二十三話
身に憶えがない、そんな態度にアストンは怒りが増し、メルディックの襟の形は歪む。
「お前!!いい加減にしろよ!!貴方はお嬢様を傷付けた自覚もないのかよ!!ふざけんな!!思い出せよ!!お嬢様の属性が発覚した時に貴方が吐いた言葉を!!」
「…それは……」
アストンに言われてレリアナが十歳の頃、適性属性を調べた時の自分の言葉を手繰るように思い出し、ゆっくりと口を動かす。
「魔女と………言った」
「それだけじゃないだろう!!お前のような者がこの家に生まれたのが恥ずかしい!!この家の恥じだと言ったのは誰だ!!俺はハッキリ憶えてるぞ!!」
「あ…」
アストンの言葉でメルディックはその日の事をハッキリと思い出した。あの日、笑顔でレリアナの適性属性を見守り、彼女が闇属性だと判明すると自分の家に魔女が生まれてしまったと、心根は信じたくなかったが、国に害なす存在は次期当主として容認出来なかった。だからそう魔女に向けて言った。
「お嬢様はそれ以来御自身の心を守る為、傲慢に振る舞い他人を遠ざけてきたんだ!!」
「そう…だったのか……」
メルディックはレリアナの嫌いな部分である傲慢で高圧的な態度を作った原因が自分のせいだったのだと気付かされた。
「…子どもだな…私は。カッとなり…初級魔法とはいえ上位属性を人に向けるなんて…。愚かそのものだ…。それに吹き飛ばされ壁に激突した時、直ぐ立ち上がれたのはレリアナが手加減していたからだ。人を吹き飛ばすほどの威力の風魔法を放てるならあのまま私を気絶させるくらい出来ただろう。愚かだな私は……。次期当主に成る身、もう少し世の中を冷静に平等に見なければいけないな。……謝ろう、レリアナに」
「御理解頂けて嬉しいです」
アストンはメルディックの襟から手を離し、彼から一歩引いて跪いて頭を下げる。
「何をしているアストン?」
「私は当主様の御子息に暴行を振るいました。如何なる処罰も覚悟しております」
メルディックは膝を折り、アストンと同じ頭の位置まで腰を落とす。
「止めろ、アストン。君は私の恩人だ。君はレリアナの為に怒り、私の愚かさを叱責してくれた。自分の身さえ顧みず進言してくれた。私は他者の言葉に耳を傾けられない愚かな領主にはなりたくない」
アストンは彼の言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げる。メルディックの瞳は自身の目へと向けられており、その瞳は曇一つない澄んだ瞳だった。
「許し下さるのですか?」
メルディックはアストンの肩をポンッと置き、首を横に振る。
「許す事は何もない。君は一切悪い事等していないのだから。君はそのままで居てくれ。他者の為に怒り、上の者に進言する覚悟。私がまた過ちを犯そう時に助けてくれ」
「はい。喜んで拝命いたします…!」
アストンは恭しくもう一度頭を下げる。
(危なかったぁぁ~~!!クビになるかと思ったぁぁ~~!!メルディック様が寛容な方で助かったぁ~…!)
安心した表情で喜ぶ顔を影で隠した。
「そうだ。これ、シエラに渡してくれないか」
アストンが顔を上げると目の前にリンドウの花が差し出される。アストンはリンドウの花を受け取り、メルディックを見る。
「私では彼女も怖がる。この花は君が買った事にしてくれ」
「しかし…」
「きっと彼女は私の名前さえ聞きたくないだろう。だから頼む」
「……承知致しました」
メルディックは彼の言葉に満足げな表情で頷くと、スクッと立ち上がる。
「さて、私はレリアナに謝罪へと向かうか」
メルディックはレリアナの部屋へとその足で向かった。