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十五話

夕食と湯浴みを済ませるとレリアナの部屋にシエラが入室する。


「失礼致します」

「待っていたわ。座って」


レリアナはナイトテーブルの上にあるランタンのつまみを回し、灯りを強めると右隣にポンポンとベッドを叩き、ここに座るよう指示する。


「御言葉に甘えさせて頂きます」


シエラは自身が持つランタンを消してからナイトテーブルへと置いて、レリアナの隣に座る。


「指示通り寝間着で来たのね」


ランタンの灯りに照らされたシエラの寝間着は紺のルームワンピースを着ており、暗闇と混じると黒色に見える。


「はい…。あの…あまり見ないで下さい…。恥ずかしいのですが…」


シエラはレリアナに自身の寝間着姿をジッと見られ、ほんのり頰を朱色に染める。


「うふふ。ごめんなさい。それじゃあ早速お話しましょう」

「はい。それで…お嬢様はどのシーンが印象的でしたか?私は定番なんですが、お姫様が戸惑いながらも騎士の手を取るシーンが好きなんです」


レリアナは感極まった表情でシエラの左手を取り、両手で包み込む。


「分かるわ!あのシーンはお姫様の葛藤した時に国民や臣下の事を想いながら、騎士への強い恋心に委ねた所はイケナイと思いつつも好きな人の手を取れる事の喜びの所が堪らないわよね!」


レリアナは早口で捲し立てるように吐露された作品への熱い想いを受け取り、シエラも両手でレリアナの手を握る。


「そうなんですよ!流石はお嬢様!よく分かってらっしゃる!」

「それで…私の好きなシーンよね?」


レリアナは彼女の手を離し、視線を上に泳がせ、唇に 人差し指を当てながら考える。


「…私は…そうね…どれも良いのだけれど…その前のシーンのお姫様と隣国の王子の婚約が決まった時の二人の心の内を書いた所ね」

「ああっ!あそこの心理描写はかなりの文字数を使ってましたし、あのシーンは作者も力を入れていたのがよく分かりますよね!」

「そうなの!仕方ないと思いながら、それでも恋願う二人の姿は……何というか……もどかしい…そんな気持ちになったわ!」


レリアナの整理のつかない気持ちが表れるかのように手がワニワニとジェスチャーし、シエラはそのシーンを思い出して暗い表情になる。


「あのシーン、私は大変辛い気持ちになりました。だからこそお姫様が騎士様の手を取ったシーンがより際立ち、胸が高鳴るような展開へと繋がるんですよねっ!」

「そうなの!!こう…胸が締め付けられるような…心臓の音がドクドクと早まるみたいな感覚になって……言葉に出来ない気持ちが溢れ出てくるの!?」

「あ、それで言うと逃亡中の二人が追っ手に追われながら、心が疲弊しながらも互いを想い、愛し合う描写は同じ想いになりました!!」

「ああ!分かる…!それで言うと…」


彼女達の話は月が真上へと届く直前まで続き、ランタンの火が揺らめき始め事に気付いた所で終わる。


「そろそろランタンの火が限界ね。じゃあ、今日はこのまま一緒に寝ちゃいましょう」

「そ、それはいけません!只でさえ従者が私服でお嬢様の部屋を訪ねる事さえ不敬ですのに夜を共にするなんて有り得ませんよ!絶対いけません!」

「駄目、命令ね♪朝まで私と共にしなさい♪」

「ううぅ…。命令なんて卑怯ですよ…」


レリアナはランタンの火を消し、涙目のシエラをベッドの中へと引き摺りこんだ。レリアナはフフフッ♪と楽しそうに布団へと潜り、シエラは渋々と言った様子で布団を上半身へと掛けると真剣な顔になってレリアナの方へと向いた。


「……お嬢様、一つ不躾な事をお聞きしますが…良いですか?」

「勿論。散々我が儘言った身よ。ドンドン聞きなさい」

「なら……お嬢様、お嬢様は…リーグスト様の事をどのようにお想いですか?」


シエラからの思わぬ質問に面を食らい、レリアナの呼吸が止まる。


「先…生……の…事を?それって……どういう意味…?」


レリアナは唇を震わせながらシエラに問い返した。


「あの方、調べた所によると10歳の頃から冒険者として活動し始め、現在17歳でありながらA級冒険者へと到ったそうです」

「はぁ!?嘘っ!?」


衝撃な事実にレリアナは驚き、上半身を起こす。


「本当ですよ。しかも、今最もS級に近いとも言われているそうで、かなりの実力者です」

「実力者というか……もはや天才という安っぽい賞賛では足りないほどの力量よ。御父様…よくそんな逸材……というか一級品の人物に依頼出来ましたね。それほどの冒険者なら長い時間拘束するのもかなりの依頼料が掛かったでしょうに…」

「それほどお嬢様に御期待されているのです。御当主は。と、この話は此処までにして……改めてお聞きしますが実際どう思いますかリーグスト様の事」

「どう……とは?」


レリアナは質問の意味を理解しながらシエラへ躊躇いがちに聞き返す。


「恋愛的に…ですよ」

「………」

「今はまだA級ですが将来的にS級となればお嬢様に相応しい人物となります。それに今残っている貴族なんて大した家柄ではありません。個人的に申させて頂くとリーグスト様がお嬢様にはお似合いだと愚考致します」

「リーグスト様と……私が…」


レリアナは枕に頭を戻し、リーグストの事を考えると騎士と姫の恋物語が結び付くがしっくり来なかった。


「何というか…騎士様やお姫様が抱いた恋心とリーグストへと抱く想いは違うように感じて……。寧ろ、ラインハルト様に対して感じていた気持ちの方が近いしと思う。リーグスト様に対しては恋心より……安心感みたいな……御父様に対して想う感情と近い、かな?」


リーグストへの想いをシエラに伝えるとシエラはフッと噴き出して笑う。


「十分じゃないですか。恋心なんて只の幻想ですよ。結婚に大事なのは安心感ですよ」


レリアナは長い沈黙の後、シエラの方へと向く。


「…それ、結婚していないシエラが言う?」


シエラはピクッと反応し、クルッとレリアナの方へと向いて真顔で見返す。


「…………結婚してないから言うんですよ」

「あっ……と……。も、もう寝ましょう」

「そうですね……」


二人の間に気まずい空気が流れ、その時の会話を忘れるよう眠りに就いた。


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