国外追放と薔薇の棘
リリスは走る。カーティスを応援するために。運動音痴でろくに走れないリリスではなかった。集中していると走れるようになるということだろうか。
方向音痴でもあるリリスはとても苦戦したが,国土の半分を占めている遊戯場を見つけられないほどではない。遊戯場へ近づくほどに人が多くなっていく。それほどチェス大会というのは重要視されているのだろう。とある人達の会話が聞こえてきた。
「今回の決勝戦は人間が参加するんだってよ。機械人形相手に全勝だって」
「けど,流石に負けるんじゃないの?だって相手は電脳の国製のスーパーコンピューターなんだから」
一筋縄ではいかないような相手。決着がついていないといいが,と思うリリスは人混みを潜り抜けて会場へ走っていった。
チェス決勝戦の会場はざわついていた。不安になったリリスはさらに走って今の状況がわかる画面を見た。
白がコーナーメイトで詰んでいる。カーティスがどちらなのか分からないリリス。碧帝は虚空に現れてニヤニヤとしていた。
「リリス,これどっちがカーティス君だと思う?」
「黒だって信じたいけど……スパコン相手ならさすがに負けちゃうんじゃないかな」
十番勝負でまだこれは四戦目らしい。そして黒は全勝している。たとえカーティスが強くてもスーパーコンピューターに全勝することもないだろう。少し残念がり立ち尽くしていたリリスに衝撃的なものが映った。
『人間がコンピューターに勝つ。これは相当難しいはずですが……』
『不思議なものですねぇ。指す手に迷いがないように見えます』
「えぇ……」
「カーティス君すごい張り切ってたよー。殺気が滲み出てたっていうか」
リリスはドン引きする。生き残りゲームが終わってからそんなに時間は経っていないはずだ。どうしてそんなに勝てているのだろう?
碧帝はさらに,
「リリスのこと心配してたよー?」
「私のことなんて心配しなくていいのに……」
そう言っていたリリスだが,少し嬉しそうな表情をしていたことを知ってる。今までリリスはほとんど心配をしてくれる人がいなかった。そのことを碧帝は記憶を共有しているので知っていた。
ずっと誰かに褒めて欲しくて。ずっと認められたくて。
魔術を学んでいたことを碧帝は最近になって分かった。普通の貴族令嬢として普通の人生を歩んでいたら魔術なんて学ぼうと思わないはずだ。乙女ゲームとやらの世界へ転生したのならば尚更だ。
碧帝は静かに微笑んでリリスと一緒に画面を見上げた。
「あ,勝った」
「ほんとだ。これであと一勝すれば優勝なんだよね」
二人は見守る。カーティスのチェスの手には無駄がない。リリスの知っている彼の性格とは真反対の相手を詰ませるため,機械のように一手一手を打ってくる。リリスもカーティスと試合した時に驚いた。
彼と試合しているスーパーコンピューターの表情を見てみた。コンピューターなので表情なんてないはずなのだが,どこか焦っているようにも見えた。
「うーん。私は碁しかやってないからルールはよく分からないんだけど……どんな感じなの?」
「これカーティスは勝ったね。それに気がついているみたいだけど,スパコン側が負け惜しみでずっと戦ってる感じかな」
二人がしばらく観戦していたが,カーティスのチェックメイトと言うと,スパコンはショートしたようにがっくりとしてしまった。カーティスは試合が終わると,走っていってしまう。少しすると,カーティスが観客席の方に来てリリスはどこかと大声で言った。リリスが大きく手を振るとすぐに駆け寄ってきて抱っこした。
「……っ!?」
「リリス大丈夫?熱とかはない?」
二人が話していると,画面が切り替わって生き残りゲームの時の受付嬢と男が映し出された。
『さて,予選会の全ての競技が終了しました!』
『今年は新しい競技が増えましたが最初の優勝者は誰になっているのでしょう?それでは,優勝者発表です!!』
再び画面が切り替わり,映像が流れる。そこで気が付いたことなのだが,生き残りゲームは今年になって出来たものなのだと知った。リリスはそういえば戦闘シミュレーションゲームはやっていなかったなと思い出す。生き残りゲームに画面が変わった。ゼルセピナとプレーメスとの戦いが映し出される。二人は苦笑いをした。リリス的には途中で気絶してしまったものだから,よく覚えていない。もしも気絶していた時に奇行に走っていないといいのだが。
「リリスちょっと見ないで,聞かないで!!」
「えっ,突然何!?」
カーティスはリリスの目を塞いだ。しかし,耳まで塞げていなかったのが失敗だったと言えよう。というか,目よりも耳の方が塞いだほうが良かったかもしれない。
流れた。盛大に流れてしまった。
『リリス……死なないでぇ……僕,リリスのことが大好きなんだ。世界で一番』
プレーメスを倒してリリスも倒れたときのことだ。魔力が大幅に消えて,本当に死にかけていた。カーティスはすぐにリリスに魔力をあげたが,リリスが生きるのに必要な魔力量に達していなかった。その時に言ったことなのだろう。カーティスがここまで泣いているのは見たことがない。幽霊と遭遇したときさえ,少し泣いて終わっていたのだ。
「カーティス,そんなに心配してくれていたんだね。大丈夫,私は簡単なことでは死なないから!!」
「本当に?」
うん,とリリスは力強く言う。それを見て,カーティスは微笑んだ。最後にチェス大会でのカーティスの圧勝を見てそこで映像は終了した。
『優勝者の皆様,おめでとうございます!』
『本戦でも頑張ってください!』
映像が終了したのを確認した二人は,ホテルへ向かって荷物をまとめる。別の国へ行くためだ。二人はとても楽しかったと満足している二人は話しているとあっという間に国境を越えてしまった。
そこからだろうか。薔薇が増えてきたのは。
リリスは歩きながら正面を見た。そこには,薔薇で飾られた門がある。そこには女性がいた。少し簡単目な魔術に関する質問を出され,すらすらと答えることが出来たリリスだった。
* * *
「あれ,ダンテさん。どうしたんですか」
「こんにちは。一週間くらい後に舞踏会みたいなのがあるんです」
あっ,と何かを思い出したかのような顔をするカーティス。リリスはどうかしたのかと聞くと,
「そういえば,父上からそんなことがあるって聞かされたような……」
「ふふ,それでは楽しみにしていますよ」
ダンテは手を振ってどこかへ行ってしまった。二人はまずはホテルを探すことにした。そのついでで探索をする。リリスがカーティスの方を見た。緊張,そして焦り。どちらもリリスの見たことがない表情だった。
「カーティス,大丈夫?なにかあるの……?」
「う,うん……ちょっと。ごめん。僕,あんまり好きじゃないんだ。舞踏会とか」
「だから,第二王子だってことを隠して出席しなくていいようにしていたの?」
そういえば船に乗ったとき,人が多い所が苦手と言っていたではないか。さらにカーティスは不安そうに言う。
「それに……もう父上が僕のことを言うつもりみたい」
「?」
「僕が王子だということだよ。そろそろ覚悟は決めないとね」
リリスはカーティスの頭を撫でた。少し照れていたカーティスだったが,甘えてきた。リリスはこの国ではカーティスの新しい表情が見れるのかもしれないとすこし微笑んだ。
そんなことをしているとなぜか翠蘭が走ってきた。
「わぁっ,リリスー!?」
「どうしたんですか翠蘭さん!!」
「ダンテさんから伝えてほしいことがあるって言われて……リリスも舞踏会に参加しろってローゼンタールの国王様が言ってたって。ちなみに,聖女様とか,第三王子とかはいないって言ってたよ」
それだけが救いだったが,リリスも舞踏会などは苦手だ。リリスとカーティスはため息を吐いて遠い所を見た。
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