国外追放と舞踏会
⦅まずいな……まさかお母様がいるとは⦆
焦りを隠すためにリリスはカーティスに話しかける。
「広いねー」
「そうだね」
「もう帰っても良いかな?」
どうしたの,とカーティスが首を傾げるとリリスが指を差して両親の存在を伝える。気がついたカーティスは苦笑いした。
リリスは気がついていないが,彼女はとても注目されていた。綺麗だからだ。
音楽が始まる。カーティスはリリスの手の甲にキスをして,
「一曲,踊って頂けませんか?」
「……足を踏まないように頑張ります」
リリスも家事の修行の時は逃げることができたがダンスの時は無理だった。【幻想魔術】を使ってリリスが師匠のところへ行こうとするとアリサがとても睨んできたのだ。それが怖くて社交ダンスだけは参加をしていた。
多分,今アリサの睨み顔を見ても怖いと思う。
踊っているとカーティスは驚いたようにリリスに問いかけてきた。
「リリスってちゃんと踊れるんだね」
「私のこと,馬鹿にしているの?やればできるんだよ」
リリスの膨れ顔を見たカーティスは微笑んだ。
一曲目が終わり,踏まずに済んだと安堵しているリリスは完全に油断していた。人が流れ込んできた。何事かと思ったリリスはとりあえず防御結界を張り,自分の安全を確保する。
一つの会話が聞こえてきた。それはカーティスと踊りたいという女性のものだった。カーティスは性格も良いし顔も整っているので当然だろう。リリスはその場を離れて階段を登って外を眺めていることにした。
『皆様,ようこそもしくはお久しぶりです。突然ですがライオネル岬で起こった奇跡は記憶に新しいかと思われます』
リリスは目を見開く。リリスが暴れた『あれ』は二年くらい前の話であまり新しい情報ではないはずだ。
そんなことを考えていると,司会のような人が再び話し始めた。
『ライオネル岬に行くための森の木が一斉伐採され,その直後に再生された奇跡』
⦅やっぱそれなのか。全て焼き尽くした記憶はないけど……やっちゃってたのかな⦆
リリス当人も記憶がない。星を見るために死ぬ気で走っていたからだ。そういえばあんなに走らなくてもよかったのでは,とリリスは考えた。
『そこで一級魔術師が実在するではないかという説が出た訳ですが』
⦅なんか嫌な予感がする⦆
『一級魔術師になぞらえたゲームをしたいと思います!』
ルール説明を聞くと,前世で行った人狼ゲームのようなものだ。一つだけ違うことは『神様』という役職がいてその役職の人が一人でも生き残れば一般人の陣営は勝利とのことらしい。
一級魔術師役は五人,神様役が十人,その他が一般人という内訳になっている。リリスの役職は一級魔術師__つまりは人狼だ。
役職確認が始まった。一級魔術師さん,目を開けてくださいと司会が言うとリリスも目を開ける。
驚きだった。この会場には二千人はいるだろう。一人だけでも本物の一級魔術師が『一級魔術師役』に選ばれる選ばれるというのはすごいはずなのだ。なのに。
⦅すごい……確率というものを完全に無視している⦆
今,目を開けているのはリリス,ダンテ,エレーナ,ミハイルに見たことのない男性だけだ。
つまり,一級魔術師役である五人の中に本物が四人混ざってしまっているのだ。
さすがに苦笑いをしてしまう。
確認を終えたと判断した司会は全員に目を開けても良いと言った。
『それでは皆さん頑張ってください!』
早速指示がきた。交信術式を通して殺害方法が送られてくるらしい。トマトジュースかワインを服に掛けろと書いてあった。
リリスはつい遠い目をしてしまう。こちらには液体全般を操ることができるダンテがいたりするのだ。
しかしそれをしてしまうと興醒めにもなってしまうし文字通り『秒で』決着がついてしまうため,配慮はするのだろう。
「あらあら元お姉様ー?」
嫌な声だった。リリスのことを姉なんて言えるのは一人しかいない。
「サロメ……」
「そのドレス,どうしたのよ罪人」
猫撫で声で姉と言われたかと思ったらいきなり罪人である。ローゼンタールではそのような扱いなのだから間違ってはいないのだが。
サロメのドレスはリリスのドレスとは正反対だった。
刺されても血の色が分からなくなりそうな真っ赤なドレス(露出高め)にルビーのネックレスである。リリスは軽めに引いてしまった。
そして少し迷い,近くにあったワインを手に取る。
リリスはサロメにワインをかけた。誰にも見られないように【透明化】という術式を使って。
「なっ……」
「まあ,これに関してはすぐに分かることでしょう」
リリスが交信術式で司会に完了と送った。
すぐに報告はあった。キーンという音が会場に響く。
『皆様!最初の被害者が出ました!!被害者の方には赤い液体が付いているかと思われます。血ではないので安心を!』
サロメは咄嗟に自分の腹を見た。ワインが広がっていく。前をみると,既にリリスは消えていた。悔しがりながら手を挙げ,自分が被害者だということを伝えた。辺りがざわつき始める。二階ということは見られやすいはずなのに,誰もその現場を見ていないからだ。
被害者になってしまった人は一階の端にあるソファーで舞踏会を見ていないといけないらしい。つまり一日目の以降の舞踏会には参加できないということだ。
「多分リリスさんですよね?」
「分かるんですねー」
もちろんと言うダンテの近くにはほとんど女性がいない。リリスが少し遠くを見ると悔しがる人たちがいた。一級魔術師だと思う人を司会に報告してあっていると当てられた人も一日目は大人しく見ていないといけないというルールがある。ここで司会に報告をしないということは今の会話が聞こえていないのだろう。
「踊らないということは婚約者でもいるんですか?」
「まさか。婚約者なんていても面倒くさいだけですし彼女たちと踊るメリットがないと思ったので」
リリスは少しダメージを食らった。主に『婚約者なんていても面倒くさいだけですし』のところだ。
気がついたダンテは慌てて訂正をする。
「別にリリスさんとカーティスさんの関係を批判している訳ではないので」
既に舞踏会が始まってから二時間が経過している。その間にサロメを除いた一人しか脱落していないのでそろそろ忘れ始めてきた頃だろうとリリスは思う。
司会は曲の紹介を始める。それを聞いてダンテは,
「僕と一曲,踊って頂けませんか?」
「良いですけど……」
リリスがそう言うと,リリスの前方にいた女性達が目を三角にした。しかし二人はそれに気づかずに踊り始める。
「そろそろ,次の被害者作っておいた方がいいですよね。何人くらい落としますか?」
「…………」
リリスの一言でダンテは黙ってしまった。そして話を強引に変える。
「カーティスさんとはどうですか?」
「えっ,仲良いと思いますけど」
二人は踊りながら下のフロアを見る。カーティスは誰かと踊っていた。心なしか,疲れているように見える。
「大変そうですねー」
「リリスさんには嫉妬とかないんですか……」
ダンテに強引に話を変えられてしまったリリスはすぐに戻す。次の被害者についてだ。
「あぁ,神様役を当てるんですね。必要ないと思いますよ」
「?」
リリスが首を傾げた瞬間,世界から一瞬にして星による光が消失した。
周りが混乱を始めた。星に何か手を加えることができる,かつこのスケールの大きい魔術を使える人をリリスは一人しかいない。
「エレーナさんですか……」
「流石に神役を全員当てるなんて無粋なことはしないでしょうけど」
司会を通じてエレーナから届いたもの。それは神役リストで,八人しか書かれていない。その中には,アシュリー・ローゼンタールとも書かれていた。
「あの人を殺害するのは難しそうだよなぁ」
「けど後回しにしておくのも怖い……」
星の光が戻り,再び音楽が流れる。




