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Real Game  作者: 片倉葵
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1章・誘拐されて異世界へ

この章から異世界へと向かいます。

いつもとは違った柔らかい感触の中、あたしは目を覚ました。


めちゃくちゃ気持ちいい……暖かくて、やわらかい。

うわぁ~雲の中でお昼寝をしているみたい。ぬくぬく……


今の気持ちを表すならこう表現するだろう。それほど気持ちのいい寝床。

けれどそろそろ起きなければいけない。学校がある。


……起きるの……やだなぁ。


起きなければいけない。

頭では分かっているのだが体は欲望に忠実だった。

軽く瞳を開ければ、太陽の光が部屋全体を包み込んでいる。


……朝、……でも、まだ眠い。


捲るべき毛布を被っていく。

そして、やがておかしい事に気がついた。


……あれ?なんで……あたし寝ているの……?


記憶が正しければ今日は火曜日のはずだ。

一昨日は日曜日で学校は休み。昨日は月曜日で学校へ行った。


……どうしてお母さんは起こしにこないんだろう?


目覚まし時計を置かない主義のあたしの一日の始まりは母である神楽美奈の大声から始まる。

この感覚からもう起こしに来てもいいはずだ。だって多分時刻は7時過ぎ。

毎朝きちんと同じ時間に起こす母に限って今日は寝坊しまだ起きていないとか?


いや、それはない。

なんたって化け物並みに寝起きが良い母だ。

あたしが知っている十数年のうち、一度でもあの人が寝坊したという事は無かった。


と、いう事はだ。


1・起こしても起きないあたしに呆れ起こしにこなかった。

2・実は今日学校が休みなんです。

3・誘拐された。


可能性を述べるならこんなところだろう。

……2番は火曜日という線からありえない。

それに、創立記念日なんてものは我が高校には存在しない。


なら3番か?

……いや、さすがにありえないから1番を選ぶべきだよね。

うん。1番が……1番が……1番?

1番1番1番1番……学校遅刻……遅刻?


「ぎゃぁぁぁああ」


遅刻!!遅刻はヤバイ!!!!


今日の1時間目は確か数学!数学の先生、洒落にならないくらい厳しいんだから!!

しかも今日は確か小テストをするとか言ってた。受けなければ即留年の危機に陥る!!


遅刻だけはするまい!と、あたしは布団の中から飛び跳ねた。完全に目が覚めた。

そこでやっと気がついた。部屋の異変に。


なに、あの高価そうな壺は?(少なくとも十数万はいく)

なに、あの高価そうな絵画は?(最低でも数百万はいきそう)

てか、この異常にゴーシャスな部屋はなんなわけ?


「……ここ…………マジでどこ?」


グルリと辺りを見回したが見覚えが無い。


見覚えがあったらまだ安心していられたのに!!


そう心の中で叫びながらまだ夢を見ているのかと思い頬を力一杯に抓ると物凄い痛みがした。

ちょー痛い。マジで痛い(泣)

つまりは……夢じゃないって事だ。

……え、ほんとにどこ!?


明らかに自分の寝室ではない。

眠っていたベッドは涼しそうなアイスブルーの色をしていて、手触りの良い絹のようなシーツはどこまでも優しく包み込んでいた。


窓を囲む淡いグリーンのカーテンの傍にあるのは派手な装飾品の数々。

その下に敷かれた豪華そうな赤い絨毯。天井からぶら下がっている大きなクリスタルのシャンデリア。



金持ちなのに誘拐か?



あきからに混乱していた。

まったくの的外れな考えが次から次へと浮かんでくる。

微かに響く頭痛。


クラクラする。頭痛い……そうだ。外を見ればなにか分かるかも!!


「ま、窓……窓どこ?」


見つけた窓も豪華そうな装飾が施されていた。

乗ってる壺を割らないようにしなくちゃ。弁償できないし……あれ鍵が、開くかな?


不安があったがその不安を消し去るようにカタカタと音を鳴らし鍵はすんなり開いた。

とにかく外を見て確認しよう……窓の外にある景色を見て、


「……うそぉぉぉ!!」


驚愕した。


そこには日本ではあきらかにお目にかかれない美しく澄み切った空とエメラルドグリーンの海があった。

港には御伽噺に出てくるような船がいくつもある。

鉄ではなく、木でできたような物。あんなものは海賊映画や本でしか見たことはない。


それに空を羽ばたく青や緑の色合いをした鳥はなに?

青なんて色の鳥はインコ以外では見たことがない。

否、インコより濃い色合いをしているからインコではないだろう。

尾の部分も長く、まるでライオンのような鬣っぽい毛が頭の天辺部分を覆っている。

あんな鳥、見たことない。

それに外国の映画に登場するような作りの町並み。まるでタイムスリップしたかのように……


……あたしどこに誘拐されたの?


ヘナヘナと力が抜けて座り込む。


そもそもここは日本……なわけない。絶対違う!!

けれど、日本じゃないとしたらどのくらい眠っていたの?

1日?2日?もしかして……1週間、とか?


あぁ、つーかあたしの家は、


ビンボーですからお金はありませんよ?


犯人さんにはそう伝えないと……


そんな考え中、不意にドアの扉が開いた。


「オイ!!目が覚めたか」


初めに聞き覚えがあるような声が聞こえた。

ドアの外から現れたのは10才前後の美少年だった。


……怖いぐらいの、美形の少年。


蒼の髪はサラサラと風を受けてなびき、長い睫毛に縁取られた紫闇の瞳は目の前の1点……つまりあたしを見ていた。


その身を飾るのは染み1つ無い白いタキシード。

襟元は金糸で薔薇のような刺繍となにかの模様が施されている……う~ん……タキシードっていうよりまるで御伽噺に出てくる王子様みたいな格好だわ。

うん。その表現が1番あっている。


さらにその左背後には魔導士のような格好をして紺の長い髪を無造作に垂れ流した金色の目の美青年がいて、右背後には濃い緑の目に青銀の髪を三つ編みにした女神のように美しい美形さんがいる。


表情も実に個性的だ。美少年はムッツリした顔で苛立っているようだし、美青年はとってもニコニコ笑っているが目が笑っていない。

美形さんなんて無表情だ。


……あれ?んん?待てよ……どっかで見たような……


「目が覚めたかと聞いている。俺の言っている言葉が分からないのか?」


う~ん……この口調……


「貴様……なんとか言ったらどうなんだ!!」


って、


「思い出した!!!!」


思い出した。思い出したよ。

あぁ、なんだ。コレは夢だ。

夢に違いない。

だって、目の前にいるキャラクターは友人、真衣から借りた恋愛ゲーム、

『Real Game』

に出てくる攻略キャラクターの1人、クリスト王国第一王子、セリオス・エルタインだったから。


なんだ。夜中までゲームしていたから夢にまで出てきっちゃったんだね。あたしったらお茶目さん!!

いやぁぁぁ……でもやけにリアルな夢だね。まるで本物が目の前にいるかのようだよ。


「な、なんだ、この女は……」


10歳の美少年、セリオスが驚いたようにあたしを凝視した。

それはまるで頭大丈夫かこの女?と、言っているみたいに。


「あ、御免ね。あたしは神楽藍。こっちでは……アイ・カグラかな?」


「……俺はセリオス・エルタイン。このエルタイン王国の第一王子だ。そしてこっちが……」


「初めまして。わたしの名前はレガートといいます。

この城の宮廷魔導士をさせていただいています。

そしてわたしの後ろに控えているのがこの王国の騎士団副団長にして白銀の騎士の称号を持つ、シリウスです」


「初めまして、シリウスといいます」


「あ、ご丁寧にどうも」


ペコンとお辞儀をする。

いや、マジでリアルだね。

まるで本物……以上だよ。


「さて、まずはご説明いたしましょう。

今あなたはこれを夢、もしくは幻と思っているでしょう」


「夢だし(キッパリ)」


ドキッパリとあたしは言った。

それにレガートとか言った美青年が困ったように笑う。


「そう思うのも無理はありませんが……ハッキリと言いましょう。これは現実です。

そして、あなたは召喚されたのです。このわたし、レガードの手によって」


「……はぁぁぁぁぁぁ!?」


……頭、おかしいんじゃありません?

つかさ、召喚?召喚って、あたしゲームのやりすぎたか。


「もう!夢なのに冗談キツイって!」


「夢ではありませんよ。あなた、さっき自分で自分の頬を抓ったでしょう。赤くなっていますよ」


瞬間、頬に痛みを感じた。

そういえばさっき、抓ったね。自分の頬。


「……夢、だよね?」


と聞けば目の前にいる少年+2名は真面目な顔をして頭を横に振った。

騎士、シリウスに至っては哀れみの表情さえ浮かべている。


次第に不安になってきたぞ。これが夢でないとすれば…………もしかして……あたし、相当ヤバイ事に巻き込まれていない?


「あ、あのさ!!」


あたしを召喚したんだよね?なら、戻す事も可能では!?


淡い期待を抱いてレガードを見る。

しかし、彼は藍が言いたい事を悟ったのかニッコリと微笑んで、


「ちなみに戻す事は無理です。この国の、次期国王であるセリオス殿下の子供を産むまでは」


「……ごめん。耳が可笑しくなった。幻覚が聞こえた。初めから、ゆっくりとちゃんともう1度言ってみて」


「ですから、あなたを召喚したのはわたしです。そして、あなたは元の世界には帰れません。セリオス殿下の子供を孕み産むまでは」


……えっと……つまり、妊娠しろってことですか?ゲーム通りに?


ハッキリ言われて……頭の中が真っ白になった。


あれれ?今なんつった?

目の前の美青年はなんとおっしゃいましたか?

孕め?子供を?誰の?

妊娠しろ?子供を産め?……王子様の?

………………うそん!!


「わんもあぷりーずもう1度」


「(わんもあぷりーず?)ですから、帰りたかったらさっさと殿下の子供を産んでくださいと言っているんです」


「……なんで?」


「数日前、セリオス殿下が何者かによって呪いを受けて子供の姿に変えられてしまいました。まぁ、多分敵国の仕業だとは思うのですが……もちろん、呪いを解くためにありとあらゆる手を尽くしその方法が書き記された古文書を見つけ出し、解読もすみました。それでですね。その古文書によれば、最も安全にその呪いを解くには異世界の少女と交わり子を授かる必要があると記されていたのです。失礼だとは思いましたがまぁ、わが国のために犠牲になって貰おうかと思いまして。それで我が国の呪い師に協力をしてもらい、殿下と相性のよさそうな貴方を無断で召喚したというわけです」


ですからあなたを帰すわけにはいきません……ってねぇ。


「……確認の為に聞くけど、王子って誰?」


「この少年です」


レガードの傍に控えていた少年、もといセリオスが嫌そうに眉を歪めプイッと左を向いた。


……可愛くねぇ。すげぇ可愛くねぇ。

つーかね、あたしはね。


「あたし、ショタコンじゃありません」


ですからお断りします。全身全霊を持って。


「安心してください。中身は20歳を過ぎています」


「そういう問題じゃないから!!!」



「おやおや。ではどういう理由なんでしょうねぇ。言っておきますが、このわたし以外にあなたを元の世界に戻せるだけの魔力を持った魔導師はそうそういませんよ?ついでに言ってしまえば、帰るために必要な儀式の道具もわたしの手の中ですから」


キラリンとレガードの眼鏡が不気味な光を発する。

あ、悪魔の化身だこの人。


「さて、どうしますか?」


ふざけんな!!

……そう叫んでみたもののあたしの言葉なんて聞きとめてもらえず、


『興奮ぎみのようですのでまた来ますねV』


と彼らはこの部屋から出て行った。二度と来んな!!


……さて、と。落ち着いて整理してみよう。落ち着いて。



1・まずこれは夢ではないかもしれない。

だってリアルすぎるし抓ったら痛かったもん。これで夢だったら凄すぎ。


2・帰る方法

憶測だけど、多分レガードって人は帰り方を知っていると思う。

王子の子供を孕んで産めばなんとかしてあげる……みたいな事言ってたし、知っているはずだ。

……でも子供産むのはさすがに嫌だ。


3・これからどうするべきか

とにかくこの世界の情報を集める事。そして、帰るための手段を手に入れること。

その際に、バットED行きには気をつけること。目指せノーマルED!!



「とにかく、まずはこの世界を知る事から始めないといけないか」


これは、いつものゲームじゃないんだから。


……あぁ、地球にいるお母さん、お父さん、意地悪な兄さん。

どうやら神楽藍はマジで異世界トリップ(イン★ゲームバージョン)を体験してしまったようです。


ですが心配しないで下さい。

無事に帰って見せますから。

えぇ、もう絶対に。


つーか、いくらなんでもね、初めて会った(クリア済みでも)ゲームキャラに処女渡せるか!!!



こうして、あたし、神楽藍の『望まぬ』初の海外旅行は始まってしまったのであった。

アーメン。


セリオスの呪いを解くには異世界との間にできた子供が必要です。その理由はこの後に分かってきます。

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