8・8章・とりあえず過去話3
シリウスの過去話になります。シリウスはレガードとまた違った意味でのシリアスになるので読み比べて欲しいです。
母は美しい人だった。
流れる水のような青銀の髪は豊かに波打ち、
極上の紫水晶のようなその瞳はどこまでも輝いていた。
衣類に包まれても丸分かりな見事なスタイル。
幼さを残しつつも妖艶な顔立ち。
母は、美しすぎるほど、美しかった。
美の化身。
サーチンの宝。
どんな美姫も彼女の前では霞んでしまう。
その美貌は他国にも響きわたり連日求愛の手紙が天にも昇るほどだった。
そしてついにあの男、僕の父。
ダラムに目をつけられた。
ダラムはアークザル王国の貴族だった。
デルム伯爵家の二番目の息子。
甘やかされて育った典型的な貴族。
彼はサーチンへ来た際に偶然見かけたシャインに目をつけた。
シャインはサーチンにある小さな花屋の娘だった。
幼い頃から可愛く、年頃になればその愛らしさを残したまま成長した。
なのに体は人より立派に育った。
白桃のように形が良く、弾力があるにもかかわらず柔らかい胸。
スッとした体のライン。抱き締めれば折れて仕舞いそうな腰。
なによりいたぶり易そうな大き目のお尻。
匂いを嗅げば様々な花の香りがする。体に染み付いているのだろうか。
国に帰れば妖艶な女など腐るほどいる。
わざわざ危険を冒してまで手に入れるほどではない。
なのに、欲しかった。
あの女が。
嫌がる体をねじ伏せて、無理やり服を脱がせて、陵辱してしまいたい。
自らの熱を、彼女の中に埋め込みたい。
あぁ、彼女はいったいどんな声で泣いてくれるだろう。
あぁ、彼女はいったいどんな顔をみせてくれるのだろう。
想像だけで彼の熱は高まった。
奪って
捻じ込んで
犯して
孕ませて
気がつけばダラムは少女を連れて帰っていた。
奪い去った。
彼女の、なにもかも。
シャインはもちろん泣いて抵抗した。
だがすでに成人したダラムに17歳の少女の力などないも当然だった。
力ずくの行為は、彼女の生きる気力を全て奪った。
死にたいと、死に急ぐシャインにダラムはこう囁いた。
『お前が死ねば、お前の家族の命はないな』
ダラムはすでに彼女の両親を抑えていた。
人質。
その言葉だけがシャインの頭の中にあった。
シャインは泣く泣くダラムの愛妾になった。
朝も
昼も
夜も
ダラムは彼女の体を貪った。
自由など、あたえなかった。
暗い部屋に閉じ込め、ただひたすら彼女を犯し続けた。
やがて5年の歳月を得て2人の間には子供が出来た。
生まれた子供はシャインの面影を持っていた。
可愛らしい顔立ち。
青銀の髪。
紫の瞳。
ダラムに似た所などなかった。
シャインはギリギリの所で精神を保った。
どれほどの時間がたったのか。
忙しさのあまりか、ダラムはシャインの所に来ることがなくなった。
この時シリウスは3つだった。
やがて風の噂でダラムが新しい愛妾を迎えたことを知った。
まだ12歳だというその少女はすでに立派な『大人』であった。
シャインは、壊れかけた。
なぜなぜなぜ!?
私をこんな目に遭わせたのに!!
私の人生を奪ったのに!!
なぜあの男だけが幸せになれる!?
たとえ愛などなくても、
私にはあの人だけだったのに!!!!!
いっそ、死ねたらと思った。
けれどシャインにはシリウスがいた。
ただただ1人の、愛する息子が。
それから数ヶ月の間にシャインは開放された。
愛妾に、子供ができたのだ。
男の子だった。
厄介払いされたシャインは4つになるシリウスを連れて、生まれ故郷のサーチンに帰った。
ここからやり直そう・・・大丈夫。私は1人じゃないわ。
家族が居る。母も父もシリウスだって。
だけど緑溢れる活気づいた村『サーチン』は瓦礫の山となっていた。
壊れた人形のようにシャインはふらふらと自分の両親の元へと向かう。
なにもなかった。
赤黒い液体が付着した瓦礫以外は。
あのいつも漂う花の香りも
優しい微笑を見せる母親の姿も父の姿も
元気溢れる隣のおばさんも
なに1つ。
残ってはいなかった――
『いやぁぁぁあああ!!!!!』
シャインは壊れた。
文字通り、壊れた。
・・・自らの、命を絶って・・・
可愛そうに・・・あの子、あのダラム伯爵の息子なんですって
ダラム伯爵の?ダラム伯爵の子供ってまだ一才ぐらいじゃ・・・
3番目の愛妾よ。飽きたから捨てられたのよ
・・・可愛そうね・・・身内は?
それがずっと前に殺されたんですって。誘拐された娘を返せって騒いだから不敬罪で
それってサーチン村の?
そう。貴族に逆らった罪で村が1つ潰されたじゃない。あの子の母親、知らなかったみたいで精神病んじゃって自殺したって・・・
まぁ!!・・・なら、母親はいないのね。
・・・なに考えているの?
・・・・ふふふ・・・あの子、今はまだ子供だけど後数年もすれば私達の相手として・・・
まぁ・・・楽しそう。
ねぇ、あなた。私と一緒に、来る?
シリウスに声をかけて来たのは1人の女性だった。
彼女は傭兵で夫を戦争で亡くし天涯孤独の身となっていた。
シリウスはその日から彼女と共に世界を回り始めた。
時に雪の降る都に足を運び、
時に知識の溢れる都市に足を運び、
時に戦場でその身を任せ、
彼の体は貪欲に求めた。
―――力を。
地位を。
だがシリウスの様な生まれの者が地位を手に入れるチャンスなどないに等しかった。
けれど、神はシリウスの味方をした。
彼が15歳のときにエルタイン王国で武道大会が開催されたのだ。
優勝、否、せめて優秀な成績さえ残せれば騎士になれる。
この国で地位を得られる。
目的が、果たせる。
あの男に、復讐を!!
彼は、圧倒的な強さを持って優勝した。
特典として与えられた地位はこの国でもっとも名誉ある『銀の騎士』
長年彼と共に生きてきた女性は叙勲式で見せた彼の表情にゾクリと寒気を覚えた。
シリウスは過去の出来事から笑わなくなった。
まるで仮面を被ったかのように表情を消し、生きてきた。
その彼が、まるで全てをあざ笑うかのように笑った。
冷たい、氷のような瞳を歪ませて、
美しい微笑を見せて。
それから1年後の事だった。
シリウスが、戦場で1人の男性の首を持ち帰ったのは。
なにもかも、捨てたはずだった。
仮面を被り、生きてきた。
なにもいらない。誰も信じない。
そう、思っていた。
なのに、
「むりっす―――!!!!不可能~~!!」
「あはははは。ほら、玉はここですよ」
「ムッキ―――!!」
彼女の傍は酷く心地よかった―――
レガードの笑い→人を馬鹿にしたような笑いで不快感を与える。わざとらしい。
シリウスの笑い→無表情。口だけ動く。まるで仮面を被っているかのよう。
セリオスの笑い→ニヤリ。
どの笑いもなんか嫌
すみません!!久しぶりに書いたので前回の8章と誤りがありました。
書き直しておきました。本当にすみません(汗)