国外追放と砂漠
「っていうか,なんで陛下がいらっしゃっていたの?」
「なんとなく顔が見たくなったって父上は言ってたけど……」
リリスは歩きながら今度こそ苦笑する。彼女は思い出した。そういえば,アシュリーには宿泊先を教えていなかったはずだ。ではなぜ舞踏会の時はリリス達をこのホテルまで送り届けることができたのかという疑問が残ってしまう。
カーティスはなんとも言えないような表情で,
「考えるのはやめよう。父上のストーキング癖は慣れてるし」
もう意味が分からなくなった。なんだ親が子供をストーキングするとは。しかし,前世の唯葉も兄につけられることがよくあると相談してきたので意外とあることなのかもしれない。
「ストーカーなのかぁ……」
「リリスの親は違ったんだ」
「うん。全くつけ回さないし,というかそもそも私に興味がない感じ?」
二人の間に沈黙が流れた。カーティスはすぐに話題を変える。
「じゃっ,じゃあ姉妹とかは仲良かったの?」
「うーん。アリサはいつも側にいてくれたけどサロメも両親もマリアの方と仲良かったから……」
なんかごめん,とカーティス。リリスからしたら普通のことだからなぜ謝られるのかが分からなかった。
薔薇の国の国境を出て見えた景色は砂漠だった。リリスは驚きながら空を見る。雲一つない,快晴だ。カーティスは魔術で氷を作ったりで温度調整ができるが,属性魔術を全く使えない彼女にとっては地獄のようなものだ。
「これが世界最大の砂漠,エルモス砂漠かー」
「あっつい……」
近くにラクダがいたのでそれに乗って移動することになった。一日くらい経っても全く先の都市が見えない。そもそも都市があるのかすらも分からない。
カーティスの作った氷も使って体を冷やす。周りの空気中にある水蒸気を圧縮して冷やすと氷が出来るので湿潤な気候であるエルモス砂漠では氷が作りやすかった。
「暗くなったね……」
「今日はここまでにする?近くに洞窟が見えたからそこで休憩しようか」
二日目の夜,ここまで休憩なしで進んだ。流石に疲れが溜まってしまったので最後の力を振り絞って洞窟までラクダを歩かせる。そこに到着すると,リリスはラクダにありがとうと言って洞窟に入った。
二人だけかと思いきや,先客が二組いた。一組目が三人で二組目が一人で砂漠を渡っているそうだ。
砂漠の夜は冷える。そう教えてもらったので火を起こし,計六人で暖まっていた。
そんな時,急いで洞窟に入ってくる影が見えた。
「みなさん,逃げた方がいいですよっ!!」
「どうかしたんですか?」
くたびれていた男をカーティスは横たえる。事情を聞くと,夜になって突然,天空に島々が現れたという。
そういえば世界七不思議の一つにそんなものがあっただろうか。
天空都市に一級魔術師,電脳の国に地上絵。そして地下世界の存在,転生,古代に起きたかもしれない戦争が世界七不思議の内容である。
とりあえず外に出てみて,島々を確認してみた。確かに『それ』はあった。明らかにこの世界とは違うもの。リリスは突如現れた原因を探るため,結界の強度を見てみる。すると,一ヶ所だけ明らかに弱くなっている場所を見つけた。
透明化の結界を張っていたがなんらかの理由で力が弱まり,出現してしまったということだろうか。
二人はとりあえず天空にある島々を目指すことにした。
「ふぁぁ……眠い」
「ここで眠らない方がいいですよ!自分はここで賊に持ち物を奪われましたし」
それを聞いたリリスは自動迎撃術式を結界に組み込んで寝てしまった。
「多分……いや絶対に賊に襲われることはないでしょう」
カーティスが言った矢先に洞窟に賊が現れた。三人ほど攻撃体制に入るが,実際に攻撃することはなかった。リリスの張った結界が作動したからだ。泣きそうな目をしながら賊は逃げ帰る。
その光景を見て,カーティスは苦笑いをし,攻撃体制に入った三人組は寝ているリリスの代わりにカーティスへ感謝の言葉を述べた。
その後も色々な盗賊が洞窟に入ろうとしたが,全てリリスの結界に防がれたということは洞窟で寝ていた七人には分からないことである。
* * *
日が昇ったのを確認した七人は洞窟から出て歩き始めた。三人集団はローゼンタールの冒険者志望だそうだ。なぜ始めの国のビクニデルスへ行かないのかとリリスが質問すると途中で道に迷ったと言っていた。
「冒険者で道に迷うってまずかったりするんじゃないんですか?」
「リリス,多分君の方が重症だからね。あんまり人のことを言えないよ」
リリスは少しいじけたように目を細める。戦士を務めていると思われる人は下を向きながら考え事をしていた。そして,リリスの顔を数秒見つめた。
「うわっ,元公爵令嬢の人じゃん!?」
「マジで!?本物だ……」
やべ,とリリスはそんな顔をする。そういえば国外追放されている身なのだ。攻撃されるかと思って防御結界を展開した。が,魔術師を務めているらしき女の子が手を握ってきた。
「久しぶりですね!覚えていないですか?ほら,同じクラスだったジュディです」
そんな子がいた気がしなくもない。正直,学園の時は図書館にこもっているか訓練場で教師と魔術を使った戦闘をしていた記憶しかない。同じ上位のクラスなら頭もいいのだろう。
だとしたらなぜこの子は普通に接してくれている?
「いろいろな国を回りすぎて知らなかったかもしれないですけど,国外追放が解かれたんですよ。冤罪だって」
「おまけに,国内最高ランクの二級魔術師に昇格したって」
⦅あれ,マリアに一級魔術師ってバラされなかったっけ⦆
リリスは知らない。一人の人生を狂わせてしまったマリアが後悔して洗脳を解いたことを。しかし,リリスにとって都合の悪い情報は消しておいたままにしていることを。
ジュディは目を輝かせながら魔術の上達方法について尋ねられた。
カーティスは呆れた表情をしながら,
「多分戦闘狂にならないとリリスほどまでは行かないかな?」
「そんなだよ。私はただ強者と戦うのが好きなだけで……」
「「「それを戦闘狂って言うんだよ!」」」
その場にいた全員にツッコミを入れられてしまった。天空都市があると報告してくれた人は薔薇の国の方へ行き,一人で旅をしていた人は南の方へ行った。
冒険者三人はリリスとの戦いを所望だったようなので,砂漠の中なのに戦うことになってしまう。流石に秒殺だと彼らの心が折れそうなのでリリスは【魔力分散】の使用を禁止した。
決闘が始まる。結界も張られていて,死亡する心配はない。戦士は斧を手に持ち,リリスの方めがけて走ってきた。次に槍使いが溜めに溜めて槍を投げてくる。魔術師は詠唱をせずに杖を一振り二振りして遠隔攻撃。
それらをリリスは全て避けた。魔術も何も使わずに。
そこで三人の間には衝撃が走った。もちろん,見ていたカーティスも驚いている。リリスが運動音痴だということを知っていたから,彼の方が驚いていたのかもしれない。
自分を縛って強い相手に勝利することが何よりも楽しい。師匠と戦って学んだことは沢山あったが,一番大切なことはなんだと言われたら迷いなくこれを選ぶだろう。
今度は魔術師が模倣魔術かなんらかで魔力分散を放ってきた。が,自分の魔術で倒されるようなリリスではない。
一旦後退し,緩みかけていた頬を叩く。とりあえず今は決闘に集中だ。
これまででリリスが裏をとったことはあるが,三人が裏をとれたことはなかった。リリスは一気に加速して他の人の身体強化をしている魔術師を倒した。その他二人は簡単で,走りながら仕掛けておいた地脈地雷で吹き飛ばす。
リリスの勝利だ。
「うわぁ……トドメ以外は魔術使ってなかったじゃん」
「これからも頑張るのでまたどこかで出会ったら戦わせてください!」
手を振って三人と別れた。そして上を見て,手で日光を遮りながら,
「そろそろ行きますか」
「どんなところなんだろうね」
二人は飛行術式で,遥か高くにある島々へ飛んだ。
「ここは……」
「貴方達の世界,正確に言えば兄弟が支配していない第三の世界。名称をつけるならば幻想の世界と言うところです」
「「わぁっ!?」」
後ろを振り向くと人間がいた。しかし,よく見てみると人間ではなく耳の長いエルフだった。
「ここにほとんど人間は住んでいません。ほとんど人間の世界で伝説の存在とされているものです」
どうでしたでしょうか?
舞踏会みたいなのを一度やってみたかったので嬉しいです。
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