国外追放と翼
「なんか……ファンタジー系の小説で見たような種族ばかりいるよ」
リリスは唖然としている。翼が生えているフリューゲルに耳の長いエルフや獣人,挙げ句の果てにはそれらに懐いている竜までいるのだから。
とにかくホテルを探さないことにはどうにもならないと思い,二人は街を歩き始める。しかし,いくら探してもホテルらしきものは見つからない。
カーティスがエルフに聞いてみると,
「ここって全く観光客とか来ないんで。多分ないですよ」
二人はそれを聞いて相談し,誰かの家に泊めてもらうことにした。数分で泊めてもらえる人が見つかったので早速探索をし始めた。
リリスは攻撃をする時,どんな風に戦うのかが気になっていた。第三の世界ということは新しいものを見つけることが出来るかもしれないと。
「ここでは魔法と魔術を使うらしいよ。珍しいね,どっちも使えるなんて」
カーティスからそれを聞いてリリスは驚く。魔法の国では大樹から奇跡の力を体内に取り込む,海底都市は遺伝だろう。だがそんな大樹も見当たらない。そんな時,リリスはある本を見つけた。タイトルは『魔法の解析に尽力した翼』というもので,開いてみると伝記だということが分かった。
書店の店員に聞くとまだ生きているとのことだったので話してみることにした。歩いている間,リリスはずっと考え事をしていた。確かに,魔術は扱うのがとても簡単だ。魔力を練ってそれを術式に変換すればいいだけなのだから。だが,魔法はそうはいかないことをリリスは知っている。
あれはほとんど才能ゲーだ。
奇跡の力を受け取れないはずの彼らがどのようにして魔法を使えるようになったのか。それが気になって仕方ない。
「ここって言ってたよね。不気味……」
「カーティス,怖くない?」
カーティスが首を横に振る。少し震えていたがリリスがそれに気がつくこともなく堂々と扉を開けて入って行った。
「失礼します!」
「リル様,お客様です」
リリスが大声で言うと共に使用人が現れ,少し時間が経ってからリルという主人が現れた。
リリスが大声で言うと共に使用人が現れ,少し時間が経ってからリルという主人が現れた。
本で読んだ情報だと魔法の解析に成功してから一千年は経過していたはずなのに姿が一つも変わっていない。
怠そうに玄関まできたリルは頭を掻きながらリリス達を見る。すると人間だということに気がつき,興味津々な様子で顔を覗き込んできた。
「見て,人間だよ!珍し!!」
「近っ,近いです……」
聞きたいことがあるのかい,とリルは椅子に座ったリリスに尋ねた。リリスも目を輝かせて彼に質問した。
「魔法ってどうやって解析するんですか?」
「あぁ,それなら数億年前の戦争の資料から推定したんだよ」
数億年前の戦争の資料と聞いてそれが二神戦争であると確信する。リリスはさらに自分も魔法が使えるようになるかと質問したが,一瞬で首を横に振られた。
「魔力と奇跡の力が釣り合えるくらいだったらいけたと思うんだけどねー。そもそも生まれつきで魔力量が高いから一生魔法は使えないかな?」
「そうですよねー……」
二人は書斎兼研究所を見せてもらった。とても広かった。今まで見てきた図書館よりも広いことは確かだ。
そこには何千個もの魔道具があった。リルの研究によると,魔道具は魔法でも使えるらしい。
「ねえねえ,君たちが魔術使ってるところ見たいな!」
「今,ですか」
結界は張っておくからと楽しそうにリルは言う。
結界の外へ避難することを促して集中する。結界は特殊な使い方だと外部の攻撃から内部を守るだけでなく,内部の攻撃から外部を守ることだって出来るのだ。
つまり極端に言えば結界で誰かを監禁することも可能なのである。
リリスは短い詠唱をする。それだけでも十分に効果が出てしまう。
「わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」
今度は魔法の国で使ったものとは違い,一ヶ所に集中攻撃する形式にした。万が一,この術式が結界を壊してしまうとカーティス達にも危害が及ぶ可能性もあるからだ。
鉛筆一本くらいの太さになった光は誰もいないところへ進んでいった。そして,リリスの術式を止めることもなく一瞬にしてそこの箇所だけ結界が破壊された。
「「「………………」」」
三人にあったのは沈黙だけだ。おそらく,外の結界にもこれを使っているのだろうとリリスは考えた。これだけ範囲が狭いのにたかが一人の魔術で壊れてしまう結界は致命的なのではないかと思ったが,
「リリス,これでまずいなんて思わないでね。リリスの攻撃性が高すぎるだけだから」
とカーティスに言われてしまった。しかし,結界を強化しておくことに越したことはない。少し落ち込んでいるリルに二人が相談をしてみると,この世界にいる全種族の長から素材や話を集めてこいと言われてしまった。
自信作の結界を壊してしまったのだからしょうがない。
二人は彼の家を出て地図を買った。
* * *
「まずどの種族から話を聞きに行く?」
「うーん。ここからだとフリューゲルが一番近いね」
二人は相談してフリューゲルの棲み家へ向かうことにした。
リルのように,中央都市に住んでいる個体は珍しいそうで,島々よりもさらに上空に生息しているとリルは言っていた。
飛行術式で上空まで一気に飛んでいく。翼がないまま飛んでいるのでフリューゲルの変異種かと獣人に疑われたが,事情を説明すると応援してくれた。そして地図にはない情報を教えてくれる。
フリューゲルは四角い箱のようなものの中で生活をしているそうだ。その箱の意匠を見てカーティスが目を細める。
「どうしたの?」
「これ……僕の持ってる黒い箱に似てる」
そう言ってカーティスは黒い箱を取り出す。確かにデザインがとても似ている。
獣人はそれを見て,ふっと笑った。
「それ,多分フリューゲル達と同じ力を使えるよ」
何もない状態でそれを開けると全世界に無差別に厄災を振りまくこともできるし,特定の人へ向けて厄災を送ることもできてしまうそうだ。
それを聞いて二人は軽く失神しかける。いつも収納代わりに使っていたカーティスは顔が真っ青になっていた。
なぜそんなものをフリューゲルが持っていたのかは疑問だった。
それを感じ取ったのか,獣人はなんでもないかのような口調で話し始めた。
「この世界に住んでいる種族長はそれぞれ神を処刑する力を与えられているんだよ。それはフリューゲルの種族長が使う術式だね。それにしても術の再現性とか高そう」
曰く,第一の世界と第二の世界の神が暴走したらすぐに止めれるように与えられたものだそうだ。二神戦争ですでに暴走済みかと思ったリリスだが,その戦争の後に神に依頼されて『処刑人』をしているとリリスは教えてもらった。
獣人達に感謝をして,さらに上へと行った。
「ここがフリューゲルの棲み家……予想はしていたけど地面はないんだね」
遥か上空だった。下を見てみると,カッパドキア奇石群みたいなものがあることに気がついた。暇があればそこにも行ってみたいなどと思っていたリリスは誰かと衝突した。
「すみませんっ!」
「?見たことないね……というか人間?」
リリスは天空の街で出会ったフリューゲルの彼女に案内してもらって,種族長の住居へ辿り着いた。緊張しながらも扉を叩く。種族長だろうが箱の住居というのには例外がないらしい。
「誰ぇー?」
「種族長様,人間の客人様です」
扉が開く。そこには絶世の美女と言える翼を持った人がいた。その女はアリアンと名乗った。若干キレている。
「ねえ,今が夜だって知っててやってるの?」
とりあえず泊まってきな,とアリアンは言った。気がつけば真っ暗になっていたので泊まらせてもらうことにした。




