8章・とりあえず憂さ晴らし
最悪最悪最悪だ!!
叫びたい気持ちを押し込んでズンズンと自分の部屋への道なりを進んでいく。
結局、朝まで一緒に寝てしまった。
しかも目覚めてみればベッドの中でレガードは半裸。
(誤解ないように言っておくけどあたしは服着ていたから!!)
非常にいい笑顔を奴は見せた。こう、ニヤリと。
そして一言。
夜這いしたのですか?と。
イヤイヤイヤ!!!
あんたがベッドに、連れ込んだんでしょう!?
そういえばこう言った。
・・・覚えてませんねぇ。と。
こんの、よっぱらい野郎!!
部屋は遠かった。
だから手短な部屋に入り、誰もいないことを確認して。
「……最悪だーーー!!!」
叫んだ。
「なんだか今日は機嫌が悪いようですね」
「ソウデスカ?」
「なにかありましたか?」
「……ナニモアリマセン」
昨日の夕方、レガードに押し倒されて今日の朝まで一緒に寝ていました。
なんていえるわけがない。
「……なるほど」
「って!!人の心読まないでよ!!」
「アハハハハ。無理です」
しれっと、シリウスは言う。
もう彼は化け物じみていると思う。心が読めるとかほんとありえない。
それともなにか?この世界の住人になる為には心が読めるという特殊技能が必要だとでもいうのか?あ゛ぁん!(←ガラ悪ッ)
そう言ってやればシリウスは困ったみたいにため息をついた。
「アイ様が素直すぎるんですよ。大体、僕は心読めません」
「……前も読んでなかった?」
「読んでいませんよ……って、疑わしそうな目をしていますね」
「うん」
信用できない。
そう思っていたら頬をうにょーんと引っ張られた。
力を加減してくれているみたいだから痛みはあまり無いけど。
「ちりうしゅ……ふぁなぁしぇてぇ」
「あなたは僕をなんだと思っているのですか?僕は心を読むという技能なんてないですよ。あえていうなら他人の表情を読み取るのに長けているだけです。あなたは特に顔に出やすいですから誰にでも読めますよ」
呆れた顔……けれど口元が緩んでいるから怒っているわけではなさそう。
最後にペチリと叩かれて頬を伸ばしていた手がなくなった。ピリピリするよ。
「……そうなの?」
あたしの疑問にシリウスはニコリと……否、ニヤリと笑った。
「はい。ですから心は読んでいません。とはいえ昨日なにがあったかは大体想像付きますがね」
「……この話題、やめよっか」
シリウスって怖すぎる。
絶対なにがあったか分かっている顔だってあれは!!
「アイ様がそう言うのならば止めましょう」
「そうしてください。それよりもさ、シリウスってこの国の人なの?」
「……そう見えません?」
「ん~……シリウスの言葉ってこの国の言葉となんか違う感じがするから出身国が違うのかなって」
訛りっていうのかな?ちょっと違和感を感じる。
そういえばシリウスはあぁっと口にした。
「良く分かりましたね。ですが僕はこの国……正確には昔滅んだサーチンと言う村出身です。まぁ、幼少の頃は少しの間、他国で過ごしていましたけど」
「あ、やっぱそうなんだ。どこで育ったの?」
「アークザルです。4歳までは父の元で過ごしていましたからどうしても少し訛ってしまうんですよ」
「え?でも、アークザル国の民はほとんどが肌の色濃いとか髪の色は黒とか茶とか聞いたけどシリウスの髪の色は青銀だよね。母親似?」
「はい。顔立ちも色素も母に似ました。しいて言えば剣術ぐらいですかね父に似たのは。運が良かったです」
運良くって……確かに色黒のシリウスは想像付かないけどさ。
……うん、嫌だ。なんか嫌。
「母親に似て良かったね」
「えぇ。父に似るなど……考えただけでおぞましい……」
「そこまで自分の父親の事嫌いなの?」
「えぇ。嫌いですね」
「……理由、聞いてもいい?」
「………………」
空気が、変わった。
踏み込んじゃいけない領域に踏み込んでしまったらしい。
不味い……またやっちゃった。
「あ、もちろん言いたくないなら言わなくてもいいから!!あたしの好奇心だしね!!」
う~う~う~……難しい顔してるよ……どうしよう。
それから少しの時間が経って、シリウスはふと、剣を持ち上げた。
「では、アイ様が僕から一本でも取れたら教えるということで」
「………………は?」
一本って……剣でシリウスから一本取るって?
………………はぁ!?
「無理無理無理無理無理!!!」
普通に無理ですって!!
「大丈夫ですよ。手加減しますから」
言葉の節々が楽しそう。
つーか、なんちゅうイイ笑顔しますか!!
否、微妙に無表情だけどさぁ!その微妙な変化が分かるのも嫌!!
そんなスキルいらなかったぁ!!!!
「では僕から参りましょうか」
「無理っつってんじゃん!!」
「アイ様、やらない前から諦めてどうしますか」
「普通に考えて剣術始めたばっかりの女が国のトップクラスの騎士から一本取れると本気で思っている!?」
「ではハンデとして片手で戦いましょう。オマケに利き腕とは別の腕を」
「それでも無理です!!」
普通に無理です。
「……でしたら僕が素手、というのはどうでしょう?」
「素手でどうやって戦うの」
「戦うのではありません。いわいる鬼ごっこです」
鬼ごっこ……って。
吃驚するあたしの前にシリウスは500円サイズの玉を取り出した。
紫色の石で天辺に穴が開いている。そこを紐で結びシリウスは自分の腰に括り付けた。
「制限時間一時間以内にこの玉を取れればアイ様の勝ち。守りきれれば僕の勝ち。どんな手を使ってもかまいません。
もし、アイ様が勝てれば僕に出来ることは何でもしますし何でも話しますよ」
なんでもしてくれる?
あ~んな事やこ~んな事を?
う……ちょっと魅惑的な条件……すばらしい誘惑だ。
心が揺れる。踊らされる。
「ちなみにあたしが負けたら?」
「そうですねぇ……では、昨日の出来事を在る事無い事話していただきましょう」
「拒否します」
「これも修行の一環ですから」
拒否権無しときたか。
正直なところ、逃げちゃおうかと思った。
逃げようと思えば逃げきれるかもしれない。
けれど怖い。
身に纏う雰囲気がピリピリしていて怖い。
……こいつ、本気だ(汗)
悟ってしまった。
仕方がなく、諦めた様子であたしは剣を持つ。
シリウスは『どんな手を使ってもかまわない』と言った。
と言うことはなにも手で取らなくても剣で切り落としても良いと勝手に解釈させてもらう。
そうでもしないと取れないって。体力もスピードも違うんだから。
って、いうのは建前で本音はイライラ発散だ。
国のトップの騎士なんだから素人の剣ぐらい簡単に避けられるだろうに。
あたしの意思を汲み取ったシリウスはいつもの通り、無表情のままニヤリと笑う(気がした)
「では、どこからでも」
その始まりの合図と同時に飛び掛ったが所詮は齧った程度の剣術。
結果など……言わずとも分かるだろう。
「……参りました」
一時間という時間で行われた鬼ごっこはシリウスの圧勝という結果に終わった。
いや、ね、だって、ね……勝てるわけ無いって!!
早いんだよ!?残像が見えて2人とかに見えるんだよ!?
ありえない速さだって!!かすりもしないし!!
「では、有る事無い事話しちゃってください♪」
……その後、シリウスの巧みな話術によって明るみとなった昨夜の出来事は面白いと感じたシリウスによってセリオスの元へと報告されたという。
一ヶ月ぶりの本編更新です。
最近、セリオス無視してサブキャラとの縁を深めているような気がする。特にレガード、出る回数が多い(汗)書きやすいからなぁ・・・
うん。そろそろセリオスといちゃいちゃさせたい。