二話
翌日、レリアナは授業の為に改築された部屋でメイドと共に待っていると扉が開かれ、リーグストは教卓へと移動する。
「では、これより授業を始めます。起立、礼」
彼女は言われた通りに立ち上がり、頭を下げる。
「着席」
リーグストはレリアナが着席したのを確認するとチョークを手に持ち、黒板に書き込もうとするが手が止まり、振り返る。
「レリアナ様は信仰心はありますか?」
「信仰心…ですか?」
レリアナは質問の意味を図りかね小首を傾げる。
(何故、このような事を聞くのか分かりませんが……信仰心、ですか。ラインハルト様とお会いした時には神の存在と運命を感じました)
レリアナは幼少期よりラインハルトと共に築き、歩んで来た道の記憶を思い出して微笑む。
(ですが…今は……)
楽しかった思い出はアルマリアという婚約者が居る男性に近付く毒婦の記憶に塗り潰され、上書きされて唇をキュッと締め、胸の中のアルマリアに対する怒りを必死に抑え込む。
「寧ろ…恨んでるやも知れませんね」
「そうですか。では、面倒くさい説明は無しで良いですね」
彼女の意味深な返答に対し、リーグストはあっさりとした様子で受け止め、黒板へと向き直る。
「この国…というかこの世界では人間は神の子孫であり、それ故に魔法の力が行使出来るとされ、同じように魔法が使える魔物については邪神の子孫の為に魔法を行使出来ると言われているがそれは間違いだ」
「「えっ!!?」」
レリアナとメイドは二人共に身を乗り出して驚愕する。
「魔法はどちらも同じ物で、そして魔法は妖精を媒介に放たれる。だから、実際は魔法は自身の力で発してるのではなく妖精の力を利用して魔法を放っているんだ」
「そ、それは事実なのですかっ!!?」
「ああ。それでだ。ここからが本題だが魔法は呪言…所謂詠唱や魔法名で妖精の行動を縛る物で、強制的に妖精の力を発動させて自然現象を操るものの事を言う」
「ちょっ…ちょっと待ちなさい!!」
怒鳴るような声にリーグストは振り返る。
「どうされました?」
「どうされましたって貴方ね!!自分が言ってる意味が分かっているのですか!!?貴方の言葉が事実なら今までの魔法や魔術に関する学説や論文が偽りであると言ってるようなもので!!魔法史をひっくり返すような事なんですよ!!」
「そのような事を言われても事実なので…」
リーグストは困った様子で頰を掻くが、今まで信じていた事を嘘だと言われても受け容れがたいのは理解する。
「それであれば今日は実習にしましょうか。砂浜へと参りましょう。そこで俺の言葉が真実であるとお伝えしましょう」
三人は屋敷の前にある砂浜へと出る。
「では、先ずは簡単な魔法をレリアナ様、海に向かって放って下さい」
レリアナは海に向かって掌を見せ、体内から練られた魔力を掌から排出する。
「【水砲】」
彼女の掌から排出された魔力が文字へと形を変えて、紐のように編み込まれ、四本の魔力の紐が目の前の空間に吸い込まれるとサッカーボール大の水の弾丸が生成され、海へと向かって射出された水の弾丸は大波を撃ち抜き、遠くの沖に着弾する。
「へぇ、下級魔法を無詠唱で…」
「ええ。水は得意なので初級魔法と下級魔法は無詠唱を発動出来ます」
「それじゃあ、俺も同じ魔法を発動しよう。ウンディーネ」
彼が虚空にそう問い掛ける。すると彼の目の前の海から水が荒々しく巻き上がり、まるで竜巻のように水が上昇していき、バッ!と竜巻が膨れ上がり破裂し、天女のように美しい女性が現れる。あまりにも美しく陽の光が彼女の姿を明るくキラキラと輝かせ、幻想的な姿に思わずレリアナとメイドは息を飲んだ。
「リーグストッ!」
彼女は瞳の中にリーグストが映ると直ぐに抱き着いた。
「ウンディーネ。海に向かって【水砲】を放ってくれ」
「ええ~~?あんなショボい魔法を使うの~?もっと凄い魔法で良いじゃん!」
「頼むよ」
「分かった。はい」
右半身を海へと向けて、右腕を真っ直ぐ伸ばし指先で波を差すと、指先から直径が人間大程の水の砲弾が生まれ、射出すると着弾した場所に大穴が空き、大波が発生してレリアナ達へと襲い掛かる前にピシッと時が止まったかのように波の動きは停止し、何事もなかったのように海の中へと戻り、穏やかな状態へと戻った。
「これが呪言を使わない、妖精…いや、精霊の力を利用した本来の魔法の威力だ」