五十話
魔王封印ではなく討伐を成すという偉業を達成したレリアナとリーグストは王都での凱旋パレードと聖女と勇者の結婚を共に行う事が決定し、大々的に行う為に時間を要する。その時間を作るのにレリアナとリーグストはサレスティアの領地で休みを取る事となった。
「にしても……まさか私がアルマリアを雇う事となるなんて…」
レリアナはリビングでパタパタッと慌ただしくメイドとして働くアルマリアを見てそう独り言ちる。
魔王討伐後、気絶していたアルマリアを運び、目を覚ました彼女に何故魔王の所に居たのか聞こうとすると、目覚めた直後に彼女は飛び起きて開口一番に発言した言葉に皆が驚いた。
「ヤバい!学園に遅刻しちゃう!!」
アルマリアの事を診察した医師によると記憶喪失。それも思い出等に関する記憶。知識等の記憶は残っており、学園で習った事は大まかだが覚えていた。しかし、この状態のアルマリアを放置は出来ないと皆悩んだが、国王が戦力として欲しがっていたのを思い出し、何も分からない彼女を戦場へと追いやるのは不味いと判断したレリアナはアルマリアを雇う事に決めた。更にライトが入れ替えた属性だが、調べた結果アルマリアの適性属性は聖属性のままで、レリアナの属性は聖属性となっていた。闇属性は謎の人型と共に消えたのだとレリアナとリーグストは結論付けた。
アルマリアの態度と働きぶりは魔王戦の時と同じ人間とは思えない程に文句を何一つ言わず、笑顔で仕事を熟していった。元々レリアナから王子を奪った敵という認識から屋敷の人間は彼女に対して厳しい態度を取っていたが、彼女の真面目な勤務態度と1覚えると10理解する優秀さに皆の態度は短期間で軟化していった。
「…にしても、あのアルマリアさんに取り憑いていた人型は何だったのかしら…。もしかして、悪霊…?」
どれだけ考えようとも納得する答えが思い浮かぶ筈もなく、直ぐに思考を放棄した。
「お嬢様。仕立屋の方がいらっしゃいました。御部屋に御案内致します」
「ええ。ありがとう」
レリアナはシエラに仕立屋の居る部屋へと案内され、中へと入るとキャッソクのような真っ白のウェディングドレス、白い布に金色の刺繍が入ったストラが掛けられており、神聖さと美しさが渾然一体となった素晴らしい衣装だった。仕立屋のお婆さんが持つミトラを合わせれば聖女の名に相応しいウェディングドレスが完成されるであろう事は想像に難くない。
「凄い…。こんな素敵なウェディングドレス、見たことがありません。レリアナ様に御似合うになるのが想像出来ます…」
シエラはうっとりとした表情でいつかは自分もと憧れの視線を向ける。
「シエラも素敵なウェディングドレス見せてね。良い感じなのでしょ、アストンと」
「えっ…あ…その…」
シエラはテレテレと頰を朱色に染めて俯く。最近シエラはアストンと両家に挨拶をし、結婚の話がいよいよ現実味を浴びた頃だった。
「…近々しようか…とは御話になってますが…。お嬢様の結婚式から直ぐに……とはいきませんから。…結婚は一年後くらいになるかと…。それにそもそも庶民では結婚式は挙げられませんし、ウェディングドレスは夢であって叶いませんから」
「そう…なの…」
庶民が結婚式を挙げられない事をレリアナは初めて知り、ショックを受けた。このような素晴らしい行事が貴族しか行う事が出来ないなんて…。
「…決めた。私、いつか庶民の方々にも結婚式を手軽に挙げられるようにする。先ずは手始めに…シエラ」
「は、はい」
「貴方の結婚式を計画するわ。庶民でも出来るような価格設定やプランを考える。その時には貴方も力を貸して。良ければ仕立屋さんも」
「ほっほっほ。それは面白そうですな。良いでしょう。私も乗らせて頂きます。その話、私の知り合いにも話して宜しいでしょうか?」
「勿論。貴方達商人の力は必要不可欠。必ず成功させましょう」
「ええ!期限は一年以内!厳しいでしょうが頑張りましょう!」
自分の為と思うのは烏滸がましいとは考えつつ、シエラはレリアナが自分の夢を叶えてくれようとしてくれる事に感極まり、駄目よと思いつつも涙が……嗚咽が止まらなかった。
「…私…本当……に…お嬢様に……仕えられ…て、幸せ…です…」
シエラは暫く泣き続けた。
「失礼しました。二人の御時間を取らせてしまい」
「ほっほっほ。仕方ないわよ。庶民で結婚式を挙げられるなんて嬉しいわよね。感激するのは私も分かるわ。私も挙げたかったもの。結婚式。でも、出来る程のお金なんて無いしね…。貴方の泣く気持ち、良く分かるわ」
「…ますます成功させないといけないわね。頑張りましょう。仕立屋さん」
レリアナはギュッと仕立屋さんの両手を取り、力強く握る。仕立屋はその力強さから目の前の人の本気を直に感じて微笑む。
「ええ。レリアナ様。……さて、この話は結婚式の後にして、先ずはこのウェディングドレスに袖を通して下さい。気になる所があれば仰って下さい。修正しますので」
「はい。宜しく御願いします」
そうしてレリアナはウェディングドレスに袖を通した。