アリとキリギリス
ある夏の日、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って楽しく過ごしていました。
そこへ食べ物をせっせと運ぶアリたちの行列が通りかかりました。
不思議に思ったキリギリスはアリたちに尋ねます。
「何をしているの?」
するとアリたちはこう答えます。
「冬にそなえて、食べ物を集めているんですよ。」
それを聞いたキリギリスは笑います。
「まだ夏なのに!夏の間は楽しく歌って過ごせばいいのに」
キリギリスはそれからもバイオリンを弾き、歌を歌ってたのしく過ごし、アリたちは食べ物を集め続けました。
やがて秋が来て、だんだん森の虫たちも減って寂しくなりましたが、キリギリスはまだ歌っていました。
とうとう冬になり、食べ物がなくてキリギリスは困ってしまいます。
そんなときキリギリスは暖かそうな家を見つけました。
それは夏の日に笑っていた、食べ物を運んでいたアリたちの家でした。
凍えと飢えで今にも死にそうなキリギリスは、食べ物を恵んでもらおうとアリたちの家のドアを叩きました。
「アリさんどうか食べ物を分けてくれませんか」
するとアリたちは答えました。
「夏の間歌っていたのなら、冬の間は踊っていたらどうです?」
けんもほろろに追い出されたキリギリスは凍えと飢えでとうとう倒れてしまいます。
「ああ、ぼくはもうダメだ。それにつけても憎きはアリども、人面獣心なり。三年のうちに祟りをなしてくれん。」
そしてそのままキリギリスは死んでしまいました。
春になってアリたちはキリギリスの死骸を見つけました。
「これでまた食べ物が増えるぞ。」
大きな獲物にアリたちは大喜びです。
そして、それを運ぶ様子を人間の子どもが見ていました。
「ママ、アリさんがキリギリスを運んでるよ。力持ちだね。」
しかしそれを見たその子の母親は言いました。
「いまいましいアリめ、いつの間に巣なんか作ったんだろう。」
キリギリスを運ぶアリの行列を追ってとうとう巣を見つけた母親は熱湯をその巣に流し込みました。
そして土と湯の混じった濁流に呑まれ、アリたちの巣は壊滅してしまいました。
その様子を遠くから眺めている影がありました。
その影の主はぽつりとこう漏らしました。
「金持ちが天の国の門をくぐるよりは、ラクダが針の穴を通る方が易しい」と。