コロシテ……コロシテ……
――どこへ行った! 追え!
――クソッ! あいつら、火をつけやがった!
――まずは火を消すんだ! 早く! 研究データが!
旅行中、とある集落に迷い込んだジョンとステファニーは、そこで怪しい実験を行っていた者たちに捕まってしまった。だが、ジョンが隙をついて施設に火を放ち、二人は地下の坑道を通って脱出を試みていた。
「やったわね、ジョン!」
「ああ、でもまだ油断はできない」
「あ、ジョン! 後ろを見て! 化物よ!」
前を走るステファニーの叫びに、ジョンは慌てて振り返り、盗んだ銃を構えた。暗闇の中に、黒く毛むくじゃらの大きな影が浮かび上がっていた。
ジョンは狙いをつけ、引き金に指をかけた。
「ジョン! 早く撃って!」
「ああ! ……ん?」
「どうしたの、ジョン! 早く撃ってよ! 二人とも殺されちゃうわ!」
「ああ、でも、あいつ、こっちに向かってこない。それに……何か言っている?」
『コロシテ……コロシテ……』
「言葉を……まさか、こいつ、もともと人間だったのか……?」
「そうなのかも。悲しそうな声だわ……。あの連中に改造されて、こんな姿にされたから殺してって言っているのね。さあ、楽にしてあげましょう……」
『チガウ……』
「え?」
「違うらしいわ。やっぱり化物なのよ。早く撃ってよ、ジョン!」
「いや、でも、人間の言葉を理解してるじゃないか。なあ、あんた、やっぱり元は人間だったんだろう?」
『チガウ、チガウゥゥ……』
「落ち着け! 心までそんな醜い化物にならないでくれ!」
『ワタシハ、ニンゲンデス……』
「そうとも、あんたは人間だよ。さあ、一緒にここを出よう」
『イヤ……』
「大丈夫、さあ、ほら、おいで」
『デモ、ココヲデテ、ゲンダイシャカイニ、トケコメルカ、フアンデス』
「おおぉ、それはその、たぶん大丈夫だよ……」
『コノシャカイハ、レールカラハズレタモノニ、キビシイ』
「そうかもしれないけど……いや、よく喋るな」
『イケマセンカ?』
「いや、いけなくはないけど、化物に改造された元人間って、自我がほとんど残っていないものと思っていたよ」
『ソモソモ、カイゾウ、サレテマセンカラネ』
「え、でも、その姿は……」
『モトモト、コンナカンジデス』
「もともと!?」
『レンチュウカラ、カクレ、ニゲテイルウチニ、カミガ、ボサボサデ、フクモ、ボロボロニナッテ、ココロモヤミマシタ……』
「あっ、そういうことだったのか……てっきり化物かと思ったよ。言葉だってカタコトだし」
『マア、アナタガタト、ジンシュガ、チガイマスカラネ。カンチガイ、スルノモ、ムリハナイカモシレマセン』
「あ、ああ……ははは……」
『サベツシュギシャ……』
「ち、違う! 俺はそんなつもりじゃない!」
「ねえ、いつまで話してるの? 早く行きましょうよ!」
「でも、この人も一緒に……」
『コロシテ……コロシテ……』
「早く! このままだと外に出た途端、包囲されるわよ! そいつを置いて早く逃げるのよ!」
「ああ、クソッ! 警察に連絡して連中は必ず潰すから、それまで耐えててくれ!」
ジョンとステファニーは再び暗い通路を走り出し、やがて姿は見えなくなった。
だが、その場に残された彼はまだ呟き続けていた。
『コロシテ……コロシテ…………ああ、その女は奴らの仲間なのに……」