二十話
「「「アルマリア!!」」」
ラインハルト、ロギア、エリレントの三人が一斉に転んで倒れたアルマリアへと手を差し伸べる。
「ありがとう。三人共…ちょっと躓いちゃって…」
アルマリアは左手をラインハルトに、右手をエリレントとロギアへと差し出して三人に両手を掴まれて立ち上がる。
「…分かってる。心優しい君ならそう言うだろう。だが、本当は足を掛けられたのだろう。レリアナに!」
ラインハルトがそう言うと彼等三人はレリアナを一斉に睨む。レリアナは奥歯がグッと鳴るが我慢して怒りを抑える。
「レリアナ!謝罪もないのか!?」
ラインハルトがそう怒鳴るとレリアナを庇うようにティエラ達三人が彼の目の前に立ち塞がる。
「お待ち下さい殿下!レリアナ様は足を引っ掛けておりません!私はキチンと見ていました!」
自身にそう訴え掛けてきたミアリを見て、ラインハルトは意外そうに彼女を見詰める。
「ミアリ嬢…。何故君が彼女を庇う…?…そうか…レリアナに脅されているんだね?安心したまえ、僕が君も家も守って上げよう。だから、真実を述べるのだ」
「真実です!殿下!アルマリアさんがレリアナ様の前で突如転んだのです!」
「何を馬鹿な。こんな何もない所で転ぶ訳がない」
「私も見てました!」
「わ、私は見てませんが!レリアナ様はそんな姑息な事はしませんわ!」
リリスの言葉を聞いたロギアは顔を真っ赤にして怒鳴りつけようとした時。
「俺も見ましたよ」
「私もです!彼女が勝手に転んでましたよ」
「俺も」
「私も」
周囲からそのような声が聞こえ、ロギアは怒鳴る事も出来ず、ラインハルト達は気まずそうに顔を顰める。
「ラインハルト様、ロギア、エリレント。だから言ったでしょ?躓いただけだって」
「あ、ああ。それじゃあ行こうか」
「謝罪もないんですか。殿下」
ラインハルト達はそそくさとその場から移動しようとする。その背中にミアリはそう言った。ラインハルトは立ち止まり、心底嫌そうな顔をするが平静を装って振り返り、レリアナをしっかりと見て頭を下げた。
「冤罪を掛け、怒鳴ってしまい申し訳なかった」
「…はい。謝罪を受け入れます。…互いにもう近付かないようにしましょう。それでは」
レリアナは彼等に背を向けて食堂へとティエラ達を連れて去って行った。その背を見詰めるラインハルト達四人は屈辱で心が覆われ、悔しさに醜く歪んだ顔を見せないようその場から足早に立ち去った。
レリアナは後ろをチラリと見て、彼等が居なくなったのを見て、張り詰めていた緊張が解けて力無く壁へと倒れる。
「「「レリアナ様!大丈夫ですか!?」」」
「うん…。大丈夫…」
手足が冷たくなって心臓の鼓動が早くなりとても痛い。
(リーグスト様の時は…こんな痛くなかったのに…。こんなに苦しくなかったのに…。恥ずかしくても……楽しかった。嬉しかった。何故か…心地良かった…。…会いたい。リーグスト様に…何でか分からないけど…凄く会いたい)
レリアナの胸の痛みはリーグストの事を考えると和らぎ、身体が芯から温かくなった。
(落ち…着いてきた…)
ふぅ…と落ち着ついた息を吐き、壁を頼りに体勢を戻す。
「…本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、ありがとうミアリさん。ティエラさんもリリスさんも」
「「いえ、私達はレリアナ様が御無事であれば…」」
「…ええ。問題ないわ。それより早く行きましょう。食堂が混雑してしまうわ」
「「「はい…」」」
ティエラ達はレリアナの体調を気に掛けながら食堂へと入った。