれる紳士的で常識人の俺はこんな騙すようなことはよくないと思い、店員さんにカップルではないことを告げることにした。
「あの、俺達カップルじゃないんですけど…」
「え?そうだったんですか。申し訳ございません」
店員さんは俺達がカップルじゃないと知って謝ってきてくれた。これでこの問題は解決…そう思われたがまたもや横から余計なやつが割り込んできた。
「もう網代!恥ずかしがらないでよ〜網代も同じやつでいいよね?じゃあ店員さんランダムケーキセット2つでお願いします!」
こいつは何を言っているんだ!?ほら見ろ変なこと言うから店員さんも困ってるじゃないか。
店員さんは少し考えてハッとひらめいたような顔をした。恐らく、朱里の言っていることは虚言、だという風に考えがまとまったのだろう。
「大丈夫ですよ彼氏さん恥ずかしがらなくても。私も高校生の時にそういう時期がありましたし。いやーあれは高2の夏…」
どうやら店員さんは大きな勘違いをしているみたいだ。多分、朱里の言っていることが正しいと思っているのだろう。なぜかよくわからない思い出トークまで初めてしまった。
「すみませーん」
俺たちの右斜め前の席に座る男の人が店員さんを呼んだ。
「はーい!今行きます」
店員さんが男の人にそう返事をした。
「ランダムケーキセット2つですねはい!」
店員さんは俺たちにそう言って移動してしまった。
それにしても忙しい人だ…それより、まだ誤解が解けてないんだが?
「おい朱里、なんで俺らがカップルだなんて嘘ついたんだ?」
俺は朱里にそう聞いた。なんでカップルだなんて嘘を…どうせ半額に釣られたんだろうな
「だって半額だよ?半額!網代が奢る代金が半分になるんだよ?」
ほら図星だやっぱり半額に釣られて…なんか最後に言ったよな?
「いや、いくら半額だからってな…お前今なんて言った?俺が奢る?」
「まぁまぁそんなことどうでもいいよ!それよりご馳走さまです!」
どうでもいいわけないだろ俺がなんで奢らなきゃいけないんだ!俺は嘘ついたことより奢る前提で話が進んでいる方がイラッときていた。
10分ぐらい経っただろうか俺たちのテーブルには2つのことなるケーキが並んでいた。
「わぁ~美味しそう!」
朱里がそう呟きながら写真を撮っている。
「ランダムケーキセットってなにかと思ったがケーキの種類がランダムで出てくるんだな」
俺は様々な角度から写真を撮っていて、まだケーキにてをつけてない朱里にそういう。
先ほど言ったとおり、ランダムケーキセットとはテーブルに運ばれるまで何のケーキが出てくるかわかりませんよというやつだ。俺は抹茶ケーキ、朱里はショートケーキがでてきた。
「では、いただきます!」
朱里はフォークを手に取り、ケーキを口へと運ぶ。
「ん~!おいしい!」
朱里はほっぺたに手を当ながらそう言う。
俺はその横で無言でケーキを口に運ぶ。
「網代も食べてみて!はい、あーん」
朱里が一口大にしたケーキをフォークに刺して俺の口の前へと持ってくる。
なにこれ、めっちゃラブコメみたい。
だけどここで応じてしまうのも…別に俺は朱里のことが嫌いでもなければ好きでもない。そんな相手と間接キスを…
どうする!?網代!考えろ…




