四十一話
レリアナとリーグストは戦地に赴き、後方支援に務めており、レリアナとリーグストは衛生兵として傷付いた兵士の治療に回っていた。
「ぐぅ…痛い…痛い…」
「今、治します。ライト…彼の傷を治して」
ライトに怪我人の手当を頼むと怪我人の傷が治る。
「痛みは無くなりました?」
「は、はい…。ありがとうございます。レリアナ様」
「なら、良かった」
レリアナの美しい微笑みを向けられた怪我人は魂が抜けたように惚ける。レリアナはそんな様子の兵士を気に掛ける事はなく、直ぐ別の怪我人の元へと駆け寄った。
「ふぅ…。取り敢えず重傷者の傷は何とか治せましたね…」
レリアナは野営病院から出るとホッと胸を撫で下ろす。
「これも土に還さないと…」
ポケットに手を入れるとクシャッという音が鳴り、取り出す。取り出したのは枯れた葉っぱだった。
「追加で葉っぱをもぎらないと」
レリアナは近くにある木へと向かう。
「ライト、葉っぱを取って」
すると、枝から風によって葉っぱが切り放され、ヒラヒラと両手を皿にした掌の上に続々と落ちる。レリアナが葉っぱを取っているとザッザッと後ろから彼女に若い男が近付いて声を掛ける。
「レリアナ様、何をしてるんですか」
「葉っぱを取っています」
レリアナは振り返る事なく、見上げながら落ちる葉っぱを回収しているが、若い男は苦笑して頰を掻く。
「あの…意味を聞きたいのですが…」
「私の治癒は闇の精霊の力を借りた闇魔法を利用した回復方法で、痛みや傷を他のものに移す事が出来る魔法を使って回復させたんです。貴方の傷もこの葉っぱに移して回復させたんですよ」
「そうなんですか…」
若い男は覚えてくれた嬉しさに口角が思わず吊り上がり、モジモジと照れた様子を見せ、覚悟を決めた若い男は拳をグッと握る。
「あの…!レリア…」
「あ!リーグスト!」
若い男がレリアナの名前を呼ぶ前に彼女はリーグストの存在に気付き、タタタッ!と小走りで彼に駆け寄って抱き着いた。若い男はその光景をポカンとした表情で口をあんぐりと開けて放心していた。
「リーグストも治療終えられたのですね」
「ああ。けど、所詮は擬似聖魔法だから、軽い怪我しか治せない。重傷さえ治せるレリアナの事を心から尊敬するよ」
「フフッ♪貴方にそう言われると凄く嬉しいです♪早くこの仕事を終えて結婚式を挙げたいですね♪早く旦那様とお呼びしたいです♪」
結婚式という言葉に若い男は膝から崩れ落ち、その姿に気付いた彫りが深いベテラン兵士が声を掛ける。
「どうした?」
「あ、あの二人は…」
「ん?ああ、お前は最近派遣されて来たから知らないか。女性はレリアナ様と仰られてな、次期公爵家当主となられる方だ」
「そ、そのような凄い方だったのですか!?」
「おお。同じ兵士服を着てたから気付かなかったろう。それであっちの男性はリーグストという最年少でS級冒険者という称号を手にした傑物だ」
「リーグスト…。そう言えば聞いた事があるな…」
「そして二人は婚約関係にある」
「なっ!?そ、そんな……」
あからさまにショックを受けた態度にベテラン兵士は眉尻をピクッと上げ、彼の心境に気付いて「ああ…」と呟き、しゃがんで若い男と肩を組む。
「なるほど。惚れちまったか」
若い男は黙ってコクンと頷いた。
「しょうがないわな。あの人は分け隔てなく優しく、誰にも笑顔を向けてくれる。そりゃあ惚れちまうな。現にうちの若い連中の何人か惚れちまったが……リーグストに勝てる気がしないし、そもそも身分が違い過ぎる。諦めろ」
「う、ううぅ……初恋…なのに…」
「ドンマイ」
ベテラン兵士は若い男の背中をポンポンと励ますように優しく叩いた。
そんなやり取りが死角で繰り広げられてるとはリーグストとレリアナは知らず、楽しそうに会話を続けていた。
レリアナは後方支援とはいえ着々と戦地で実績を積み、国から報償をリーグストと共に受け渡される事となり、一度王都へと戻る事となった。