二十六話
レリアナは最近悶々とした日々を過ごしていた。それは……。
「最近…!!全然リーグスト様が来られないわ!!何でなの!!?今までは会いたいと思えば会えたのに!!?」
リーグストにあまりにも会えなくなったのが原因だった。レリアナは靴を投げ捨てるように脱ぐと、モヤモヤを解消する為、ベッドの上へと乗って枕を抱き締め、ゴロゴロと転がる。はしたないと思いつつどうにも想いが止められなかった。
「何ですか!?これは試練なのですか!?はたまた意地悪ですか!?それとも神の気まぐれなのですか!?」
一頻りベッドの上で暴れると疲れたのか、はぁ…と息を吐き、うつ伏せでベッドに突っ伏す。
「何で来られないんだろう。…もしかしたら私が学園へと行ってる時に来られている?……可能性は高い。それとも依頼は既に達成されてもう来ないとか………充分有り得る…」
嫌だと拒否するようにジタバタと足を暴れさせる。
「…もう…認めます。私はリーグスト様を愛してしまっている。だから…また会わせて下さい。そうしたら必ず……想いを伝えますから…」
学業の疲れがあったのかレリアナは眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。
すぅすぅ…と眠っているとガチャッという音が聞こえ、バッと起きて扉へと視線を向ける。
「あれ…。確かに音が聞こえたのに…」
トロンとした瞳で周囲を見回し、誰も居ない事を確認するとベッドに身を倒す。
「何だ……気のせいか…」
また寝ようとした時に窓から差し込む光に気付いた。
「あっ!ヤバい!遅刻しちゃう!」
慌てて起き上がると自分が制服を着ているのが見え、自分が帰って直ぐに寝たのを思い出して顔が赤くなる。
「何をやってるの私は…。帰って直ぐ寝るなんて…。またこのまま部屋に居ても寝てしまいそうで怖いわ。少し歩いて眠気を覚ましましょう」
立ち上がると靴を履き直してフラ~と部屋を出る。廊下を歩くが手で口を塞いでもあくびがふぁ~と出る。
「少し歩いた程度では覚めない…。庭の方にも回って見ますか…」
レリアナは手摺りを握り、落ちないよう慎重に一歩一歩階段を下りているとカツカツという聞き覚えのある足音が聞こえ、二階を見る。
「リーグスト様!!?」
今まで会えなかった、会いたいと思っていた人に出会えた喜びで大きな声で彼の名を呼ぶ。
「レリアナ様!お久しぶりです」
「はい…!お久しぶりで…え?」
レリアナはリーグストに気を取られ、階段を踏み外した。
「フワリ!助けろ!」
レリアナが階段を滑り落ちる前に彼女の身体を風で浮かし、元の位置へと下ろす。
「助けて頂きありがとう御座います」
「気を付けて下さい…。ヒヤリとしましたよ…」
「すいません…」
レリアナとリーグストが一階へと下りるとレリアナは改めて挨拶をし、スカートの裾をつまみ上げて頭を下げる。
「お久しぶりです。リーグスト様」
「はい。お久しぶりです」
レリアナは姿勢を戻すとササッと手で髪を整えて、んんっと喉の調子を正し、探るように上目遣いでリーグストを見る。
「それで…今日は何しに御屋敷に?」
「ああ。今日は依頼された調査資料を届けに来たんですよ。前回来た時はその調査の途中経過を伝える為に来てましたから」
「調査…?」
「すいません。詳しい話は俺から語る事が出来ません。気になられたのなら直接グエイン様にお聞き下さい」
「…はい。分かりました」
正直、依頼の内容には対して興味は無かった。只、リーグストと話したかっただけで。だから、話がアッサリ終わってしまって少し悲しかった。
「ああ、それと俺は本日でこの屋敷には来る事はなくなるので」
「っ……!?何故…です…か……!?」
彼の言葉にレリアナは絶句し、一言発するのがやっとだった。リーグストは彼女の心境に気付く事なく淡々と言い進める。
「グエイン様からの依頼が終えたので。新しい依頼がなければもう来ないでしょうね」
「もう……来ない……」
レリアナは楽観視していた。リーグストには何時でも会えると。だが、彼は父…グエインの依頼でここに来ていたのだと考えもしなかった。
(それはそうよね。リーグスト様は冒険者。何の用もなく来られる筈はない。ましてや、私の為にわざわざ来られる筈がない。…言うしかない。でないともう二度と会えないかもしれない!!)
レリアナは拳を強く握り、覚悟を決めてお腹に力いっぱい込めてリーグストへと想いが伝わるよう願いながら発した。
「リーグスト様!!良ければ私と婚約して頂けませんか!!?」