十一話
アルマリアが前へと出るとヒソヒソと小さな…本当に聞き取り辛い音量で周りが彼女について話をする。
「(彼女ってあれでしょ?次々に男を籠絡している女って…)」
「(そうそう。特にラインハルト殿下とか位の高い男性を狙ってるとか…)」
「(聖女と噂されてるけど、とんだ性女ね。いやらしい)」
聞き取り辛い音量でも、何か言ってるのは分かってるだろう。だが、アルマリアは深呼吸してから掌を木偶人形へと向ける。
「【光彩天弓】」
彼女が魔法名を唱えると百という光の矢が出現し、木偶人形へと飛来すると全身を串刺しにした。
「ほう。光の上級魔法を詠唱破棄で。流石は聖属性の適性持ち。あまりの凄さに思わず感嘆の息が零れてしまいました。見事ですアルマリアさん」
「お褒めに預かり光栄です!これからも精進します!!」
彼女は教師に一礼するとタタタッとラインハルト達の元へと駆け寄った。
「どうだったかな!」
「流石だマリア。次期聖女の話は伊達ではないね」
「うん!マリア、まるで天使のようでした!」
「ああ!凄い格好良かったぜ!」
「三人共、ありがとう!」
彼女が三人に笑顔を向けると女子生徒達は「あざとい」やら「ふしだら」とか「生意気」や「馴れ馴れしい」等と小言が増える。
「私語を慎みなさい!授業中ですよ!」
小言が重なり、誰の耳にもハッキリと喋っている事は分かり、流石に容認出来なかった教師に怒られて一斉に口を閉ざしたが一部女子生徒がお前のせいだと言わんばかりにアルマリアを睨み付けた。
「では、次…」
続々と女子生徒達は魔法を披露していくがアルマリアより劣り、どうしても記憶には残らず、皆の反応はイマイチなもので、教師も淡々と評価しており、彼女の時のような大袈裟に褒められる者は居なかった。
「…これで最後か。レリアナ=サレスティア!!」
「はい!」
教師に呼ばれてレリアナは皆の前へと出る。
「殿下にフラれた女が出るみたいよ」
「あら、本当だわ。よく学園に来れたわね。私なら恥ずかしくて来れないわ」
クスクスと嘲う声音で話すのはレリアナの取り巻きだった。
「あの子達…!!レリアナ様にも聞こえるようにわざと…!!」
レリアナをバカにされて怒りが膨れ上がったティエラとリリスは彼女達へと詰め寄ろとすると、レリアナが目線で二人を止め、首を横に振るう。
(その気持ちだけで十分よ。喧嘩はやめましょう)
レリアナの意図は言葉にせずとも二人には伝わり、彼女達はレリアナ様に怒られてシュンと肩を落とした。
「レリアナさん、あの木偶人形にお好きな魔法を披露して下さい」
「はい。…ライト、あの人形に【水砲】を撃って」
彼女がライトに御願いをすると60センチ程の水の球が生成され、射出して木偶人形へと着弾するやいなや木っ端微塵にした。その威力に全員が絶句し、予想以上の威力にレリアナ自身も引いていた。
(闇の精霊は水と風の魔法を扱えると聞きましたがこのような威力が出るなんて…。この夏休み期間中はライトと遊んだり、勉強したりと碌に魔法を使わなかったので威力を確かめる機会がなく本当に魔法が上達したのか不安だったのですが…。一先ずは良い結果なのではないでしょうか)
レリアナは教師に一礼するとティエラとリリスの元へと戻る。
「どうだったかしら?私の魔法」
「す、凄かったです…。あまりの威力に言葉を失いました…」
「私、あれ程まで強力な【水砲】は初めて見ましたわ」
「ありがとう。二人に褒められるととても嬉しいわ」
フフフッ♪とレリアナは機嫌良く笑い、ティエラとリリスもつられて笑う。しかし、彼女の事をよく思わないロギアが強く足裏を地面へと叩き付ける。
「有り得ない!!たかが【水砲】であの威力は!!レリアナの事だ!!何か小細工をしたに違いない!!」
そうストレートに言われてレリアナは信用がない事に多少ショックを受けたが、信用は無くても当然だろうと一人で納得した。
「ちょっとロギア様!それは幾ら何でも失礼…」
ティエラがロギアに対して食ってかかろうとするのを右腕で止める。
「止めなさいティエラ」
「でも…」
「私がしてきた行動に対する正当な評価です。だから、私の為に怒らないでティエラ。彼がそう思うのは仕方ないのですから」
「レリアナ様…」
レリアナの優しさに心の底から尊敬し、その優し過ぎる彼女に対して不安を感じた。レリアナは攻撃されてもジッと耐えるだけ、これからも彼女は耐え続けて馬鹿を見る事になってしまうのを心配した。
「今更そんな事を言っても…って何だこの雨は!?」
突如ロギアの頭上から雨雲が発生して雨が降る。どれほど逃げようが雨雲は追って頭上から雨を降らせる。
「巫山戯んなっ!これってお前の仕業だろ!!クソッ!!」
頑張って雨雲から逃げようとするロギアの姿は妙に滑稽で一人の男子生徒か我慢出来なくなったのか、噴き出して笑うと、周りも笑い出すと伝播していき教師でさえ、顔を背けながら笑い声を堪えて笑い始める。
「ックソ!憶えてろよ!!」
顔を真っ赤にしてロギアは逃げるように去ろうとする。
「あっ!ロギア君!この後男子生徒は剣術を見るから帰っては駄目ですよ!」
教師のその言葉を聞き、ロギアはスタスタと何事も無かったかのように澄まし顔で戻るが、その光景が面白かったのか男子生徒達は大口を開き、女子生徒は手で口を隠し、堪えながら笑った。