十二話
女子生徒は魔法の講義を終えると直ぐに寮や王都の本邸又は別邸へと戻る。レリアナも別邸が王都に構えており、別邸の屋敷へと戻った。
『『『『『お帰りなさいませお嬢様!』』』』』
「ええ、皆もお勤めご苦労様」
『『『『『有難き御言葉でございます!』』』』』
いつもの問答を繰り返し、自分がこの家に帰って来た…いつもの日常へと戻ったのだとレリアナは安心する。
大階段を上ると踊り場で二階の吹き抜けになっている廊下で頭を下げているリーグストが見えた。
(先生?何故此処に?確か契約は一週間前に切れていた筈…)
「……レリアナ様、お久しぶりでございます!」
「あ、お…お久しぶりです、リーグスト先生!」
背後から見ていたのにも関わらずリーグストは彼女の気配に気付き頭を上げ、振り返って声を張り上げて挨拶する。レリアナは気付かれた事に動揺するがどうにか表情は取り繕った。リーグストは廊下を歩いて階段に向かい、踊り場まで下りると彼女と向かい合う。
「随分と早い御帰宅ですね。今日は学校があったんでは?」
「はい。今日は授業は午前のみでしたので。それより先生は何故此方の屋敷に?」
「グエイン様から突然お呼び出しが掛かって…。駆け付け、今御話終えた次第なのです」
そこでリーグストが何故頭を下げていたのか、誰に下げていたのか分かった。
「そうなのですね…。お疲れ様です」
「労って下さり、ありがとうございます。それとすみません、もう少しレリアナ様と御話していたいのですが、これからグエイン様の依頼の為、今日は此処で失礼します」
「それは…長々と足をお止めしてしまい申し訳ありませんでした。それと改めて、御指導して頂きありがとうございました」
レリアナが頭を下げるとリーグストは微かに笑う。
「それじゃあ」
彼はそう言うと階段を下りて行き、玄関へと出て行くその背中を扉が閉まるまで見ていてポツリと呟いた。
「私も…先生ともう少し御話をしたかったな…。って…えっ?今…私……何て…」
不意に出た言葉、それは意図したものではなく自然に口から発しており、何故そんな事を口走ったのか小首を傾げる。
「……そうですね。お父様からの御依頼という事でしたからお父様が領地へと戻る前であれば依頼の事で御話にこの別邸へと来られるでしょうし、先生の御時間があればシエラに呼び止めて貰いましょう。御話すればきっと不意に出た言葉の意味も分かるでしょう」
階段を上って部屋へと戻ろうとした時に扉が開かれる音が再び聞こえ、レリアナが帰って来た時のようなメイドや執事達が帰りを出迎えている声が響いた。
(お父様は既に屋敷にいらっしゃる。お母様は本日、王妃様の開催される御茶会に参加されていると今朝方に聞きました。となれば…帰ってこられたのは…)
苦虫を噛み潰したような表情となったがニコッと笑顔の仮面を貼り付けて振り返る。
「お帰りなさいませ、メルディックお兄様」
メルディック=サレスティアはレリアナと一歳差の実兄。容姿はレリアナと同じく紫色の髪と紅の瞳を持ち、髪型はウェットパーマのセンターパートで体格は細身で185センチと高身長。成績は常に学年首位で生徒会長という地位に就いており大変優秀な人物。父親のグエインと同様に風魔法が得意。そして、兄妹互いに嫌い合っている。
「男子生徒は剣術の講義があると聞きましたが随分とお早いお帰りですね」
「レリアナ…」
侍従達に笑顔を向けていたメルディックはレリアナを見ると嫌悪に顔が歪み決して妹に向けるような表情ではない怒気に満ちた表情で睨み、叫んだ。
「お前の話を聞いた!!何やら小細工をしたようだな!!」
メルディックは詰め寄ろうと駆け足で大階段へと進み、一番目に足を掛けた所でレリアナが静止するよう手で制し、口を開いた。
「私が小細工をしたというお話ですが、心当たりがありません。何の事でしょうか?」
「惚けるな!!お前如きの魔法で木偶人形を破壊出来る訳ないだろう!!」
「夏休み期間に大変優秀な先生に魔法をお教えして貰いまして、威力が向上したのです。あれ程とは思いませんでしたが…。お兄様も先生にご教授をいただければ同じように魔法が上達されると思いますよ」
「そんな言い訳が通じるか!!どれほど優秀な教師の指導を受けようが下級魔法であの木偶人形は絶対に壊せない!!」
「…では、どうやって小細工するのですか?あの木偶人形は学園が発注し、管理しています。私が何かすればお父様のお耳に入られますし、お兄様にもお伝えなられるでしょう。お兄様が知らない時点で私は無罪ですよ。それとロギア様も同じような事を思われて聞きに来られたのでしょう?」
「…お前の忌まわしき属性ならそのような小細工は可能ではないのか」
レリアナはメルディックの言葉に眉尻が吊り上がり、闇属性を貶されて、まるでライトも貶されたように感じて顔を顰める。
「闇も他の属性と変わりません。何も知らないのに勝手な事を言わないで下さい。それと何も証拠もないのに犯人扱いも止めて下さい。そもそも闇属性で何かしたならそれは私の魔法、評価対象でしょう。ですので、お兄様の御指摘では私の不当性は証明出来ません。もう少し考えて発言された方が良いですよ。それでは失礼します」
「おい!待つんだ!レリアナ!!」
彼の静止の言葉を無視し、レリアナは階段を上って自室へと戻った。