6:アパールでひともんちゃく
「フォルムラから来た、チェネレントラ・イロニーアです。昨日は早めに寝たため、人は殺していません。よろしくお願いします」
チェネレントラが淡々と語り、おじぎをする。
チェネレントラはアンドロイドだ。とはいえフォルムラ以外にはアンドロイドところが機械すら存在していないので、ここにいる人はクリョシタ以外チェンレントラのことを人だって思っているはずだ。
「クリョシタ・サチェルドーテです。チェネレントラさんと同じくフォルムラから来て、今はボーク・スネールチへ向かっています。昨日は寝ていたのがメインですが、部屋からは基本的には出ていません。そこで事件のことは知りませんでした」
クリョシタもおじぎをする。
広い部屋、たくさんの人が食事をするためにあるような食堂で人々は集まっている。
さっきクリョシタやチェンレントラと話していたヴァスハヂャーシェエもいる。どうやらヴァスハヂャーシェエは謎を解こうとしているらしい、あちこちをうろうろ見ている。
「被害者であるシヌータ様がいらっしゃった部屋の階にいらっしゃったのは、クリョシタ様達だけです。何よりもこの建物にいた人は皆、クリョシタ様達以外はアリバイがあるのです」
何も染めていなさそうな布の服を着た女性が、落ちついて語っている。
もしかしてクリョシタ達は犯人と疑われておるのか? 確かにカラールに来てから、クリョシタ達は部屋の外へ出ることはなかった。そこでクリョシタ達が何をしていたのか、カラールの人は知らない。
「そうだ。そこの人達以外に殺害できる機会を持つ人はいないよ」
身長が高く、紫と青のツートン髪が目立つお兄さんがクリョシタ達のことをにらむ。いやいや本当に、クリョシタ達は犯人じゃない。
そもそもフォルムラからボーク・スネールチへいく人が、ここで人を殺すわけがない。
「今日のお客さまは、ボーク様とクリョシタ様達、それから亡くなったシヌータ様だけです。ボーク様はシヌータ様と違う階に宿泊なさっていて、ずっと手の込んだ編み物をなさっていたから殺害はできません。何よりもここで働いている人達は、客室には近づかなかったです」
別の人も、私達以外に犯人がいないって断言する。
要するにクリョシタかチェネレントラが犯人であり、他の人はそうじゃないってことだろう。それ以外今のところはよく分からない。
「そうそう。働いている人やボーク様には殺害は無理です。ただチェネレントラ様は幼く見えますし、クリョシタ様よりも早く眠ったんですよね。ならば犯人はクリョシタ様で間違いありません」
ショートカットの男性が、この中で一番大きな声で断言する。
もちろんわしは知っているのじゃ。クリョシタが人殺しではないってことを。でもここにいる人達はクリョシタのことを知らないから、簡単に犯人としてしまうのじゃ。
「ここにいるのはカラールで働いている4人、それから客が被害者を含めて4人。その中でアリバイがないのは2人。そして何よりもチェネレントラ様が先に寝ているので、犯人はクリョシタ様で決まりです。私とヴァスハヂャーシェエはここに昨日来ていませんし」
なんなら偉そうなオーラの出ているおじさんが、きっぱりと断言する。
クリョシタは殺人をしていない。それをわしは知っているのじゃが、何も出来ない。そこがもどかしくて、たまらないのじゃ。
「ということはお偉いさんがくるまで、クリョシタ様達を客室にいれておきましょう。見張りも必要です」
さっきまでアリバイの話をしていた女性が、さらりと提案する。
この部屋にいる人のほとんどは、クリョシタが犯人であることを疑っていない。そこで2人は泊まっている部屋へと戻されて、外へ出られないようになった。要するに監禁じゃ。
フォルムラは完全に独立した町で、よそとの関わりはない。そこでフォルムラで国のお偉いさんと会うことはないのじゃ。
でもアパールは違う。アパールはクリョシタ達が通過したクニーガ・マーギイやクリョシタ達の目的地であるボーク・スネールチと同様に国の影響があるのじゃ。
そこでこういう風に犯罪があると、国のお偉いさんが来るのじゃ。
この国では、お偉いさんが罪を決める。人を殺したのなら、死刑だろう。そこで今クリョシタはかなりのピンチなのじゃ。
「どうしましょう。このままここから逃げてボーク・スネールチへ行くのがいいかもしれません。このままここにいたら、目的地へつきません」
チェネレントラは若干おろおろして、落ち着きがない。
「仕方ないです。ここから逃げたとしても、すぐに追っ手が来るでしょう。そこで例え逃げたとしても、ボーク・スネールチへつけないかもしれません。何よりも下手すると、フォルムラへもどれなくなります」
クリョシタはベッドに寝転んで、投げやりな感じで話す。
「とにかくボーク・スネールチへ行かなくちゃいけません。そこでこの宿でとめられて、そのうえで犯罪者として処罰されるのは嫌です」
チェネレントラは焦ったように、ドタバタしている。
早くボーク・スネールチへ行きたい。それよりもずっとボーク・スネールチへ行けなくなることを、チェネレントラは恐れているようだ。
「どうしてチェネレントラさんはボーク・スネールチへ行きたいのですか? もうこうなったら仕事を優先する意味がありません」
「花街に捨てられたわたしを拾ってくれた、ご主人様のためになりたいのです。そのためにも、わたしは何が何でもボーク・スネールチへ行きます」
チェネレントラはフォルムラの花街、アットリーチェで使い潰された。心身共に傷つけられた上にアットリーチェから追いだされたチェネレントラ、そこで今のご主人様子とクリョシタの上司であるパーチェにつくすのだろう。
それはもう、仕方のないことだ。サイコロでも変えることができない。




