十話
初登校の日ではあるが今日は学園長の話や宿題の提出だけではなく魔法と剣術の講義がある。夏休み期間でどれほど向上したか見る為に。
「それでは皆に夏休み期間で修得した、又は熟練度を上げた魔法を見せて貰う。先ずは男子から…エリレント=グランヴァイト!!」
「はい!!」
自身満々に皆の前へと出るエリレント=グランヴァイトは宰相の息子。緑髪で肩より長いロングヘアで毛質が硬いのか寝癖のように所々髪が跳ねており、瞳は琥珀色に輝き、顔は幼げで身長も163センチと低めで男子でありながら女の子みたいな容姿で女子生徒の一部に熱狂的な集いがある程の美少年。運動神経は良くないが、学力や魔法の知識量は同年代の中では抜きん出ている程の大天才で魔法の歴史を変える存在だと言われている。だが、魔力量は並の人間より少なく、自分に自信は無い筈だった。彼はチラリとアルマリアの方を見ると笑顔となって胸を張り、教師の前へと立つ。
(イマイチ頼りのない印象でしてたが、彼女と時間を共にする事で自信を得たようですね)
「では、エリレント君。あの木偶人形に向かって魔法を放って下さい」
「はい。ですが教師、魔術の使用許可を下さい」
「魔術ですか。良いですよ。魔術は魔法を良く勉強していないと使用出来ませんからね」
「魔術…」
レリアナはボソッと呟く。魔術の詳しい話はリーグストから聞いていた。魔術は魔法と同じく魔力で妖精に指示して強制的に放つもの。違うのは言葉で指示するか文字で指示するかの違いだけだが、魔術で発動する魔法は適性属性関係なく放つ事が出来る。しかし、魔術は文字と属性と魔力の結び付きを上手く合わせないと使用出来ない難しい魔法を突き詰めた分野。紙でも出して放つのかとレリアナは考えたが懐から出す素振りはなく、エリレントは右手を前へと出すと光で描かれた魔法陣が空中に描かれ、更に左手を前へと出すと先程の魔法陣とは別の魔法陣が描かれる。これで空中に二つの魔法陣が完成するが更に二つの魔法陣を巻き込むように魔法陣を合成し、一つの魔法陣として完成させた。
「これが僕の新しい技術、投影魔術だ!!」
魔法陣から炎と風が現れ、炎の竜巻となって木偶人形を襲い、吹き飛ばして炎上させた。
「お見事だエリレント君!」
教師が思わず大きな拍手をすると、皆も同調して拍手をしてそれは一つの喝采と成り、レリアナも素直に賞賛の拍手を送った。
(見事な新技術ですね。流石は将来賢者になる事が約束されてる方。……けれど、手品のネタは結構分かり易いですね。エリレント殿が付けられている手袋。空中に投影する為の魔法陣の形に手袋の掌部分を切り取り、光の魔法で空中に魔法陣を映し出す。更に本来魔法陣に魔力を注いで魔法を発動しますが、魔力を帯びた光で作られたお蔭で魔法陣が魔力を注がれたと勘違いして発動している。だから、魔力量の少ない彼でもあれほど強力な魔法を放てた…。改めて見事ですね)
見事な技術を新たに生み出したエリレントは皆の拍手に目も暮れず、直ぐにアルマリアの元へと駆け寄る。
「とっても凄かったよ!!流石エリレントだね!!」
「うん!ありがとう!!マリアさん!!」
彼は大衆の声より彼女の……アルマリア一人の褒め言葉を何より喜んだ。
(あの女、着実に他の男性とも仲を深めてらっしゃるのね。…もう私とは関係ないから良いですけど)
フイッと視線をアルマリアから外して教師へと戻す。
「では次にオーグ=スエットオルバ」
「はい!!」
男子生徒達は次々と呼ばれるがエリレント程の威力のある、インパクトのある魔法を使う者は誰一人居なかった。
「次!ラインハルト=アリスロイア様!!」
「次は私の出番だ。エリレントばかりにいい顔はさせられない」
センターパートのショートヘアで太陽の如く眩い金髪を靡かせ、ラピスラズリのような濃く深みのある青色の瞳、その双眸で木偶人形を捉える。
「ラインハルト殿下、あの木偶人形に向かって魔法を放って下さい」
「はい!行きます!【火竜咆哮】!!」
ラインハルトの手元から円錐状に火が広がっていき、直径1メートル程まで広がると直線で木偶人形まで届き、呑み込まれる。【火竜咆哮】が空間に消えると呑み込まれた木偶人形は真っ黒焦げとなり表面が炭化していた。
「ちゅ、中級の火魔法を詠唱破棄…!素晴らしい!!本当に素晴らしいですよ殿下!!」
教師はおべっかではなく心の底からの賞賛で讃え、周りのクラスメイトも歓声を上げて口々に褒め称える。だが、彼も周りの声よりアルマリアの言葉が大事なようで彼女の元へと直ぐに戻る。
「どうだったかなマリア?」
「はい!素晴らしい火魔法でした!!流石はラインハルト様です!!」
「ありがとう。嬉しいよ」
ニコッとラインハルトが和やかに笑う姿に女子生徒達は見惚れると同時にマリアへと嫉妬した。
「…これで男子は最後だな。ロギア=ベルセウス!」
「はい!!」
ロギア=ベルセウスはアリスロイア王国の騎士団長の息子。赤髪のフェードカットでルビーみたく情熱的な紅い瞳をし、筋骨隆々で勇ましい容姿で182センチと背丈も他の男子に比べても大きい。彼は騎士団長の息子なだけあって剣の腕は学年で二番目、魔法知識に置いても二番目、学問に関しても四番目と満遍なく優秀であったが、エリレントと同様に自信は無く、常に何かに追い詰められていたような節があった。けれど今は自信に満ち溢れた表情をしている。
(彼もアルマリアに勇気づけられたのですね。…私は彼女の悪い面しか見てなかったのかも知れませんが、きっとそれ以上に彼女には素晴らしい一面があり
、それに彼等は救われ、惹かれたんですね…)
だからこそ癪に障るのだが。と思うがその言葉は溜め息にして空気へと流した。
「…じゃあ、行って来るぜ。この二人にも負けない格好いい所を見せてやるよ。だから、見逃すなよマリア」
「はい!頑張ってきて下さい!」
「おう!!」
彼は胸を張りながら前へと出て新たな木偶人形へと掌を向ける。
「《万物を喰らいし龍よ、地を泳ぎ、地を潜り、肉と骨を噛み砕く牙と顎…その勇ましき姿を顕現し、我等にその御力を授け給え【土龍貫砕】》」
魔法名を唱えると掌から龍の形をした土が現れ、地面を潜り込み、そして土の龍は地面から再び出現し、下から木偶人形を丸々呑み込んだ。
木偶人形を呑み込んだ龍はそのまま天へと昇って行くと途中でその身体を圧縮して中にある木偶人形は潰され、重力に従い土の龍は木偶人形と共に落ちて砕けた。
「うっし!砕いてやったぜ!!」
「上級魔法を唱えられるようになってるとは…着実に成長しているな」
「ありがとうございます!!」
皆が壊せなかった木偶人形を破壊したロギアはラインハルトの時と同じ程に盛り上がり、ロギアは皆に手を振りながらアルマリアの元へと戻った。
「凄かったよ!あの木偶人形を壊せるなんて!」
「今度は詠唱破棄で唱えるようにするさ!」
「うん!ロギアなら絶対出来るよ!」
彼女に褒められたロギアは頰を淡い桃色に染めて、照れながら頰を掻いた。
「では、今度は女子の魔法を見る!アルマリア!」
「は、はい!!」
彼女はおっかなびっくりとした様子で返事する。
「頑張ってマリア」
「マリアさんなら大丈夫ですよ!」
「ああ!お前の魔法は誰よりも凄い!」
「う、うん!皆の応援に応えてみせるね!!」
アルマリアは三人の美男子の応援を背に受け、木偶人形の前へと進み出た。