三十五話
決闘の詳しい日時やルールは別日に設けようとその日は解散となった。
レリアナはラインハルト達が居なくなるとティエラ達の元へと戻り、張っていた肩肘を緩める。けれど、今だに緊張感で心臓がバクバクとしており、まだ気持ちが休まらない。
(そういえば先程のミアリのあれ。緊張感を取るには良いかも)
レリアナはう~ん!と腕を上へと伸ばして、ゆっくりと下ろす。それだけで緊張で張った肩の硬さが取れた気がした。
「レリアナ。そのような姿ははしたないよ」
「すいません。御兄様。どうしても疲れてしまって」
そう言って振り返るレリアナの顔は悪びれた様子はなく、茶目っ気たっぷりで微笑む。
「今の動作、思ってるより気持ちの良いものですよ」
「だとしてもだ。人前では止めなさい」
「はい。…それとありがとうございます。助けて頂いて」
「なに、レリアナが気にする事ではない。私はするべき事をしたのだから」
「それでもです。本当にありがとうございました」
レリアナはメルディックへと深々と頭を下げるとティエラ達も彼女に並んで頭を下げる。
「レリアナを助けて頂きありがとうございました」
「私達では力不足でレリアナを守れませんでしたわ」
「私達に変わり助けて頂き、ありがとうございます!」
メルディックはレリアナの為に頭を下げる彼女達を見て嬉しくなり、これ程まで人に慕われるレリアナを誇りに思い、必ず彼女達の為に勝とうと決心した。
「此方こそありがとう。君達がレリアナの友人である事を心から嬉しく思うよ。これからもレリアナと仲良くしてやってくれ」
「「「はい!!勿論です!!」」」
「そろそろ私はこれで失礼するよ。それでは」
メルディックの去る背中をレリアナはグエインやリーグストのような頼もしい背中が重なり、やっとレリアナは彼の事を許せそうな気がした。
「私達も向かいましょう。早くしないと授業に遅れてしまいます」
「「「はい!」」」
放課後、家へと戻ろうと馬車へと乗るとレリアナは左手で顔を覆う。
「大変な事になってしまった…。まさか決闘だなんて…それにリーグスト様も巻き込んでしまいましたし…。御兄様とリーグスト様の力があれば容易に勝てるでしょうけど…。本当に御二人様には申し訳ないです。無事に決闘が終えましたら何か御礼をしなくてはいけませんね。とはいえ何をすれば良いかしら…?帰ったらシエラに聞いて見ましょう」
レリアナは屋敷へと戻る間、シエラに教えて貰う前に自分でも考えようと馬車で揺られる間、考えていたが何も思い浮かず、もう少し世間や贈り物について調べるべきだと思い、手始めに帰ったら使用人達からも意見を聞こうと玄関の扉を開く。
「あ、お帰りなさい。レリアナ様」
「リ、リーグスト様!!?な、何故…って…先程のことですよね…勿論」
レリアナはリーグストと突然会えた事に喜んだが自分のせいで迷惑掛けていたとシュン…と落ち込む。
「そうですね。その事もあったので丁度良いと思いまして」
「丁度良い…ですか?」
「ええ。レリアナ様と会いたいと思ってましたので理由付けが出来たな…と」
言ってて恥ずかしくなったのか途中で頰を赤く染める。レリアナはリーグストの言葉に嬉しくなり、叫びそうになるがそんなはしたない姿はリーグストに見せたくなくて、悲鳴を押し殺しながらも歓喜の声を漏らした。
「……あの…御時間があるのであれば一緒に夕食前までお茶でも飲みながらお話しませんか?」
「はい。勿論。メルディック様が帰られるまで待つつもりでしたので…。その時間をレリアナ様と過ごせるなら幸せです」
「私も幸せです…!!では、直ぐに準備させます!!シエラ!!」
レリアナがシエラの名前を呼ぶと何時の間にか目の前に現れる。
「はい。承知しました、お嬢様。お先にテラスの方へお待ち下さい」
シエラは二人に一礼すると姿を消して、お茶の準備に取り掛かる。
「…シエラさん、復帰されたんですね」
「はい!…とはいえ御兄様が登校し、帰宅するまでの間ですけど」
「そうですか。…少しずつでも前へと踏み出されているなら良かったです」
「…では、テラスへと行きましょう。冒険の御話、是非お聞かせ下さい」
レリアナが楽しい一時を楽しんでいる中、アルマリアは焦っていた。
「どうなってるのよ!?S級冒険者がしゃしゃり出てくるなんて!?何!?あの女に盗聴器でも付けてるの!!?気持悪い!!!……いや、この世界にはそんな物はない…。だったら魔法…?けどそんな魔法は原作にもなかった筈…。もしくは登場しないだけで実はあったとか…?…それは今は良い!!問題なのはS級冒険者が決闘に出る事よ!!?S級なんて化け物じゃない!!?しかもあの四人…私が折角大丈夫ですか?ハンデとか貰ったらどうですかと聞いたら…「これは私達が仕掛けた決闘。ハンデは要らない。正々堂々と戦うだけだ!!」だなんて…馬鹿じゃないの!!負けた時の事も考えなさいよ!!」
ふぅふぅと一通り怒鳴ると気分が晴れたのか、冷静になる。
「…いや、けど…私のお蔭で皆かなり効率的に強くなってる。体感だけど現状で幹部クラスは倒せる筈。S級の強さがどれくらいか分からないけど四人でなら勝てる…。メルディックは序盤強いけど後半になると使えなくなるし。何だか行ける気がしてきた!!?」
最初の焦燥とした様子は何処へやら、気が付けば前向きとなった。
「よ~し!決闘勝利させる為に頑張るぞ~!」
エイエイオーと腕を上げて決闘の日に挑む決意を固めた。
「目指せ逆ハーレム!!」
そして、決闘の日を迎えた。