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悪役令嬢は国外追放で旅をする  作者: 駱駝視砂漠
海底古代都市編
82/106

二神戦争Ⅱ

⦅どうしようかしら……今,囲まれている訳だし⦆


 唯一の人間であるアリス・シュプラインは迷っていた。どちらの神側につくかと言われ,セトではない方を答えると一斉に攻撃してきてきたのだ。どちらでも良かったアリスだが,とにかく追っ手をどうにかして消したい。


「【起爆】」


 アリスがそう言うと,追っ手の近くにあった林から見えなかったはずの爆弾が現れて爆発した。これで追われなくても良いかと思っていたアリスは,とんでもないものを目にしてしまう。

 それは,氷でできている城壁。しかし,アリスの結界ですら壊されかけたような威力なのに,少ししか溶けてないことに違和感を持った。

 その城壁の周りをぐるぐる歩いていると,扉があることに気がつく。不安を抱きながらも扉を開けて氷の城の方へ進んでいくと,少女がいた。


「ここは危ないんじゃないかな?早く避難した方がいいよ」

「お姉さんは,セトさんの陣営の人?」


 違うよ,とアリスが答えると目の前の少女がにっこりと微笑んだ。

 同じ陣営側だと考えたアリスは安心しきっていた。すると,少女はありえないような発言をした。


「良かった。これでやっと殺せます」

「……え?」


 少女___ヘルが右手を挙げて少しの詠唱をすると,地面から氷でできた人間が出現した。何がなんなのか,分からないアリスは棒のように突っ立ったままだ。ヘルが殺意高めの攻撃をアリスに向けた。結界では守りきれない。そう思ったアリスは何故だか顔を腕で覆った。

 しかし,一向に攻撃が飛んでこない。気になったアリスは顔を上げて少しだけ覗いてみる。目の前にいたのは,金髪で氷の地で寒くはないのかと思うくらいには薄っぺらいローブの女だった。


「大丈夫かな,イレギュラーちゃん?」

「い,イレギュラー?」


 ぽかんとしていたアリスだったが,その女が笑って氷の人間を一掃してしまった。とにかく,味方かどうかを判断しようとしたアリスは単刀直入に聞いてみることにした。


「あの……お名前は?陣営は?」

「全部答えるからー。ゼルセピナで,陣営は兄の方だよ」


 ゼルセピナが嘘をついているようには見えない。ようやく安心できると思ったアリスは,疲れから来るため息を吐いた。ゼルセピナは笑ってアリスの方を見た。


「私が戦っておくから,早く逃げな」

「あ,ありがとうございます!」


 アリスはゼルセピナにありがとうと告げ,その場から立ち去った。

 その様子を見て,ヘルは冷たい口調で淡々と話し始める。


「私,君の前にもたくさんそっちの陣営の神を殺しまくってるんだよね。けど,手応えなくてさ……楽しませてくれること,期待してるよ」


 ゼルセピナがふっ,と笑うと二柱の刃が火花を散らした。


 * * * 


「ここどこ……?」


 神の戦いから逃げてきたアリスは再び迷っていた。いつの間にか,辺りは暗くなって炎魔法で照らしても明るくならない。

 逃げていく道の途中途中で聞いた魔術という言葉。人間であるアリスにはよく分からなかった。魔法に似ているなぁなどと思っていた時,暗くて見えなかったはずの道から,足首を押さえている青年が見えた。


「大丈夫ですかっ!」

「だ,大丈夫……」


 アリスが上位魔法である【回復(ヒール)】で傷を回復させようと思っても,傷口が塞がらない。魔法をかけ始めてから十数分経った時,やっとアリスの目の前にいる青年が【神殺しの光】に攻撃された神なのだということを悟った。

 【神殺しの光】だとしても,神核の付近に攻撃されない限り死なない。しかし,魔法で回復しようとしてもできない。数十年かけた自然回復しか道はないのだ。


「魔法ってことは……君もセトの方なのかな」

「違います!セトじゃない方です!」


 セトではない方の神の名前は誰も知らない。噂によると,セト側に比べて名もなき神の側に人がつかないのは陣営表明の時になんと言えばいいのか分からないからというものもあるらしい。アリスが反応を見る限り,怪我をしている青年も名もなき神陣営のようだったので一緒に泊まれるところを探した。


「あの,名前はなんていうんですか」

「僕はアレンって言います。よろしくね」


 そこから暗くて不安になったり,迷ったはずの道は楽しくなっていた。しかし,アレンに出生を聞かれたアリスは気まずい感情になってしまう。

 その彼女の様子を心配したアレンは,


「大丈夫ですか?顔,真っ青になってますけど」

「えっ,あぁ……」


⦅なんとなく,なんでゼルセピナさんに私がイレギュラーなんて言われたのかわかった気がする⦆


 アリスの心の中にいつも宿る不安。それは,いつも孤独だというものから来ていた。誰かに話したい,という感情が抑えきれずについアレンに話す。


「私,過去がないんです。生まれてきてからずっとこの年齢と見た目で,こう見えても生きている年齢だって百年超えてるんです……これって普通のことなんですか?なら,なんで人間は死ぬんですか?」


 アレンは答えづらかった。おそらく,アリスという少女が名もなき神の言っていたイレギュラーという者なのだろう。しかし,そんなことを言ってしまったら彼女は悲しんでしまうのではないか。アレンはそう考えた。

 アリスの前にも,彼を見た人は何人もいた。しかし,誰も助けてくれなかった。それどころか,冷やかしまでしてきた輩もいる。

 そんな中で助けてくれたアリスに寄り添いたいと思った。


「そうなんだ……大変だったね。あっ,建物が見えてきましたよ!」

「本当だ!入ってみよう!」


 そう言って二人が入った建物は,運が良かったのか,名もなき神の陣営の拠点だった。中にいた人に聞くと,神を除いた名もなき神側についている人間は拠点にいる人だけとのことだ。しかし,本当に信仰している人はアリス以外誰もいない。大抵は少数派で勝ちたいという成り上がり願望のある者だった。


「皆さん,名もなき神を信仰していないんですか……?」

「そりゃあ,人前に現れないんだからよっぽど弱いんじゃね」


 アリスとアレンは彼らを半眼でじと目で見つめるばかりしか出来なかった。


 * * * 


「ヘルちゃん,やるねー。【風神】」


 アリスを逃がしてから一日が経った。なのにまだ決着どころか両者とも傷一つついていない。ゼルセピナが風神に変化したところで,再び争いを始めた。それは付近にいた人々や神ですらも殺していく。


「そのゴリ押しの術式,私は大嫌いだよ」

「物量で押さなくてもいけるんだけどねー。どう,楽しんでる?」


 もちろん,とヘルは満面の笑みで言う。久しぶりの手応えのある戦いに随分とご満悦のようだ。ゼルセピナが詠唱をしていると,ヘルが強制的に詠唱による計算を阻害した。


「それは……兵器っ!?」

「ふふっ,マリーさんって人から譲り受けたの。攻撃しないであげてね?」


 そう言うと,ヨルムンガンドと言った。すると,上空から円環の大蛇が出現した。ゼルセピナに向けて殺意高めの毒の水を吐き出してくる。


 この戦いは,しばらく続くのだろう。


「さてとっ,厄介なイレギュラーの女の子でも殺しに行きますかっとー」

「それだけはさせないよ!」


 ヘルは氷の城を造って他の兄弟を呼び出し,ゼルセピナは風神と化して全てを吹き飛ばす。それを隠れて見ていたのはプレーメスだった。彼はゼルセピナと違い,弱かった。

 彼はただ,二人の神の戦いをばれないように隠れて見ることしかできなかった。

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