十四話
レリアナは小説を読み終えてパタンと閉めた後、ふぅーーと長い息を吐くと一言。
「面白かったですわ!」
本の表紙をキラキラとした瞳で見る。
「騎士と姫の身分違いの恋なんて非現実的ですが、何故こうも胸が高鳴るのでしょう!このような書物を今まで読んでいなかったなんて人生の半分を損した気持ちです!!これからは私もお父様から頂いたお小遣いを小説を買うのに使いましょう!!これでもお洋服や御茶会に使うお菓子と紅茶や陶器以外にお金は使いませんでしたし、中々の金額が貯まっていますので沢山買えそうですわ!!あ、でも、あまり買いすぎても御父様に怒られるでしょうし、キチンと吟味しましょう!!そうだわ!!お休みの日にティエラとリリスを誘って本屋に言ってお薦めを見繕って貰いましょう!!早速明日誘ってみましょう!!」
レリアナは早口で言葉を纏めるようにつらつらと出る。自分にこんな一面があると知らなかったが、悪い気はしない、寧ろワクワクと心から楽しみ、喜んでいた。
「ふふっ♪明日が楽しみね♪」
明日が訪れる事をこれ程まで待ち望んだ事はなく、ティエラには本当に感謝しかないとレリアナは想い、ベッドに頭から倒れて今の小説に感慨に耽る。
「それにしても凄かったわ。二人の心理描写は凄く丁寧に書かれていて、とても分かり易くて面白かったわ。身分差という絶対的な壁、叶わないと理解しつつも互いに恋慕の想いを募らせ、とうとう駆け落ちする。そのシーンは思い出してもドキドキするわ…。それに姫が騎士に気持ちを伝える所は何とも言葉に代え難い想いが沸きましたわ」
レリアナは本をベッドに置いて立ち上がり、胸の前に両手を組み、瞼を閉じる。
「私の騎士様、貴方の国の為に献身する姿に私は憧れ、惹かれました。…何故貴方は騎士なのでしょう。貴方が隣国の王子であれば身分の差という壁はなく、なんの憂いもなく貴方の手を取り、貴方の胸の中に飛び込めるというのに。…なぁ~んて」
レリアナははみかみ照れながらクルリとスカートを翻しながら振り返ると目の前には扉の隙間から見るシエラが居た。
「あ、お嬢様…。すみませんでした」
パタンッと扉が閉まるとレリアナは顔を真っ赤にして扉を開き、シエラの腕を掴む。
「待って!謝らないで!!というかちょっと来なさい!!」
「大丈夫です。見てませんから。私は何も知りませんから」
「いいからちょっと部屋に入って!!お願いだから!!」
「は、はい。分かりました…」
シエラは申し訳なさそうにレリアナの部屋へと連れられて入る。
「お願いだから、申し訳なさそうにしないで余計恥ずかしいから…。いつも通りに、普通にして」
「はい。…それで先程お嬢様が仰られていた台詞って騎士とお姫様の身分違いを描いた本ですよね。私も持ってます」
「えっ!?シエラも!?」
「はい。他にもこのようなロマンス小説は十数本持っております」
「そうなの!?意外だわ…。シエラがこのような本を趣味として集めているなんて…」
「中流や上流階級の貴族子女の間ではかなり有名ですよ。お嬢様が殿下以外の事柄に興味がなさ過ぎたんですよ。それにお嬢様には味方は少なかったですし…」
「それは……そうだったわね…」
レリアナは今まで闇属性のせいで大人達から気味悪がられ、同年代の子達からは遠巻きにされ、仲が良かった者達でさえ腫れ物に扱うように接され、彼女は自分を守る為に不遜で傲慢な態度を取るようになり、更に周囲から人が遠ざかっていった。
「…良ければお嬢様、私が所有する小説お貸ししますよ?」
「本当!!良いの!!」
「はい。お嬢様と趣味の共有が出来るのはとても嬉しいです。ですから、本を貸す代わりにお嬢様の感想をお聞かせ下さい。手始めにこの作品の感想をお聞かせ願いませんか?」
「ええ!この気持ちを誰かに共有したいと思っていたわ!聞いてくれる!?」
「はい、勿論です。と…言いたい所ですが、私は御夕飯の準備が出来た事をお伝えしに来たのです」
「えっ!もうそんな時間!!?」
窓の外を見ると太陽が沈み、世界は橙色に色付いていた。本に熱中していたレリアナは時が飛んだ感覚となり、思わずレリアナは感嘆のような息を吐く。
「人は物事に熱中すると時間が早く感じると聞いた事がありましたが、この事を仰られていたのね…」
「はい。ですからお話は就寝前に致しましょう」
「…しょうがないわね。楽しみね♪フフフッ♪」
レリアナは今にも小躍りしそうなほど上機嫌でシエラと共に食堂へと向かった。