十九話
レリアナの噂が広がると公爵の元には彼女との婚約させようと見合いの話が続々と集まるようになった。それは学園内でも散見するようになった。
「レリアナ様!」
レリアナはティエラ達と居る所に呼び止められて振り返る。
「もし宜しければこの後、二人きりでお話でもしませんか?」
呼び掛けた男子生徒は跪いてレリアナに右手を差し出して、彼女が手を握るのを待つが後ろから他の男子生徒が彼の肩を掴む。
「待て!子爵家如きが誰に声を掛けている!私は辺境伯の息子!私ならレリアナ様の旦那となっても劣らないでしょう!」
そう言った男子生徒は胸を反らし、跪いた男子生徒はぐぬぬ…と悔しそうに呻くその後ろから別の男子生徒が二人を押し退けて現れる。
「はっ…!貴様は三男だろう。二人共下がるんだな。私は伯爵家だが次期当主になる事が決まっている。貴方に相応しいのは私だ。良い店を知っているんだ。放課後、私と共に行き、親睦を深めよう」
男子生徒は自信満々に掌を差し出し、レリアナに受け容れられると確信している様子で、二人の後ろも負けたと認めたのか悔しげに呻く。レリアナは掌を差し出す男子生徒に微笑む。男子生徒は勝ちが確定したと内心喜んだ。
「婚約についての打診は御父様にお任せしているので、御父様に先ずは御話を通してからにして下さい」
だが、レリアナの口から出たのは義務的な言葉でお断りの常套句だった。男子生徒はショックで膝をついて倒れた。
「それでは」
レリアナはそう言うと向き直る。
「皆さんお待たせしました。行きましょう」
そうしてティエラ達と再び歩き出した。
「レリアナ様!凄いですね!また話掛けられましたね!今日で何人目でしたっけ!?」
ピョコッと皆より一歩早く前へと出てレリアナに尋ねたのはレリアナに真っ先に話し掛けて師事を受けた女子生徒…ミアリ=エシフェルエン。ミアリはレリアナに妖精の事を教えて貰って以来、ティエラとリリス同様に彼女の事を慕い、後を付いて行くようになった。
ミアリに尋ねられて、レリアナはうんざりした顔で答える。
「七人目です。はぁ……。何度も呼び止められると困ってしまいます」
「大変ですね。そんなに嫌なら早く婚約相手を決めるべきではないですか?」
「……贅沢な悩みだとは理解してますが、どの方もあまり惹かれないというか……しっくり来ないといいますか…。う~ん…」
上手く自分の気持ちが言語化出来ず、自分でも何が言いたいのか分からず悩む。
「コラッ!ミアリ!幾ら何でも突っ込み過ぎよ!」
レリアナが困ってると思ったティエラはミアリを強めに叱る。
「そうよ!それにレリアナ様ならもっと凄い方がお似合いです!」
「え~?でも、いい加減決めないと鬱陶しいのが終わりませんよ?レリアナ様は好きな方って居られないんですか?」
「好きな方…」
レリアナはボソッと繰り返して呟くとリーグストの事が直ぐに思い浮かび、顔がボッ!と熱して赤くなる。その反応を見てミアリはニヤァ~と意地悪な笑みを浮かべる。
「その反応…間違いなく居ますよね?一体誰ですかぁ~~!?」
「だ、誰でも良いでしょ!」
「誰でも…だなんて明確に一人でも居るって言ってようなものですよぉ~~。ねぇ~~誰ですかぁ~~?」
「もうこの話は良いでしょ!?早く食堂へと行きましょう!?」
レリアナはスタスタと早歩きで進む。
「あ~…意地悪し過ぎましたね。ちょっと待って下さいよ~!レリアナ様~!」
ミアリ達はパタパタと駆け足で追い付く。
「すみませんレリアナ様。からかい過ぎました」
「…別に怒ってないわ。でも、これからは止めておきなさい」
「はい。すみません。もうしません」
「分かれば宜しい」
ニッと楽しげに笑うレリアナを見てミアリは目を微かに広げ、嬉しいそうに表情を緩める。
「…やっぱり、噂はあてになりませんね。レリアナ様は優しくて大好きです!」
ニーッ!と大袈裟に笑うとレリアナも釣られて柔和に笑う。
「何ですか急に?…でも嬉しいわ。ありがとう」
「えへへ…。…あっ」
「「あっ……」」
三人の態度が変わり、視線をミアリから正面へと移すと其処には御飯を早めに終えたのか向かいからアルマリア達が歩いて来る。王子達も周囲が声を潜めるながら会話している事で違和感を持ち、何があったかと視線を前へと向けた瞬間にレリアナに気付き、顔を歪めて、アルマリアは怯えた様子で彼等の背に隠れる。レリアナは無表情へとなり、壁際へと移動して立ち止まり直線に並んで頭を下げて彼女等に道を譲る。彼等はレリアナを無視して彼女達の前を通ると突如レリアナの前でアルマリアが転んだ。