国外追放と翼Ⅱ
「で,何か用があるんでしょう?」
アリアンと一緒に晩御飯を食べ,食器を洗っている時に彼女にそう言われた。本題を思い出したリリスは目を丸くしながら話を進める。リルにお願いされたように,素材があるかなどを相談する。
「フリューゲルの羽に紋様?そんなの彼にだってあるじゃない」
「どうやら種族長のものじゃないと意味がないらしくて……」
それを言うと,手をポンと叩いて納得した様子をリリスに見せた。
「あぁ,あいつか……もうマッドサイエンティストの域だよ。よく結界装置を見て興奮してるからね」
「えぇ……」
リリスはその話を聞いて軽めに引いた。戦闘狂のリリスでも流石に結界を見て興奮したりはしない。ただ,強い術式と人を見たら少しテンションが高くなってしまうが。アリアンはブチっと二つ自分の羽をちぎり,そこにフリューゲル特有の紋様を書いてリリスに手渡した。
そして,アリアンは少し不機嫌そうな顔でお願いしてきた。
「あと彼にこれ渡す時伝えておいてくれない?」
「?何をですか」
「そろそろ帰ってこいって」
リリスは少しだけ気になっていることがあった。アリアンとリルの関係性についてだ。なんとなく恋人とか,そんな関係性が近いような感じがした。案の定,アリアンに尋ねてみると同居中の恋人同士だったと言う。だったのだが,
「なんか研究に集中するために中央の方に行っちゃった。そろそろ結婚する予定だったのに」
「クズじゃないですか」
アリアンはリリスの一言でくすくすと笑う。ズバッと言ったのが面白かったのだろうか。少し笑い終わったあと,リリスの方を見てそれからハグをした。リリスは首を傾げたが,美人にハグをされて悪い気はしないと思う。
カーティスが風呂から上がってくると,壁ドンからのキス五秒前のような光景になっていた。慌ててカーティスは止めようとすると,リリスが顔を赤くしながら彼にキスをする。
「…………っ!?」
「ごめんカーティス!今のは全部忘れて!」
そう言うリリスの照れている表情がとても可愛い。カーティスが事情を聞いてみたら,アリアンの愚痴を聞いて慰めているとハグすることになって気がついたらあの体勢になってしまっていたらしい。確かに美女だったので抵抗も出来ないのだろう。
カーティスにとってはリリスしかいないので美女だろうがなんだろうが関係ないが。
彼はリリスの頭を撫でる。リリスは幸せそうな顔をする。
アリアンはリリスを見て幸せそうな気分になった。そして,
「私もそんな感じになりたかったな……そうだ,明日狩りに行かない?」
「「狩り?」」
「そう。赤い竜を狩って腕慣らしなんだけど……」
「やります,いや,やらせてください!」
リリスは目を輝かせて言った。確か,リルの『欲しいものリスト』にも書いてあったはずだ。そう思ってリリスとカーティスはリルに貰ったメモを取り出す。そして三人はそのメモを覗き込んだ。
《フリューゲル居住区で欲しいもの》
一,種族長の羽に紋様を書いたもの
一,赤竜と白竜の鱗
一,デュラハンの魂
これをお願いします
素っ気ない内容にアリアンは細い目をしてぐちぐちと何かを言い始めた。リリスはカーティスに二人の関係性を教えた。
リリスも風呂に入り,次の日の狩りに向けて早めに寝た。
* * *
「カーティスー,起きてー」
「うう……」
「今日はなんと言っても狩りだよ?」
普段遅く起きる時はとことん遅いリリスだが,竜を狩ったり死神の妖精を狩るのが楽しみすぎて寝れなかったのだ。戦闘パフォーマンスに支障が出ては困るので一時間くらいは仮眠したが。
朝食を食べながら空を飛んでいると,早速赤竜四体が出現した。アリアンが二体,リリスとカーティスがそれぞれ一体を討伐することを三人で決めた。
それぞれで分かれて,リリスは碧帝と相談をしながら討伐をすることにした。
普通の,フリューゲル居住区にいる竜以外は穏やかな性格で,滅多なことでは攻撃してこないらしいが,赤竜や白竜は気性が荒いので討伐対象になっているらしい。
「うーん。【竜王殺し】を使って瞬殺するのもいいけど,それだと芸がないよねー」
「リリスが竜を舐めてるよ……」
碧帝は欠伸をしながら半眼でリリスを見つめる。しかし,それをリリスが気づくことはない。
【仮想兵器】を使って赤い光を鎌に変えた。魔力を踏み台にして大きく飛ぶ。そして,左手を大きく振った。少しずつだが,鱗が剥がれてきた。幻想世界の竜は地上の竜とは違い,内部に核があるのではなく外部の黒曜石のように硬い角が核のようだ。
リリスは体力がないので大剣や大槌などの大きすぎる武器は扱えない。だから刀や拳銃くらいしか使えないし,それでは核を破壊するには至らないのだ。
バン!!という大きな音が聞こえた。リリスは即座に音のした右の方を見る。その方角にはアリアンがいた。右手の中指から魔法陣を展開させ,月の光を赤竜に放った。一瞬で角が剥がれ,素材の赤い鱗だけとなる。リリスは見た。確かに。
それは今まで見た術式の中で最も美しかった。
青い月の光,通常の薄黄色の光,そして赤い光。それらが混じって二体目の竜を焼き尽くした。
「すごい……一瞬だ」
「あれは女神が使うとされる術式だね。この世界のことはよくわからないけど」
碧帝も唖然としている。今までにこんな美しい術式を見たことがほとんどないらしい。リリスも気を取り直して赤い光の鎌でガツガツと割っていく。そして,ついにパリンと。核が壊れた。
「リリス,大丈夫……だよね,うん。知ってる」
「お疲れ様。どうだった,結構楽勝っぽかったが」
リリスは口が開いたまま塞がらない状態だった。完璧で,美しい術式。あんなものを研究したいと思っていたのだ。カーティスがリリスの肩を強引にさすった。そこでやっと目に光が戻った。
「次は白竜の討伐だけど……大丈夫?」
「う,うん。次に行こう」
カーティスとアリアンは心配そうな瞳でリリスを見つめていた。明らかに精神の摩耗をしているということが判断出来た。それが赤竜との戦いによるものではないことも。
さらに白竜もすぐに撃退した。アリアンは先ほどの月の術式を使わなかったものの,それでも動きに無駄が無く,洗練されていた。
問題はデュラハンの方だった。
そもそも,それは影のようなもので物理攻撃や単なる魔術,魔法攻撃ではビクともしないようだ。一人一体討伐することに決めた。デュラハンとは死神と同じような役割をしていた妖精で,どういう訳か魂を冥界へ導く存在だったはずがいつの間にか人を死へと誘う悪霊だとされてしまい,それがこの幻想世界のデュラハンへと引き継がれていったそうだ。
つまり,今となっては有害になってしまった神である。
「……倒すか」
「リリス大丈夫?カーティス君も言っていたけど休んでいた方がいいんじゃない?」
リリスは碧帝を無視してデュラハンに斬りかかった。そして,【仮想兵器】でとある神が使った石弾を再現させて見せた。実際に見たことあるものか設計を完璧に知っていないとできないものなのに。
その石弾を拳銃に込める。そして,心臓部分を撃ち抜いた。
パァン!!という音がした。今度はカーティスとアリアンがリリスのいる方を見た。リリスが倒すのにかかった時間はたったの数分だ。これは,種族長のアリアンですら超えられなかった記録だった。
リリスはその場に倒れ込む。数分で集中力を使い切った分,寝てしまうのは仕方のないことだった。
カーティスはリリスを抱きかかえながらアリアンの家へ戻っていった。
「お疲れ様」
カーティスは微笑んでリリスにそう言った。




