国外追放で衣装を買う
「リリスどうする。舞踏会行く?」
「行きたくないんだけどなぁ。アシュリー国王陛下は怒らせたくないし」
そう言ってリリスとカーティスはローゼンタール国王であるアシュリーを思い浮かべる。あの人は怒らせてはいけない。そんな文言が学園のどこかにあった気がする。
しかし詳細なところまでは覚えていないリリスはしょうがなく参加することにした。
「あれ,なんで陛下は僕たちがここにいるって知っているんだろう」
「占いとかでそう出たんじゃない?」
そう言ってリリスは占星術が得意な一級魔術師の顔を思い出した。エレーナだ。
ため息を吐きながら向かった先はホテルである。この薔薇の国のホテルはとても綺麗だ。なぜかと思ったが数年に一回,国賓が訪れるとなったら納得であった。
ベッドに飛び込んで寝ようとしていたリリスにカーティスは半目で言う。
「ほら,町探索行くよ」
「ん……あんまり気乗りしないな」
カーティスに手を引かれ,半ば強引に外に連れ出されたリリスは最初は怠そうだったが途中からとても楽しそうにしていた。
「見てみて,【薔薇の書】だよっ。これ原本には書かれていないことがある!」
そう言ってリリスは薔薇の書の中盤のところを指差す。カーティスが覗き込むと確かに別の内容が書かれてある。
『組織の目的は世界平和。それを成すため,術式の応用を考える』
これがどういう意図で書かれたのかは分からない。リリスも薔薇の書の制作者がとある組織に所属していたという噂は聞いたことがある。
もしこれを本人が書いたのならばそれはアリス・シュプラインではなく,ドミニクなのだろう。
考えながら歩いていると人とぶつかってしまった。
「すみません……」
「一週間後にある舞踏会出るんですよね。ね!?」
「えっなんでそれを」
「分かりますよー。背筋とか会話の内容から高貴だなっていうのはある程度推測できるんです」
感心したリリスはぶつかった女に話を聞いてみた。彼女は国内有数の仕立て屋であることが分かり,安く仕立ててくれることになった。
出来るだけ目立たないようなドレスがいいと思っているリリス。カーティスと一緒に見ていると突然,仕立て屋の女___ライラが駆け寄ってきた。
ライラはとても目力が強い。特に衣装関係のことを話している時は目が飛び出そうなくらい見開いている。少し怖かったが,本気で選んでくれたと思うと嬉しかった。
早速試着をしてみようと個室に入る。着替えている時,碧帝が出現して驚いた様子でリリスの方を見ていた。どうしたのかとリリスが聞くと,
「いや,後宮のときも思ったんだけどさ……地味な服でも目立つよね」
「どういうこと?」
「リリスの元々が綺麗すぎるって話」
首を傾げながら,二人を待たせすぎないようにとコルセットをつけ,碧帝が独り占めしていたドレスを見ることになった。
リリスは口が空いたまま塞がらない状態になってしまう。スカートがあまり膨らんでいないではないか。露出も少ないし,昔,パーティーで着たようなものだと動きにくいから嬉しいのだが。首元や胸元は完全に隠れており,リリスの好みそのままだ。
「よく私の好みなんて分かったね,あの人」
「ふーん。そんなのが好みなんだ」
碧帝に背中を押され,カーテンを開けた。
薄い碧色にグラデーション掛かった水色のドレス。ところどころにある白色や桃色,藤色と合わさってリリスをさらに儚げに演出させる。
カーティスはそれを見て思わず抱きついてしまった。
「似合ってる……かわいい」
「あ,ありがと」
「どうです?私,結構似合うものを仕立てるのが得意なんです」
へぇ,と思ったリリス。一つ気になる発言があった。『仕立てる』。ライラはそう言っていなかっただろうか,という疑問を浮かべたリリスは質問してみた。
「仕立てる?今さっき来たばかりなんですけど」
ライラは説明するの忘れちゃってた,と小さな声で言い,人差し指を立てて説明を始めた。
「私ライラはちょっと変な魔術を使ってるんですよね。生活に必要な魔術?っていうか」
「魔術?」
リリスが身を乗り出す。服を直す術式なら知っている。しかし,服を新たに作る術式なんて聞いたこともないし衣服の設計図があの一時間で作れるとも思わない。
そう考えていることが顔に出ていたのか,ライラは微笑んでさらに説明をする。
「衣装を直す術式の応用と考えてもらって構いません。設計図通りに作ることのできる術式です」
「えっ,だとしたら設計図は……」
「自分自身で考えていますよ?」
衝撃が流れた。こんなにも素晴らしく客の要望に沿ったドレスの設計図をたかだか数十分で作ることのできるライラには天才という言葉が相応しい。二人は思った。
ライラはキョトンとしながら言葉を続ける。
「あ,男性の方も仕立てちゃいます?」
「「お願いします!!」」
リリスが元の服に着替えている間に何か要望はないかとライラはカーティスに尋ねる。
国のバッジをつける場所とリリスの隣に並んでいて違和感のない服ならなんでもいいというカーティスの要望にライラはバッジの大きさを質問する。カーティスが答えると,ローゼンタールということをズバリと当ててきた。
「なんで分かったんですか?」
「国のバッジの大きさは全て把握してますから!わぁっ,王子様かー美男美女でお似合いで……」
ライラが最後まで言おうとしたところで遮る声が聞こえた。そして,それはカーティスも聞き覚えのある人のものだった。
「ライラ,取りに来たわよ!」
「あー……ごめん気乗りしないからあと少しだけ待って」
ライラにそう言われてエレーナは足を踏む。
「このっ,ライラはっ,そうやって期間を先延ばしにするっ!こんにちは。カーティスさんじゃないですか」
「え,あ,こんにちは……」
不意にエレーナに話しかけられて反応できなかったカーティスは少し悩んでから話した。リリスがカーテンを開けて楽しそうにドレスを買った。少しうるさいと思ったリリスは三人の方を見る。そこでやっとエレーナが騒いでいることに気がついた。リリスはエレーナのことが好きなので彼女に飛びつく。
「うわっ!貴女何してるの!?」
「なんか……僕にはそんなに抱きついてこないのに」
一人ショックを受けたカーティスを碧帝は慰めている。もちろんカーティスには碧帝が見えていないのだが。嫌がっているように見えて実は喜んでいることをリリスは知らない。途中でミハイルもライラの仕立て屋に入ってきてリリスを睨んだ。
「俺のエレーナにベタベタ触んないでよ」
「いいのよ。リリスは別に許容範囲だし」
エレーナは照れてリリスから離れる。エレーナの右腕にはリリスの作った花輪がまだ付けられてあった。しかしそれに気がつかないのがリリスである。その間にカーティスは着替えたらしく,正装だった。
「どう,似合ってるかな……っ!?」
「ふふっ,最高だよ!!やっぱりカーティスはなんでも似合うね!」
リリスはカーティスの顔を正面から見る。右耳にイアリングをつけていることに気がついた。それは死者の国で二人,お揃いで買ったものだ。そして,リリスも左耳に氷のイヤリングをつけている。カーティスはキスをする。エレーナは思い出したように何かを言う。
「リリスは舞踏会に参加するんですの?どんなドレスを着ていくの?」
「それは……その時のお楽しみってことで」
人差し指を口の近くに立て,片目を閉じ,リリスはそう言った。カーティスとエレーナは心を射抜かれてしまった。




