7・7章・とりあえず過去話2
レガードの過去話になります。
結構なシリアスで拷問系も入るので苦手な方はご遠慮をお願いします。
『その目も、髪の色も、全てが気持ち悪い!!いっその事、お前など産まなければ良かった!!』
幼い頃から母はそう言いつづけた。
それは、一種の呪いの言葉だった。
紺の髪。金色の瞳。
母の髪は紺よりも濃い茶の色だった。
瞳は緋色。
容姿も、彼女はどちらかといえば可愛い感じのする女性だった。
対して自分はすっきりとした顔立ちだった。
母に似たところなど、何もなかった。
『お前など、生まれてこなければ良かったのに!!』
それは口ぐせだった。
なにかと母は自分に辛くあたった。
幼い頃の記憶といえば、ワインを浴びるように飲む姿。
耳を支配する呪いの言葉。
目を支配する憎しみに満ちた鬼のような形相。
そして、体を支配する痛みと熱さ。
これだけだった。
記憶の中で、母が優しかった事など、なかった。
毎日のように繰り返される痛みは次第に思考を奪っていった。
産みたくなければなぜ産んだのか。
一度だけ、母に聞いたことがあった。
彼女はニヤッと笑った。
『あんたの父親から金をせびる為よ。それ以外、あんたの価値なんてどこにあるのよ』
自分の生まれた意味を知った。
どのくらいの時間が経ったのか、いつしか『魔法』という存在を知った。
他の子供とは違う。それがまた異端のようで嫌だった。
だが、次第にそれは安らぎとなっていった。
望めば、精霊は姿を現してくれた。力を貸してくれた。
常に傍にいて、支えてくれた。
苦しいだけの暮らしが少しだけ楽になった。
さらに2年の月日が経った。
それは唐突に現れた。
父である存在がわたしを養子に引き取りに来たのだ。
母は喜んで大金と引き換えにわたしを『売った』
本当に道具なのだと知った。
父は中流とはいえ貴族だった。
暮らしは前に比べると大分楽だった。だが、覚えることも多かった。
父には正式な妻がいた。
母とは不当な関係だったらしい。
憎い愛人。
その子供であるわたしにソニア様は辛く当たった。
2人の間には子供がいなかった。
ソニア様は子供が出来にくい体質だったらしい。
そうか、だからわたしは引き取られたのか。父の正当な血を引く跡継ぎとして。
だがその結果にソニア様が不満なのは分かりきっていた。
ネイリス家の次期当主として、その名に恥じない行動をとるように言われた。
魔法など、もってのほかだった。
いつしか、精霊のことも忘れた。
5年の歳月が流れ、12歳の誕生日を迎えた。
父とソニア様の間に子が生まれた。
男の子だった。
わたしは本当の意味で必要なくなった。
その年から、地獄は始まった。
『汚らわしいっ……汚らわしいわ!!』
いくつも束ねた鞭で毎日背中を打たれた。
熱さと痛みが同時に襲い、逃げようにも首につながれた鎖のせいで逃げることは叶わなかった。
あまりの苦痛に悲鳴を上げる。
少しでも逃げたいと床に爪を立て前へと進むがジャラジャラという音を鳴るだけで無駄に終わった。
血ガ流レレル。
爪ガ剥ガレル。
体ガ……コワレル
その行為が早く終わるように祈り続けた。
ソニア様の顔がいっそう歪む。
『お前など!!お前などに!!ネイリス家の名を渡すものかぁぁああ!!』
そんなものはいらないと、心の中で叫び続けた。
いっそ、すべてを吐き出してしまいたかった。自分の思い、なにもかも。
だがその言葉を口に出せばどんなおぞましい事になるか、今までの生活で分かりきっていた。
クッと唇を咬み……耐えつづける。
自分に出来ることはただ意味もなく謝り続けることのみ。
たとえ、どんな非道な扱いを受けたとしても……
『あぁああぁぁぁあぁ!!!!』
家畜のように、背中に『刻印』を刻まれたこともあった。
鉄で熱されたそれを背中に捺され、ジュッと嫌な音と臭いが部屋中に充満する。
肉を焼かれる感覚。ありったけの声を出し、逃げようとするが叶わない。
荒い息。体を庇うように丸めるその惨めな姿をソニア様は気に入った。
体はその日のうちに優秀な魔導師によって癒された。
だが、治れば痛めつけられ、痛めつけられれば治され、
その繰り返しの中で心は病んでいった。
父はソニア様の言いなりで、助けてなどくれなかった。
わたしは悟った。
所詮この世界は強者が勝つように出来ている。
弱い者は惨めに生きるしかないのだと。
わたしは誓った。
いつか、自由を手に入れると。
さらに3年という月日が経ち、15歳になった。
わたしの存在を知った幼い殿下がわたしを地獄から解放した。
守るために低いながら地位を与えた。
王国宮廷魔導師の見習いという地位を。
『お前に力があるのなら、這い上がって来い。力を示せ。
目的を果たすなら、利用できるものは利用しろ。この、俺さえもな』
えぇ。あなたの王子という地位を利用させていただきます。
本当の意味で、自由を獲得するために。
穢れているとはいえ、貴族の血筋もあり、出世は実力も伴って難しくはなかった。
その実力が真に認められ、新たな『セシル』の名を頂いたのは18の時。
わたしはレガード・ネイリスからレガード・セシルになった。
「……っつ!!」
小さなうめき声がもれた。
何度も繰り返す荒い呼吸。じわじわと流れる汗が気持ち悪い。
遥か昔に棄てた過去。その夢を、今更観るとは……
「……これのせいですかねぇ」
もう何年も会うどころか連絡すらとらずにいた義母より送られた一通の手紙。
悪夢はこれが原因か……それにしても、
「なんなんですか……この状況は」
思い出そうとしても……正直記憶が飛んでいた。
酷く酔うほど酒に弱いわけではない。なら、どれほど飲んだのか。
床に散らばったワインのビンを数えるのが恐ろしい。
(そういえば、アシュリアを呼んだ気もしますが……)
もはや記憶などない。
……言ってしまえばなぜ床でアイ様を抱きしめているのだろうか?
服を着て寝ているのだから間違えは起こしていないだろが……ふむ。
(…………とりあえず)
彼女を起こして事情を聞くべきか。
ワタワタと慌てる彼女の姿が安易に予想でき、レガードの瞳が笑った。
レガードは女性好きな感じがありますが実は女性に対して嫌悪感を抱いています。女性は利用するもの。利用してし終われば価値のないものという考えの持ち主なので歪んでいます。
ですが面倒ごとを避けるために手を出す相手は考えています。王宮内で手を出されて・・・というか口説かれていないのはリディとアイぐらいでしょうか?
メイドはもち口説きまくりです。ある意味王宮内のことを知り尽くすのはメイド達でしょうから半数以上は攻略済み(笑)