表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一章 赤い月の下で君は微笑んだ


 赤い月が空を染める夜。

 私は生まれ変わった。

 前世の記憶はまるで映画のワンシーンのように鮮明だった。

 OLとして働き詰めの毎日。

 過労で倒れ、病院のベッドで息を引き取った。

 それなのに目覚めた先は、貴族令嬢の豪奢な寝室。

 私は布団から飛び起きて、鏡台の前へ駆け寄った。

 鏡に映った顔は、私がよくプレイしていた乙女ゲーム『薔薇と王冠の国』の悪役令嬢セルフォーヌ・オーブリー・シャトレその人だった。


「……まさか転生?」


 そして直ぐに気がくつ。

 この世界の運命はすでに決まっていた。

 セルフォーヌは主人公のルイーザ姫を陥れ、王太子アーロンと婚約を結ぶも、裏切りが発覚して処刑される。

 そして、その数年後──この国は突如現れた「黒の災厄」によって滅亡する。

 ふと私はとある事を思い出し、記憶を遡った。

 ゲームのエンディングムービーで黒い影が都を飲み込む中、一人の女性が剣を掲げて立ち向かうシーンがあった。

 顔は見えなかった。


 だがあの背中──

 あの戦い方──


「もしかして……セルフォーヌ?」


 その疑問を胸に私は屋敷の庭へと足を運んだ。

 夜の空気は冷たく、薔薇の香りが鼻をつく。

 そして、そこで私は彼女に出会った。


 セルフォーヌ・オーブリー・シャトレ──この体の元の持ち主。


 しかし、彼女は死んでいない。

 目の前には、黒いローブを翻す生身の令嬢が立っていた。


「やっと会えたわね、転生者」


 彼女は微笑んだ。

 その笑みはどこか寂しげで、どこか優しくて──


「私は未来から来たの。貴方の五十年後から」

「未来? でもゲームでは──」

「ゲームでは私が悪役で国は滅びる。でも、それじゃダメだった。何度でも試した。何度でも敗北した。だから……今ここに来た」


 彼女の瞳は星のように輝いていた。


「私は貴方に頼みたい事があるの。私に悪役を演じさせて。そして貴方には私の事を……憎んでほしい」

「何故……?」

「だって──」


 彼女は空を見上げて赤い月に手を翳した。


「君が生き残らなければ未来は救えないから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ