22章・とりあえず真実(前編)
先代女神の日記帳なので淡々と続きます。
2009年。7月21日。
私達は今部活動で鹿児島に来ている。
もちろん目的は皆既日食を見ること。
生で見るなんて初めての事だから興奮が止まらない。すっごく楽しみ!!
早く明日にならないかな~
2009年。7月22日。
驚くことが起きた。なんと皆既日食が起こると同時に私は別の世界に迷い込んでしまったらしい。
この国の王子、エリオスから聞いた話しではどうやら私は『女神』様らしい。
勘弁して欲しい。でも目的を果たさないうちには帰れないっていうのだからどうしようもない。
召喚された理由は『魔王を倒す』事。
・・・・早くも逃げ出したい。
この世界に召喚されてから2ヶ月がたった。私の前にも何人かが召喚されたという事実を知った。
ただ不思議なことに元の世界に戻ったと言う記録がない。
これはどういうことだろう?
とにかく情報が必要だ。運よく先代の女神の日記も手に入ったし調べて行こうと思う。
殆どが破けて読めない箇所が多いけど欲しい情報だけ分かれば良い。
今から読んでみよう。
異世界召喚の秘密を1つ知った。どうやら月が関係しているらしい。
そういえば私が召喚されたのも『皆既日食』の時だった。
そして先代の女神の日記に記されていた年月は2008年8月1日の『皆既日食』
偶然とは考えにくい。
ちなみにエリオスに聞いたところによると召喚の儀が行われるのも満月の日らしい。
月が鍵の1つ。間違いない!!
この世界に来てから半年が経った。
魔王退治の為に頑張ってきた修行も身についてきたからそろそろ思い切って魔王のお城に攻め込むべきだと思うの。
聞くところによると魔王とは白竜の事をさすらしい。
さしずめ竜王って所かな。
餞別として金銭の他に王様から魔王退治のための剣を頂いた。
宝剣『フォルトゥーナ』
運命の女神という意味の剣。
エリオスにピッタリだなって笑われた。
国を出てから一ヶ月が経った。
色んな事があったけど一番の出来事といえばエリオスから・・・その、好きだと告白された事。
男性から告白されたのは始めての事だから凄くドキドキした!!
どうしようと悩んだけど、エリオスがこの旅が終わるまでは待つと言ってくれたから甘えることになった。
それがどれだけ残酷な事か知っているけど・・・今は魔王退治の事で頭が一杯だしなによりエリオスの事は兄と慕っていたから急な展開に頭がついていかない。
ごめんなさい!!
新しい仲間がチームに入った。
魔法使い兼召喚術士のヨーナと格闘家ザナム。
ヨーナはもの凄い美人で元々は南の国出身の平民でこの大陸にある『書物』を探しに来たみたい。
その書物とは『貪欲な魔術書』
とても希少価値の高い魔術書で自らの意思で主を選ぶ意思を持った書物なんだって。
ザナムは強い相手を求めて西の方角からやってきたと言う。
なんでも魔王の話を聞いて自分の強さを試したくなったんだって。
武者修行・・・っていうのかな。
とにかく仲間が増えて心強い!!
ヨーナとザナムが仲間に入って2ヶ月がたった。
なんか最近腑に落ちない。
魔王は世界の天敵。
世界を滅ぼそうとする悪の化身って言うけれどその魔王の住む大陸に近づけば近づくほど魔王の・・・竜王の悪い噂が消えていっている気がする。
むしろなんか・・・良い噂ばかり。
これってどういう事なんだろう?
ついに魔王の住む大陸、『フォルティウス』にたどり着いた。
今、私達は戸惑いを隠せないでいる。
だってイメージと違いすぎている。
様々な種族がお互いに手を取り合って生きているし、人間もいる。
魔王は世界を憎んで滅ぼそうとしているんじゃなかったの?
とりあえず私達は宿を借りて情報を集める事にした。
なんだか嫌な予感がするよ。
ついに魔王と対面。
王座に座り優しく微笑む彼に私達は戸惑いを隠せなかった。
地に着くような長い銀髪の髪は風に揺れ、まるでダイヤモンドのような輝きを放ち、澄んだ青い瞳はまるでコバルトブルーの海を思い浮かばせた。
顔は文句なしの美形。
ほうっと思わずため息が出るくらい。
『ようこそ、わたしの、城へ』
魔王と呼ばれる竜族の長『プルト』
彼は・・・魔王などではなかった。
むしろ慈悲深い、神様のような人だった。
なぜ彼のような人が魔王などと呼ばれているのか。
理由は理不尽なものだった。
彼が、人間ではないから。
プルトはこう言った。
『人間は弱く儚い。だから自分達に仇なすモノ、仇なす可能性を持ったモノを許してはおけないのだろう』
それって凄く悲しいね。
私がそういうとプルトは悲しそうに笑った。
フォルティウスに来てから半月がたった。
結構この国になれたみたい。亜人達は人間にさほど悪い印象がないのか(この近くに住む人間は亜人に友好的)優しくしてくれるから住めば都。
ただ食事だけは中々なれないけど(汗)
トカゲに似た魚とカエルっぽい生き物のお肉が主食。
これ、本当にどうにかして欲しい(泣き)
最近エリオスの様子がおかしい。
自分達の概念が間違っていたわけだから戸惑う気持ちは分かる。
プルトは気にしなくて良いって言ってくれているんだけど・・・中々簡単にはいけそうもない。
この国で一番綺麗な場所はどこかと聞いたらプルトが空中庭園に連れて行ってくれた。
プルトの作った特別な庭園。
他人を入れたのは私が初めてだという。
名前はまだないと聞き私が付ける事になった。
中央に百合に良く似た透明の透き通る花が咲いていたから思いつきで『クリスタルリリー』って名づけた。
水晶の百合。この花のイメージにぴったりだったから。
意味をプルトに教えたら喜ばれた。
エリオスが一度魔王のことを報告するといって国に帰ることになった。
私も一緒にと言われたけれど、私はプルトの傍にいたいと断ってしまった。
エリオスの悲しそうな表情に心が痛んだ。
とっても良くしてくれたのにごめんなさい・・・
エリオスがいなくなって2ヶ月。
この国に住み始めて4ヶ月がたった。
赤い満月の日の一週間前。
プルトから衝撃的告白を受けた。
プルトがなんと私に『つがい』になって欲しいと言ってきたのだ。
竜族にとってつがいとは結婚を指す。
つまり私は今お付き合いをすっ飛ばしてプロポーズされたわけです。
赤い満月の日に答えが欲しいって・・・私、プルトの事どう思っているんだろう?
自分の気持ちが分からない。
なんで私にプロポーズしたのか分からない。
そうヨーナに言うとヨーナは心底不思議そうな顔をする。
なんでって・・・分かるでしょう?
だって私、特別美人じゃないし体だって貧弱だし・・・
なによりあんな美形に愛されるなんて・・・変じゃない?
一杯一杯にそう訴えるとヨーナに頭を撫でられた。
『じゃぁ、顔だけ取り柄の最低のクズ野郎と平凡だけどささやかな幸せをくれる凡人。結婚するならどっちが良い?』
顔がイケメンでも性格が最低なら嫌だって言ったらそうだねって言われた。
『プルトさんが求めているのって顔の良し悪しじゃなくて心安らぐ存在なんじゃない』
もう一度ゆっくり考える事にした。
ついに赤き満月がやってきた。
私はプルトのいる空中庭園に行くと彼にプロポーズの返事をした。
答えは―――Yse
私とプルトは今日この日より夫婦となった。
パラリとページを捲るたびあたしの頭の中はパンクしそうなほど混乱してきた。
おかしい。明らかに。
先代女神様は困難を乗り越えてエリオスと一緒になったんじゃないの?
一般的に普及している書物にはエリオスの父である暴君『アルカナ王』を女神とエリオスが共に手を取り戦って倒したと書いてあった。
そして女神は短いながらも共に過ごしたエリオスに恋をして元の世界に戻ることを拒み彼と共に国を作りそして治めたと。
なのに彼女の日記には結ばれた相手は竜王プルトとなっている。
プルトといえば神話に登場する竜王の事だ。
人間に恋して身を滅ぼした哀れな竜。
「・・・とにかく続きを読んでみよう」
ペラリと、一枚の紙が捲られた。