24章・とりあえず真実(後編)
これにて過去編は終了となります。
反乱軍に入ってから1年の歳月が経った。
竜の乱獲はますます酷くなりついにフォルティウスは亜人以外の生物の入国を一切禁じ、独自の社会を作るとそう世間に発表した。
それにより、世界中の国々から亜人の姿が消えた。
反乱軍にいた唯一の亜人も故郷に帰るという。
最近では姿を現さなくなった竜の代わりに亜人達を乱獲し始めているらしい。
亜人は人より魔力を体に蓄積できるため種類によっては魔道具として加工することも可能だからだ。
なんて非道な事をするのだろう。
これが人間のすることなの!?
私は、否、反乱軍は彼女に約束した。
かならず王国軍に勝って、乱獲をやめさせると。
けれど心は不安で一杯だった。
王国軍を倒したところで本当に乱獲は止まるのだろうか?
もしかしたら第二、第三のアルカナ王が現れるんじゃないかって思うの。
竜や亜人から作成された魔道具は世界中が欲している。
アルカナ王を倒してそれで全てが終われば良いけど・・・
また昔のように竜が空を飛び、亜人が村を歩き、精霊が再び姿を現す日は来るのだろうか?
王国軍と反乱軍の戦争は日々激戦を極め2年の歳月を得てついに反乱軍が勝利を収めた。
暴君アルカナ王は長年民を苦しめ続けた罪を文字通り命で償うこととなり手を貸した貴族や老臣は一部を除き生涯幽閉の身となった。
こうして、多くの犠牲を生んだ『竜の戦争』と呼ばれる戦いは終わった。
アルカナ王の私室から行ける秘密の地下室にはプルト以外に希少価値の非常に高い黒竜や亜人から作り出された魔道具が多数置かれており、話し合いの結果、これらの物は全てまた悲劇を生むだけの道具になると言われフォルティウスに送られることになった。
もちろん、プルトの亡骸から作成された3つの宝物も。
エリオスに元の世界に帰るかと聞かれ私は・・・この世界に残るという選択肢を選んだ。
元の世界には戻らない。
この世界で、プルトが最後まで願った『亜人と人が手を取り合う平和な世界』を作る手助けをしたかったから。
私の、現在の知識を使って。
いつかまた、竜が安心して空を飛び、
いつかまた、亜人達が国と国を行き来する、
そんな世界を、作るために・・・
フォルティウス国の新たなる王『ガブード王』から秘密裏に会いたいという手紙を受け取った。
ガブードはプルトの弟で私を姉としてずっと慕っていてくれた少年だ。
もちろん私はそのお誘いを受けた。
まずフォルティウスに着くとまず厳重なチェックをされフードを被せられた。
人間という存在を隠すためだという。
次にお城に着くと竜の間―――つまり謁見の間に案内・・・と思いきやそこはガブードの私室だった。
どうやら私を招いた事は民に秘密にしておきたかったらしい。
それは入国の時の厳重さから分かる。今回の事件で犠牲になった竜は100や200じゃないから人間全部が恨まれても仕方がない。
私のことを考えての選択だったのだろう。
ところでなんの用で呼び出したのか?
そう聞くとガブードは赤い箱に収められた2つの魔水晶を大事に取り出した。
コバルトブルーの澄んだ色合い。
プルトの瞳から作られた対の魔水晶。
『どうしても、貴方に見せたかったのです』
ガブードが2つの魔水晶に手をかざす。
1つの魔水晶には文字が浮かび、もう1つの魔水晶には絵が浮かんだ。
黒いインクを垂らしたようにゆらゆらと揺れ、それはどんどん広がって行った。
絵は2人の子供に見える。それに大きな竜。
文字の方は浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
『400年の時・・・を、へ・・・て』
『400年の時を経て過去の亡霊は蘇り二つの息吹を巻き込んで緑の大地へと復讐を果たすであろう・・・救われる方法はただ1つ。長きに渡り紡がれる女神の血と、新たなる女神の召喚なり』
『・・・どういうこと?』
『分かりません。ただ・・・兄が関わる事は確かです』
『・・・プルトが』
脳裏にプルトが発した最後の言葉が蘇る。
【オノレ、オノレ人間共ヨ!!!!ヨク聞クガイイ!!!!
我ノ体ハ滅ビテモ我ノ魂ハ滅ビヌ!!!!未来永劫呪ッテクレヨウゾ!!!!】
『このままでは兄は【狂い神】に落ちてしまいます!!』
狂い神。
その名の通り、なんらかの事情で闇に落ちて狂った神々のことをこう言う。
落ちた神を救う事は不可能で死してなお、その魂が救われる事は無い。
苦しみを解き放つ方法はただ1つ。
魂を消滅させるのみ。
しかしこの方法を取ればプルトの魂は永遠に失われることになる。
魂を失う。
それはつまり、転生が出来なくなるという事だ。
人も、人以外の者も、死ねば皆、輪廻の輪に入る。
そして長い長い年月をかけて魂を浄化するのだ。
何十年も、何百年もかけて。
人は転生する。
これは【生きる】者全てに与えられた神様からの贈り物。
天寿を全うした者も、
生まれてすぐ亡くなった者も、
善人も、
罪人も、
全ての人に平等に与えられる権利。
それが輪廻転生というもの。
けれど魂を失った者にはその権利は与えられない。
与えられるのは完全なる【無】
『・・・プルトが転生するのは400年後なのね』
『だと、思いますが』
『・・・長きに渡り紡がれる女神の血』
これは・・・私の子供が、子孫がって意味よね。新たなる女神の召喚はもちろん次に召喚される異世界人の事。
それなら、今の私に出来る事は1つ。
『・・・・・決めたわ』
私はグッと握り拳を作ると脳裏に浮かぶ言葉を決意の証として吐き出した。
『私、言うわ。エリオスに、結婚して欲しいと』
彼は、私を愛している。と同時に夫を失った私に同情、後悔といった感情を持っている。
だからその気持ちを利用するわ。
そして彼との間に子供を作る。
『マイ姉さん、それは』
『暴君を倒した英雄エリオスの血を引く子供を産むわ。王族の血は絶やしてはいけない。きっと、予言の年まで私の血は受け継がれる』
『・・・・・・・・・・・』
『賭けてみる。私達の子孫に。プルトを止めてもらうの』
私は人間だからどう足掻いたって400年も生きられない。
だから私の血を引き継ぐ者達に私の意志を継いでもらう。
庶民なら、血が絶える恐れがある。
けれど王族なら戦争や流行病が起きないかぎり血は守られるだろう。
『ガブード、協力して』
エリオスとの婚姻から10年がたった。
子供はもう8歳になる。名前はセリオス。
長かった。ここまでくるのに。
エリオスは理想の旦那様だったわ。それと同時に、良きパートナーでもあった。
全てを知りながら彼は私に協力してくれた。彼の気持ちを利用した私を許してくれた。
だから、彼との別れがほんの少しだけ・・・寂しくなった。
けれど、計画を止めることはできない。
止めてしまったら、この国が滅んでしまう。世界が滅んでしまう。
・・・大切な人達を、守りたい。
だから私は使う。
失われた魔法を。
『・・・これで、いい』
呪文を終えた後、自分の体が消えていくのが分かる。
自分の意識が消えていくのが分かる。
そして私は、
―――彼女に、会いに行った。
パタンと、日記を閉じる。
心臓がバクバクして止まらない。
なんて事だ。女神神話にこんな裏話があったなんて・・・読んだ後にも信じられない。
つまり真実はこう。
先代の女神様は魔王退治のために召喚されたが実際には魔王という存在はおらず魔王と呼ばれた竜王はとても気質の優しい方だった。
そして、先代女神様はそんな竜王を愛してつがいになった・・・つまり結婚したって事。
その後幸せに暮らしていた所にエリオスから一通の手紙が届いた。
それはエリオスの婚約の話で召喚されてからエリオスに助けて貰いっぱなしだった女神様はぜひ祝いたいと国へと戻ったがそれは暴君アルカナ王の策略だった。
アルカナ王は竜族と亜人達の豊かな土地が欲しくて女神を人質に取り竜王・・・つまり、プルトを魔王として公開処刑した。
その後、仲間の手によって城から脱出した女神とエリオスは反乱軍へと入り女神は軍の守り神として、エリオスは統治者として行動することになる。
終戦には3年もの時間が掛かった。
だがついに2人は暴君アルカナ王を退治することができた。
しかし、新たな問題が発覚したのだ。
プルトの亡骸から作成された魔水晶がプルトに関する不吉な予言を表したのだ。
それは、プルトが400年後になんらかの方法で蘇り世界に復讐するというもの。
そんな真似をすればプルトは狂い神に落ちてしまう。
だから先代女神とプルトの弟ガブードはとある計画を立てた。
その計画がなにかはハッキリとは分からないけれど、ただ1ついえる事は女神の思惑通り、英雄エリオスの血が現在まで続いたということ。
そして日記の通りなら今年が・・・400年の年になる。
つまり、日記に記された【長きに渡り紡がれる女神の血】とはセリオスの事。
【新たなる女神の召喚なり】はあたしの事。
ドクドクドクと心臓の音が早まる。
これはもう、セリオスの子供を産めば帰れるなんて問題じゃない。
ゲームの域を超えている。
なんで?どうして?
こんな設定は無かった。プルトなんてキャラクターは出てこなかった。
そもそも本当に、セリオスに呪いをかけたのはアークザルの手の者なの?
プルトは甦ってしまったの?それとも甦る前なの?
あぁ、分からない。
「・・・とにかく、ぴーちゃんの所に戻ろう。で、王様に会おう」
現在の竜王は先代竜王の従兄弟だと聞いた。
ガブードは生涯独身を貫き100年の時を経て自分の従兄弟のザナルに王位を譲ったらしい。
だから現在の王は『ザナル』王。
性格は『非常にイイ』らしい。悪戯好きで狡い。ぴーちゃんいわく面白いものが好きだという。
話の分かる人(てか、竜)なんだからもしかしたら協力してくれるかも知れないしなにか知っているかもしれない。
日記を抱え急いでぴーちゃんの元へと向かった。
空はもう暗くなっていた。
建物の外装にある松明が壁に体を預けるぴーちゃんとその腕の中で眠るカンナを映し出す。
幻想的な光景に思わずごくりと生唾が・・・おっと、ヤバイヤバイ
「・・・アイ」
「ごめんね、遅くなった。カンナも待ったでしょう?」
「カンナは眠った。アイ、女神の遺産は手に入った?」
「遺産かどうかは分からないけど日記があった」
「それが1つ目」
「・・・え」
「女神の遺産は全部で3つ。後の2つは女神が使った宝剣『フォルトゥーナ』、そして魔術書『貪欲な魔術書』」
「え!!貪欲な魔術書って見つかっていたの!?」
「元々貪欲な魔術書は竜族の宝の1つだった。そして『竜の戦い』の功績を称え女神に贈られた。これらの遺産をあわせるとある1つの秘宝になると言い伝えられている」
「秘宝?」
「言い伝えでは狂い神を止める唯一の『武器』だと」
「!?!?・・・残りの2つはどこにあるの?」
「宝剣『フォルトゥーナ』はザナル王が所有している。けれど、貪欲な魔術書の行方は分からない」
「そ、っか」
「でも、探すよ。アイがそれを望むなら」
「・・・うん。ありがとう、ぴーちゃん」
「アイの笑顔が、我の望み」
ちゅっと、頬にキス。
・・・・・・・・・・何度も言いますが、美形のキスにはなれません!!!