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三十話

レリアナは約束通り、ティエラの王都の別邸へと遊びに来ており、玄関の呼び鈴を引っ張って鳴らすと中からティエラ本人が扉を開いた。


「ご機嫌ようティエラさん。本日はお邪魔致します」

「どうぞ!レリアナ様!皆もう揃ってますよ!さぁ!私の部屋へと行きましょう!」

「はい」


ティエラの部屋へと彼女の案内で向かい、ティエラは勢いそのまま扉を開く。


「二人共!レリアナ様が来ましたよ!」

「あ!遅いですよレリアナ様!早く早く!」

「コラッ!ミアリ!そのような口調は令嬢に相応しくないわよ!」


既に楽しそうな雰囲気でレリアナの表情は緩んだ。全員が椅子へと座ると全員が持ち寄った本をテーブルで隠すよう手に持つ。


「では、先ずは私から」


ティエラはバンッと本を出す。


「私はこれっ!【落命のお姫様】!ラストシーンがとても切ないんです!」

「あ!私それ読みたかったんです!」

「良いですよ。先ずはミアリに貸しますね」

「わぁ!ありがとう御座います!」


ミアリはティエラから差し出された本を受け取り、入れ替えるように自分の本を取り出す。


「流れで私の紹介します!【奈落へのブーケ】です!」


ミアリが本のタイトルを言うとティエラとリリスは顔を顰める。


「ミアリ…貴方意外なの好きなのね…」

「貴方の普段の態度からは信じられませんわね…」

「二人共知ってるんですね?」


レリアナの言葉にティエラとリリスは険しい顔をして唸り、本の事を言って良いものか悩む。


「いえ…知ってるといいますか…。とても有名で、か~なり読む人を選ぶ本なんです…」

「へぇ~…。有名なんですね。私、読んで…」

「レ、レリアナ様!私の本!【妖精の花嫁】!オススメですわ!これを読んで下さいまし!ミアリの本は私が読ませて欲しいですわ!実は私も読みたかったんですの!」


リリスは自身の本をレリアナへと押し付け、ミアリからかっ攫うように本を貸して貰う。


「と…いう事は私の本はティエラさんにね。はい、これです。【姫の秘め事】」


レリアナはティエラへと自身が持つ本を差し出す。


「【姫の秘め事】…それって私が最初の貸した本の作者の処女作。私でも手にする事が出来なかった本…。何故これをお持ちに!?」


前のめりになってレリアナへ問うと彼女はシエラの姿を頭の中で思い浮かべ、感傷に浸るような想いとなりながら答える。


「実はこの本、うちのメイドから貸して貰ったんです。本は最近の趣味だから私より知識のある人に選んで貰った方が良いと思いまして。御満足頂けそうですか?」


レリアナがティエラへと問い返すと彼女はブンブンッ!と勢い良く首を縦に振る。


「もっちろんです!幻の名作をお目に掛かれるなんて最高です!」

「なら、良かった」


ティエラは既にこの本を持っているのではと内心ヒヤヒヤしており、彼女が瞳をキラキラさせて喜んでくれてホッと一安心する。リリスはキラキラしているティエラをジトー…と凝視する。


「ティエラ……羨ましいですわ」

「リリスは…頑張って」

「はい…」


二人のやり取りをレリアナは首を傾げ、あの本には一体何があるのかと不思議そうに見ていた。


「それでは皆さん、交換した本を見ましょうか」

「「「はい」」」


レリアナの言葉を合図に、一斉に本を捲り始めた。皆が本に集中しており、黙々と読み進めていき、四人同時に本を閉じた。


「「「凄い面白かった…」」」


リリスを除く三人は同じ言葉を呟くが、その表情は三者三様で違っており、レリアナはキュンキュンとし幸せと赤面の表情、ティエラは満足げな笑顔、ミアリは頰に涙の跡が残っていた。それで、リリスはというと…この世に絶望したような陰鬱とした表情だった。


「辛い。兎に角辛かったですわ…。絶対に寝る前にこの話思い出して、気分が沈みながら眠るの想像がつきますわ…。ミアリ、次にその本読まして下さい。心の傷を涙で癒したいですわ」

「はい。良いですよ。でも、その前にティエラに許可取らないとですよ」

「そうでしたわね。ティエラ宜しいかしら?」

「勿論大丈夫ですよ、リリス」

「ありがとう…」

「じゃあ、私はミアリさんのオススメの本を…」


読みたいとレリアナが言う前に突如として彼女の前から人型の水が現れ、明確な女性の姿へと変貌する。


「あ、貴方はウンディーネ様!」


ウンディーネはレリアナの顔へと近付きながら見詰め、フンッ!と鼻を鳴らすと胸を張る。


「なんだ、随分と元気そうじゃない。普通は心配で心配で窶れても良い頃合でしょうに。ふふん!やっぱり貴方はリーグストに相応しくないわね!リーグストに相応しいのは私ってハッキリ分かっ…」

「「何を言いますか!!」」


ティエラとリリスが椅子を倒しながら立ち上がり、ウンディーネは人間の勢いと背後に蠢くオーラに「ヒッ…!」と怯えた声を出す。


「「レリアナ様は幼少期より貴族令嬢として厳しく躾けられ、貴族令嬢のお手本のような方です!!どなたかは存じませんがレリアナ様を侮辱するような発言は許しませんわ!!」」

「…ご、ごめんなさい~~…!!」


人間からの反論にウンディーネは涙目となり、ペタンと尻餅を着くとポロポロと泣き始め、レリアナは直ぐさま宥めてウンディーネの傍へと寄る。


「ウ、ウンディーネ様。大丈夫ですよ。二人はそんなに怒ってませんから。だから、泣かないで下さい…」


ウンディーネはスンスンと泣き止もうとしながらレリアナへと顔を向ける。


「うう…ぐすっ…。あんた……本当に良い奴なのね…。……分かってるのよ。精霊と人間とでは結婚は出来ないって…。でも、嫉妬はするのよ。十年以上ずっと一緒に居るから…」

「十年…」


レリアナは長い付き合いだなと感じながら羨ましかった。リーグストとそんなに一緒に居るなんて幸せだろうと容易に想像出来た。


「…あんたも嫉妬で狂った身でしょ?私の気持ち、分かってくれるわよね…」

「それは………十分なほど…」

「だったら…!」


しみじみと返答したレリアナの言葉に希望を持ったウンディーネの言葉を「でも!」と遮る。


「私はリーグスト様から手を引きません。心から愛してますから」

「…そっ。でも、私はずっとリーグストの傍から離れないから」

「はい。私も離れませんから」


レリアナとウンディーネは互いを認め合ったライバルのように不敵な笑みを浮かべて見合った。


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