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二十四話

「…この辺りは何年も来てなかったな。…可笑しな話だ。自分が住む屋敷なのにな」


彼はそう言うとレリアナの部屋の前へと歩き、立ち止まるとノックをする。すると、パタパタ…と扉へと近付く音が聞こえ、ガチャッとドアノブが回され、扉が中から押される。


「はい。どなたかしら…って」

「私だ。少し話をしたのだが良…」


バタンッとレリアナは言葉の途中に遮る形で扉を閉め、背中で扉を開けられないよう押さえ付ける。


「一体何しに来たのですか!?」

『謝りにきたんだ。今までの事を』


えっ!とレリアナは振り向き、扉越しに居るであろう兄を見る。


「謝りに…ってどうして急に……」

『アストンのお蔭で気付かされたんだ。私がレリアナを傷付けていた事に…』

「………」

『すまなかった。私は偏見で魔女と、そしてこの家の恥じだとレリアナを罵った。それが子ども心にどれほどの傷が付くか、今なら想像出来る。本当に酷い事をした。本当にすまなかった…』


レリアナは恐る恐ると扉を開いてみると、目の前ではメルディックが床に付きそうなほど深く深く頭を下げていた。


「御兄様…本当に私に謝っておられるのですね…。でも、私はどうしても許せません。シエラを傷付けた貴方を…。勿論、彼女を傷付ける元凶となった私も。…私は誰かに謝って貰えるほど立派な人間ではありません。ですから頭を上げて下さい」

「元凶…?お前は悪くないだろ」


元凶という言葉に眉を顰めて、顔を上げるとレリアナは険しい顔で、掌が白むほど強く拳を握っているのを見て、彼女の想いはどういうものか想像に難くない。


「いいえ、御兄様を吹き飛ばしたのはやり過ぎました。その結果、御兄様をより怒らせてしまいあのような事態になりました…。悔やんでも悔やみ足りません」


メルディックは姿勢を元に正し、首を振る。


「やはりお前には何の落ち度もない。男の力で手首を握られたのだ。痛いに決まっている。淑女の手を無理矢理掴んだのさえ、紳士として有るまじき行動であるのに、女性に痛みを与えるほど強く握った。それは万死に値する事だ。レリアナが自身を責める事はない。全て悪いのは私だ」

「御兄様が私を庇うような事を仰られるなんて…」


レリアナは今ままでの態度からは信じられないメルディックの姿に昔のような関係へと戻れるかもと考えたが、やはり無理だった。シエラを傷付け、更にラインハルトを奪ったアルマリアに熱を上げている時点で仲良くするのは無理だ。


(けれど……。嫌い合う事がなくなれば……それで…十分ですね)


レリアナの強張っていた表情は解れて柔らかくなる。


「御兄様の謝罪を心から嬉しく思います。勿論謝罪が嬉しいのではなく、御兄様が私に対して真剣に考え、向き合ってくれているのが嬉しいのです。今までなら一方的に責め、私の言葉なんて聞き入れてくれる事さえせず、私が悪いと決め付けられていました。まぁ……私も同じような態度を取っていましたからお互い様ですが」


レリアナは肩を竦め、フッ…と微かに笑う。メルディックは視線を彼女から外すように落とし、この前までの自分を思い出す。


「そうだな…。お前を魔女と(そし)り、最近は特にアルマリア嬢の事もあり、レリアナの事を心底嫌っていた。だが…これほどまで使用人を想える者が、使用人に想われる者が魔女というのは間違っていた。私もお前がしたアルマリアに対するイジメは許せない。けれど、レリアナ…お前は変わった。変わろとするお前の事を応援するよ」


視線をレリアナの目へと戻し、真剣な表情で右手をレリアナへと差し出し、レリアナは彼の意を汲んで硬い握手を結んだ。


「はい。私も同じ気持ちです。仲良くとまでは言いませんが、多少なりとも関係が修復出来るようにしましょう」

「ああ。これからは互いに歩み寄ろう」

「はい」


この日から二人は顔を合わす度にしていた言い合いや喧嘩をする事が無くなった。


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