6・6章・とりあえず過去話1
6章に出てきたリディのお話です。とりあえず設定は
・リディとユーリは幼馴染です。
そしてユーリはリディのより1つ年上。
銀のセリナギ
人は私の事をそう呼ぶわ。
セリナギとは聖樹の根元に咲く奇跡の花の事。
年に一度しか咲かないその花はよく神話や御伽噺に出てくる。
大体は精霊化身とか、女神様の化身とかそんな感じに。
だから、セリナギの化身と噂される私を想像する事は難しくはないの。
すごく簡単。
5歳児にだってできるわ。
そう。
一流の画家が描いた絵画を見て想像すれば良い。
すっとした顔立ち。
少し垂れ目がちな瞳
愛くるしい唇
そして……輝く銀髪
みんながみんな私の容姿を褒める。
美しいと
可愛らしいと
みんながみんな私に求愛の手紙を送る。
愛していますと
会いたいと
ふざけんじゃないわよ
愛しているですって?
会いたいですって?
どの面下げて言っているの。
会ったこともないのに私の何を知っているというの?
「……本当に、うざったいですわ」
新たに積まれた求愛の手紙を暖炉に投げながら呟く。
ボウボウと燃える炎が綺麗。
でも、その行為を見たユーリが悲鳴を上げた。
「ユーリ、煩いですわよ」
「う、煩いって、それ、姫様に送られた手紙じゃないですかぁぁぁあ!!」
「あら。読む価値さえないわ。邪魔にならないよう、燃えカスにすれば良いんです」
「良いわけないですよぉぉ!ただの手紙じゃないんですよ!一応正式な手順を踏んだ書類で、」
「そぉれ!!」
バサバサと残りの手紙が暖炉の中で燃えカスと化した。
黒い灰が熱気によって舞い上がる。
ほら、再利用。
「ひ、姫様ぁ」
「なっさけない声ださないで下さいな。どうせ書いてあることなんて一緒なんですから読まなくても問題ありませんのよ」
「……そういう問題じゃありません」
「そういう問題ですの」
泣き出すユーリにリディは呆れてため息をついた。
こいつ、マジで泣き出しそうですわね。
無意識のうちに拳を握る。
あぁ、いつからだったかしら。
私が、彼、ユーリ・ハウランドに恋をしたのは。
リディは横目で彼を見る。
ユーリはせっせと灰の塊を集めていた。
そんなもの、他の男から送られた手紙なんて、放っておけば良いのに……
「……馬鹿」
「姫様、なにか言いました?」
「……なにも言ってませんわ」
素っ気無く私は言い、また灰を拾いだした彼の横顔を見つめた。
雪から生まれたような白い肌。
木漏れ日から生まれたような金の髪。
灰にまみれたせいで今は薄汚れているがそれすらも美しい。
体は無駄な筋肉1つ付いていないだろう。だって彼はあのディオスの部下だ。
今はまだ良い。彼だってまだ幼い。
けれど、後3年もすれば?
成人すればどうなるかしら。
目をつぶれば想像できる。
まるで美の女神の如く美しく、戦の神の如く雄雄しく逞しく・・・強く。
立派な騎士になるだろう。
そしてきっと、隣には私がいて、
私を守るのだ。
幼い頃に約束したとおりに。
でも、でも本当は守ってもらうより対等の位置に立ちたかった。
王族としてではなく、幼馴染としてではなく、
恋人として、対等の場所に立ってみたかった。
思いを伝える事は簡単。
けれど、彼が私を受け入れる事はないだろう。
だって彼の願いは『私が有力な貴族のもとに嫁ぐ』事だから。
それが私の幸せだと。
彼はそう、信じている。
ツンと、鼻がなった。
想像だけで涙が出てきそうになる。
「わ、わわわ!姫様、どうしました!?」
「……なんでもないですわ」
ユーリの心配そうな態度にも素っ気無くなってしまう。
だって、今ここで自分の気持ちを抑えないと大変な事になってしまう。
……分かっているわ。
あなたが私を、なんて思っているか。
そう。近い言葉にするならば『親愛』
妹としか見てくれない。
私の気持ちを言葉にすれば、きっと貴方は悩んで私の前から姿を消してしまうでしょう。
だから、私はこの気持ちに蓋をする。
……いつか、あなたと離れる事になるでしょう。
いつか、私は他の男の物になるでしょう。
その時あなたは、
少しは、悲しんでくれるでしょうか?
いえ、彼はきっとこう言うわ。
『姫様、おめでとうございます。幸せになってくださいね』
その想像があまりにもリアルすぎてポロリと涙が一滴、絨毯に染みた。
それをユーリに見られたくなくて、慌ててユーリにお茶の催促をする。
部屋を出たユーリを確認して、私は身を屈めて涙を零した。
私は王家の娘。
政略結婚は……当たり前なんだから。
だから、自分の気持ちに蓋をしよう。
「姫様、お茶をお持ちしましたよ」
「……そこに、置いてくれる?」
カチャッと食器の鳴る音がして、次に目の前に差し出された。
琥珀の液体。香りは……花。
「そこに、置いてって」
「姫様、これ、スイートミルっていうお茶なんです」
テーブルにお茶が置かれ、次に甘いケーキが用意されていく。
戸惑う私にユーリはポンッと頭を置く。
完全に、子供扱いだけど、
「心を落ち着かせる効果があるんですよ……ゆっくり、飲んでくださいね」
彼は出て行く。
私を苦しめた手紙を持って。
「……美味しい」
紅茶は爽やかな香り。
けど、とても甘い。
そう。私はこういう優しさと、さりげなさを持つ彼を好きになった。
昔から、私が泣くと用意された甘いお菓子。
癖なのか、必ず私の頭を撫でてから1人にしてくれる。
彼は言った。
私はまだ子供。だから無理をして背伸びしなくて良いと。
周りは早く大人になれと言った。私は王族だから人より早く大人にならないといけないって。
理解はしていた。
でも、苦しかった。
いつもいつも気を張っていて、心安らぐ時間さえこの部屋の中だけ。
だから、ユーリの言葉は本当に嬉しかった。
初めて私を『子供扱い』してくれた彼を好きになった。
ねぇ、もしも、もしも私が王女でなかったら、
貴方は傍にいてくれた?
「……ユーリ」
呟きは誰にも聞こえる事がないまま消えた。
そう。これはアイが召喚される、一ヶ月前の出来事。
分かりにくかった人への為に。
リディは周りから『王族なんですから』とか『王家に相応しい』とか『早く成長なさってください』とか大人になる事を常日頃言われ続けています。そのために唯一子供扱いしてくれたユーリに恋心を抱きましたがユーリがある日呟いた『僕の夢はリディ様が有力な貴族のもとに嫁ぐ所を見届ける事です』を聞いて芽生えた恋心に蓋をします。そして自己暗示で『私は王族、私は王族。王族の結婚は政略結婚』と納得しようとしています。いつかこの2人の中篇でも書きたいです♪