河邊寅美
〈冷やし水まだまだまだと冷やしけり 涙次〉
【ⅰ】
白虎は眠つてばかりゐる。例のカンクロー討伐の件(前回參照)以降、余りに暴れ過ぎたのか、氣が拔けてしまつたやうに、じろさんの足許に寢そべり、寢息を立てゝゐる狀態が續いた。
「ま、奴も疲れるつて事がある譯だ」* じろさん、時折彼の脊を撫で、まるで我が子のやうに、穏やかな視線を白虎に送つてゐた。
* 前シリーズ第173話參照。
【ⅱ】
河邊寅美、新進氣鋭のテレビ俳優であり、シンガー。大スタアの卵である。プロフィールには、「兩親はBOOWYの大ファンで、ギタリスト布袋寅泰の名から、寅(とも、と訓ませる)と云ふ字を取つて、命名した。因みに寅年」と書いてある。
彼は躰と心の變調に悩んでゐた。ステージに立つてゐる時など、まるで内面から衝き動かせられるやうな衝動を感じ、暴れたくなる。まさか大勢の観客(黄色い聲援を送る、お嬢さん方が多い)の前で、ステージが台無しになるやうな、暴力沙汰を起こす譯にも行かない。ぐつと堪へるのだが‐ 病院で診察を受けてみたのだが、何も心身に異狀はない、と云ふ。「これは... 可笑しいぞ」‐彼は、カンテラ一燈齋事務所と云ふところで、カンテラ一味と云ふ人たちが、不思議な事件と闘つてゐる、と云ふ事を知つてゐた。
【ⅲ】
寅美はカンテラ事務所の、「相談室」の客となつた。カンテラに前述の變調について話し、「宜しい。私たちがだうにかしてあげるから、安心して慾しい」との言葉を貰つた。
カンテラ、寅美を見送ると、その足で「開發センター内・方丈」に向かつた。勿論、「修法」で寅美の一件を調べる為である。そこでカンテラ、意外な事實を知る。
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〈垂れ流すトランプなど云ふ公害を米國の夢いづこに行かむ 平手みき〉
【ⅳ】
寅美には白虎が憑いてゐた! 白虎が夢を見てゐる間だけだが、寅美は白虎の性格の影響を受けてゐた。白虎の仕事(?)は、暴れる事なのだから、寅美が暴力衝動に捕らはれるのも、無理もない。
カンテラ、事務所に戻り、白虎に事の次第を質した。白虎、のつそりと起き上がり「があお」(僕、人間ニナリタインダ)と云ふ。カンテラ「だけど、それで困つてゐる人がゐるよ。感心しないな。お前が人間に憧れるのは分かるけど」‐「があお」(ダウスレバ人間ニナレルノカナア)‐カ「う~む」
【ⅴ】
じろさんには予想外の答へをカンテラは云つた。「白虎、アンドロイドで申し譯ないのだが、俺に取り憑け」‐白「???」‐カ「俺ならば暴力衝動を治める事が出來る。その間、お前と俺は一體化するんだ。人間になるのと、ほゞ、變はりがない。お前は俺の視點で物を見、感じる事が出來るんだ」‐白「ナル程!」
カンテラ、白虎に剣を突き着けた。その儘、水平に剣を動かし、「しええええええいつ!!」と氣合ひを發した。これでカンテラ、白虎と一體化した譯である。
【ⅵ】
思つたよりも、白虎の性格は「強い」影響をカンテラに及ぼした。「白虎、俺が仕事してゐる時にだけ、『出る』譯にはいかないか?」‐白「ソノ間ニ眠レバイゝト‐ ?」‐カ「さうだ」
と云ふ經緯で、カンテラは白虎の能力を活かした、攻撃が出來るやうになつた。つまり、カンテラ、パワーアップした譯である。これは、寅美は勿論の事、カンテラ、白虎にとつても良い事だつた。何故なら、白虎もカンテラの「出番」には、一體化して暴れる事が出來るからである。
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〈薄れずや腕の日焼けと晩夏光 涙次〉
【ⅶ】
寅美から、禮金入金。その金額よりも、カンテラを喜ばせたのは、無論パワーアップの件である。カンテラに野獸の力が備はつた‐ その事に期待し、作者、このエピソオドを終はりにしたいと思ふ。
カンテラ「嚙み付き攻撃もありかな?」・笑。さてさて、どんなバトルをこれからのカンテラが繰り廣げるか、乞ふご期待あれ! お仕舞ひ。