八話
「お嬢様!!」
部屋に灯りが戻るとシエラがレリアナに抱き着いた。
「キャッ!シエラ…?どうしたの…?」
「良かった!!本当に…良かった…!!」
そういう彼女の目尻には涙が溜まっていた。
「闇の精霊に初めて接触した人はその人物の闇や弱点につけ込んだ映…いや、記憶や景色を見せる。だから、見ていたものは人によってはバラバラ。恐らく彼女はレリアナ様に何かあった時の事を見せられたんでしょう。愛されてますね」
「…そう…ですね」
レリアナは自分に抱き着いて、今にも涙が溢れそうなシエラを見て微笑み、彼女の頭を撫でる。
「私には勿体ない程の素敵なメイドです」
「そんな事はありません!!私はお嬢様にお仕えする事が幸せです!!」
「…ありがとう、シエラ」
レリアナは抱き締め返すと目の前に白のワイシャツと黒のパンツとサスペンダーを着た少年にも少女にも見える見覚えがある子が居た。
「貴方は……ライト?」
レリアナが聞くとコクンと頷いた。
「貴方もこっちに来て」
彼女がそう言うがライトは申し訳なさそうに下を見ている。
「どうしたのライト?」
「貴方にトラウマを見せてしまった事で自己嫌悪してるんですよ」
「そうなのライト?」
彼女が尋ねるとライトはコクンと頷く。レリアナはその姿を見て嬉しくなってライトに笑いかける。
「大丈夫よライト。貴方のお陰で私と向き合えた。ライトには感謝しかないわ。だから、遠慮なく来て良いのよ」
ライトは彼女にそう言われるとタタタッと近付いてレリアナの目と目を合わせる。レリアナはシエラと同じようにライトの頭を撫でる。
「これからも宜しくね。ライト、シエラ」
「はい!勿論です!」
コクコクとライトもシエラに同調して頷いた。二人を優しさで包み込むレリアナを見てリーグストは彼女に森で動物達と触れ合い佇む聖女のような想像が湧き、見惚れる。
(随分と噂と違うな。魔女どころか聖女じゃないか。…と、見惚れてる場合じゃない)
リーグストはパンッと手を叩いて注目を集める。シエラはリーグストも居た事を思い出し、「失礼しました」と顔を真っ赤にしながらレリアナから離れる。
「さて、レリアナ。これでようやく明日から本格的な魔法の授業が開始出来ます。ビシバシといきますので御覚悟をしていて下さい」
「そ、それは…恐いです。…でも、私にはライトが居ます。この子が居れば私は無敵です」
自信に満ち満ちた表情で挑発的に笑うレリアナを見て、リーグストもニヤリと意味有り気に口角を上げる。
「そうですか。楽しみにしてます」
リーグストは退室しようとドアの方に向くとあっ!と何かを思い出した声を出して振り返る。
「そうだ。明日の前に大事な事をお教えしましょう」
「何でしょう?」
「実は闇の精霊は影だけではなく水と風の魔法を扱えるんですよ」
「えっ?そうなのですか?…それは闇属性だけなのですか?」
「いえ、聖属性であれば火と土の魔法を扱えます。その理由はよく分かってないんですが…。まぁ、予想…というより持論はありますけど、不確かな情報なのでそれは言わなくて言いでしょう」
「正直気になりますが、先生がそう仰るなら聞かないでおきましょう」
「明日からは闇だけでなく影と水と風の四つを学んで行きましょう。では、俺はここで失礼します」
「はい。お疲れ様でした」
レリアナは立ち上がり、リーグストに頭を下げる。リーグストも彼女に軽く頭を下げて、ドアノブに手を掛けるとシエラに力強く肩を掴まれる。
「先程の事は忘れて下さいね。でないと私……貴方の記憶が無くなるまで、殴りますから」
「オ、オーケー」
シエラに脅されたリーグストは顔を強張らせながら返事をすると解放され、シエラから逃げるように退室した。